久米裕選定 日本の百名馬

アイネスフウジン

父:シーホーク 母:テスコパール 母の父:テスコボーイ
1987年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:ダービー

▸ 分析表

アイネスフウジンのデビューは、1989年9月。勝ち上がりは、3戦目の未勝利戦(東京芝1600m)。続く4戦目に、GⅠの朝日杯3歳Sに挑戦し、サクラサエズリに2馬身1/2差をつけてみごとに優勝した。一躍3歳馬の頂点に立ち、翌年のクラシック戦線の有力候補となる。

年明け初戦の共同通信杯も、なんなく逃げきると、皐月賞トライアルの弥生賞に向かう。しかし、ここでは不良馬場のため、持ち前のスピードを発揮することができず、メジロライアンの4着に敗れた。 
 待望の良馬場で迎えた皐月賞は、朝日杯や共同通信杯で見せたスピードの再現が期待され、1番人気に支持される。2番人気がメジロライアン(父アンバーシャダイ)、3番人気ハクタイセイ(父ハイセイコー)、4番人気ツルマルミタマオー(父グリーングラス)と、父内国産種牡馬産駒が続く。

レースは、2番手を追走したアイネスフウジンが直線早めに抜け出してゴールをめざしたが、中団を進んでいたハクタイセイが、鋭い差し脚を発揮して先頭でゴール。アイネスフウジンは、クビ差の2着に惜敗。3着には、後方から追い込んできたメジロライアンが入り、結果的には人気馬が上位を占めた。
 そして迎えたダービーは、皐月賞のレースぶりから、距離が延びて期待の持てそうなメジロライアンが、1番人気に支持された。2番人気は、鞍上に武豊騎手を迎えたハクタイセイ。アイネスフウジンは、距離延長がやや不安視され、3番人気と評価を下げた。

ところが、レースは皐月賞とは異なり、絶好のスタートを切ったアイネスフウジンが先頭に立つと、そのままマイペースの逃げに持ち込み、戦前の不安を吹き飛ばして、メジロライアン(2着)、ホワイトストーン(3着)の追撃を完封して、逃げきり勝ち。タイムはダービー・レコードの2分25秒3。アイネスフウジンと鞍上の中野栄治騎手を称えて、東京競馬場内は「ナカノコール」で埋まった。ダービーにおける優勝コールは、このアイネスフウジンのレースが嚆矢となった。しかし、アイネスフウジンは、このレースの後、脚部不安を発症して引退し、種牡馬入りすることになった。

《競走成績》
2~3歳時に走り8戦4勝。主な勝ち鞍は、ダービー (G1・芝2400m)、朝日杯3歳S(G1・芝1600m)、共同通信杯4歳S(G3・芝1800m)など。2着は皐月賞(G1・芝2000m)。

《種牡馬成績》
ファストフレンド(東京大賞典、帝王賞=南関東交流G1・大井ダ2000m)、イサミサクラ(北九州短距離S、葵S)など。初年度から50頭平均の頭数に種付けされたものの、期待ほどの成績を残すことはできなかった。

父シーホークはフランス産で、7戦3勝。昭和49年(1974年)に、日本に輸入された。主な勝ち鞍は、クリテリウム・ド・サンクルー(芝2000m)、サンクルー大賞(芝2500m、2着はダイアトム)、そして仏ダービーは5着(1着はネルシウス=1971年輸入)。その父Herbager(仏ダービー馬)の影響を受け継ぎ、長距離で実績を残した。ただし、HerbagerがPhalarisの系列ぐるみの主導を明確に打ち出したシンプルな構造だったのに対し、シーホークの母Sea Nymphには、Fairway(=Pharos)の系統が母の母には1連しかなく、BMSのFree Manの中には、この系統が1連もない。また、母内のThe Tetrarchもクロスになれず、父母の傾向が万全ではなかったことが読み取れる。つまり、このことが、シーホークが競走馬として一流になりきれなかった血統的要因だったのである。

同馬の血統構成を8項目評価すると以下のようになる。
 ①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ シーホーク分析表

シーホーク自身の血統構成は以上の通りだが、種牡馬としては、Hurry OnやSans Souci といった特殊なスタミナや、Blandford、The Tetrarchを含むMahmoudを包含しており、当時の日本の繁殖牝馬の内容と丁度合う世代と、貴重な血を備えていた。その結果、種牡馬としては、アイネスフウジンの他、前年のダービー馬ウィナーズサークル、春の天皇賞を制したモンテプリンス・モンテファストの全兄弟、中長距離の個性派スダホーク(京都記念、AJCC)などを輩出している。

母テスコパールは不出走馬。しかし、自身の血統構成は、父のBMSまでは、桜花賞・オークスを制したテスコガビーと同じ組み合わせで、Nasrullahの3×4を呼び水にして、The Tetrarchのスピードを再現している。もしも無事であったならば、当時のレベルからすれば、準オープンのマイラー程度の力量を発揮しても不思議のない内容は、確保していた。そうした父母の間に生れたのがアイネスフウジン。

▸ テスコパール分析表

アイネスフウジンの血統では、まずNorsemanの4×4のクロスが発生している。Norsemanは、仏ガネー賞(芝2100m)などの中距離に実績を持つ馬で、Free Man(仏2000ギニー)、モンタヴァル(キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)らをだし、種牡馬としても実績を残している。このNorsemanのクロスは、中間断絶だが、その中で6代目からBlandford、Teddyが系列ぐるみのクロスとなって、アイネスフウジンのスタミナ源を形成している。

次いで、Blue Peterが5×5の系列ぐるみのクロスになっている。このBlue Peterは、St.Simonの4・5×4・5・6の系列ぐるみを主導とした、スピード・スタミナ兼備の一流配合馬で、6戦4勝、英ダービーと英2,000ギニーの2冠を制している名馬。このNorsemanとBlue Peterは、Canterbury PilgrimとSt.Simonによって結合を果たしているが、主導の明確性や、あるいは血の集合という点では、必ずしも万全な状態とはいえない。

また、祖父母4頭の中で、もっとも影響力の強いテスコボーイ内に、Norseman内に含まれているTeddyの血がないこともマイナス。近親度が強く、血のバランスが片寄ったPrincely Giftの影響力が必要以上に強くなったことも、アイネスフウジンの血統的限界と考えられる。ダービーのゴール後、ウィニングランもできないほど消耗していことなどは、そのひとつの現れかもしれない。

とはいうものの、現代では見られない欧州系主体の構造には、配合的妙味に通ずる部分が随所に見られることも確か。そのひとつとして、BMSがテスコボーイの繁殖牝馬は、NasrullahとHyperionを4代目に持つために、ランダムな配合では、この両者がクロスして、極端に近親度の強いアンバランスな形態になりやすくなる傾向がある。

ところが、シーホークの場合は、このNasrullahはもとより、Nearco、Hyperionを含まないために、両者のクロスが発生することなく、全体がバランスよくまとまっている。また、シーホークは、Nasrullahのクロスはなくとも、Mahmoud内にMumtaz MahalとThe Tetrarchを含み、Blue Peter内にもThe Tetrarchを含んでいることで、スピードの再現が可能となった。アイネスフウジンの配合でも、Mumtaz MahalとThe Tetrarchはクロスとなり、しっかりとスピードを再現しているが。スタミナ優位のシーホークが種牡馬として成功した理由の1つは、このスピードの血がちょうどよい位置に配備されていたためである。

 アイネスフウジンの血統を、8項目に照らして評価すると以下のようになる。
 ①=□、②=○、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=8~12F

アイネスフウジンは、1600mの朝日杯と、2400mのダービーという2つのGⅠレースを制しているが、自身の中で強い影響力を示していたBlue Peterが8Fの英2000ギニーと12Fの英ダービーを制していることは、面白い暗号といえるかもしれない。

アイネスフウジンは、スタミナ系といわれているシーホーク産駒でありながら、マイルの朝日杯を制し、ダービーをレコード勝ちしたことから、期待されて種牡馬入りを果たした。

産駒数は、
93年=50頭、
94年=47頭、
95年=52頭
と、平均的に推移していることからも、その期待のほどが分かる。しかし、産駒は、期待に反し、成績は低迷した。わずかに実績を残した馬も、自身の適性とは異なるダート路線(ファストフレンド)や、あるいは短距離馬(イサミサクラ)といったタイプの馬であった。

その理由として主に考えられることは、次の2点に集約される。
 ① 欧州系主体で、米系の血が1滴もない。
 ② テスコボーイの血の位置

まず、①については、アイネスフウジンが種牡馬として供用された当時は、日本の繁殖牝馬側に米系の血が浸透し始めた時期で、米系を含まないアイネスフウジンとの交配では、母系の中の米系に欠陥を生じる確率が高かった。ランダムに交配された繁殖牝馬を検証してみよう。

■アイネスブルーム(父Sadler’s Wells)
         (母Welsh Flame)

■コースダンサー(父ナイスダンサー)
        (コースライン)

■デュークプリンセス(父アスワン)
          (マウンテンデュー)

■エイシンデリケート(父The Minstrell)
          (母Hillsham)

■ナカミシュラン(父モガミ)
        (母ナカミサファイヤ)

以上、決して質の悪い牝馬ではなく、むしろ期待の高さがうがえる良血ぞろいである。アイネスブルームなどは、愛ダービー馬サルビルの近親で、当時1億円を超える高値で購入された馬である。これらの馬たちの血統は、いずれもNorthern Dancerを含むために、分析表をつくるまでもなく、Native Dancerに弱点が生じることがわかる。

②については、アイネスフウジン自身では、Nasrullah、Nearcoのクロスは発生しないが、ランダムな交配では、8割以上の確率で、Nasrullahがクロスになる。その結果、Princely Giftが強調されて、スタミナ勢力が弱まり、アイネスフウジンとは異なって、短距離タイプの配合となってしまう。その中にあって、比較的よくできた馬がイサミサクラ。その内容は、別紙分析表を参照していただきたい。

 ①=○、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=△
 評価=2B級 距離適性=6~9F

▸イサミサクラ 分析表

BMSが米系を含むラッキーソブリンだが、この馬の母方は欧州系主体で、Northern Dancerも4代目に後退しているので、弱点も軽微になっている。そして、Nasrullah、Nearco、Hyperionがクロスとなって、アイネスフウジンとはまったく異なる形態になっていることが読み取れるはず。

イサミサクラの場合は、テスコボーイ強調型で、他系統とのバランスがうまくいったケースだが、それでも、アイネスフウジンのようなスピード・スタミナのバランスのとれた血統構成にはなっていない。それが、②の根拠である。

アイネスフウジンの主な同期馬については、ハクタイセイの稿で解説しているが、ここでは、牝馬ながら朝日杯で2着と健闘したサクラサエズリの血統構成について簡単に解説しておく。

■サクラサエズリ(父サウスアトランティック、母サリーナス)
Nasrullahの4・5×5・5の系列ぐるみのクロスを主導にNever Bendを強調。Princequilloは、4・5×6の中間断絶ながら、その中のPrince Palatine、Gay Crusader、Papyrus、White Eeagleらをきっちりと押さえ、スタミナを補給している。欧米系の血の結合にスムーズさを欠き、血の統一性も欠いているが、父母の相性という点では絶妙である。生きている血の質だけでいえば、アイネスフウジンよりも上で、欧州オープンクラスの血統構成を示していた。

 ①=○、②=○、③=□、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 評価=1A級 距離適性=9~12F

▸ サクラサエズリ分析表

 

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