久米裕選定 日本の百名馬

バンブーアトラス

父:ジムフレンチ 母:バンブーシザラ 母の父:テスコボーイ
1979年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1日本ダービー

▸ 分析表

《競走成績》
3~4歳時に、8戦4勝。主な勝ち鞍は、日本ダービー(GⅠ・芝2,400m)、3着・神戸新聞杯(芝2,000m、1着=ハギノカムイオー)

《種牡馬成績》
 1983年から供用され、主な産駒には、バンブービギン(菊花賞)、アグネスパレード(チューリップ賞)、エルカーサリバー(日経新春杯)、マルシゲアトラス(京都3歳S)、バンブーパッション(コーラルS)、ストロングレディー(クィーンS)、プレイリークィーン(中山牝馬S)、シャインポイント(クローバー賞)などがいる。

父ジムフレンチは、米国産で、28戦9勝。7~10Fの距離で実績を残し、サンタアニタ・ダービー(ダ9F)、ドゥワイヤH(ダ10F)などを制し、ケンタッキー・ダービーはCanoneroⅡの2着、ベルモントSもPass Catcherの2着と好走している。その父Graustarkも、8戦7勝で、種牡馬としては、仏ダービー馬のCaracoleroや、米4歳チャンピオンのKey to the Mintなどを出している。そうしたRibot系を受け継ぐサイアーラインとして、ジムフレンチは、たいへん貴重な種牡馬であった。

ジムフレンチ自身は、Seleneの5×5、およびPhalarisの6×5を系列ぐるみにして、BMSのTom Fool(米年度代表馬)内Pharamondを強調した形態。Sunstarのスピード、Rock Sandのスタミナのアシストを受け、バランスのよい血統構成の持ち主であった。ただし、残念だったのは、母Dinner Pertnerの持つ米系の血を完全には生かしきれなかったこと。そして、全体をリードすべき主導勢力も、必ずしも多数派ではなかった。ケンタッキー・ダービーやベルモントSで、善戦はするものの、あと一息勝ちきれなかった要因を、その血統内に求めるとすれば、このあたりにあったと見て間違いないだろう。

ジムフレンチの日本での主な産駒は、このバンブーアトラスの他には、エーコーフレンチ(京都金杯)、シーナンレディー(ステイヤーズS)、ジムベルグ(フラワーC)など。また、JCを制したレガシーワールド(父モガミ)のBMSとして、その能力形成に多大な影響を示していた。

母バンブーシザラは、つくし賞などの特別勝ちを含めて、6勝の戦績をあげている。その母シザラは、バンブー牧場の基礎的牝馬で、ファストバンブー(スワンS、阪急杯)など、中堅クラスの産駒を輩出している。またその母Panganiは、アローエクスプレス(朝日杯3歳S)の母ソーダストリームの母でもあり、その系統からは、皐月賞馬ファンタストなどが出ていて、日本の競馬ではなじみの深い系統である。また、シザラの父Marsyasは、仏カドラン賞(4000m)を4回も制した馬で、Son-in-Law、Asterus、Sardanapaleなど、その構成する血から見ても解るとおり、スタミナのかたまりといった馬であった。

バンブーアトラスのBMSになるテスコボーイは、トウショウボーイ、ランドプリンス、キタノカチドキ、インターグシケン、テスコガビー、ホクトボーイなどの活躍馬を輩出し、日本競馬の一時代を築いた種牡馬であるとこは周知のとおり。

そうした血統的背景のもとに生まれたバンブーアトラス。分析表を見ると、まず父母間で5代以内同士でクロスしているのが、Hyperionの5×4で、これが当馬の主導勢力である。この血は、Gainsboroughへ続く父系とともに、母系のSeleneまでもが系列ぐるみのクロスを形成し、かなり強い影響力を示していることが解る。このSeleneの血は、父ジムフレンチ自身の主導を形成していたこともあり、それがHyperionの傘下に吸収されているということは、ジムフレンチの能力を再現する上でも有効と考えられる。

つぎに、影響度数値に換算される6代以内の血を検証すると、まずPharos(=Fairway)は、祖父母内Fair TrialのFairwayが、5代から系列ぐるみを形成している。主導のHyperionとは、Chaucer-St.Simon、Cylleneを共有して結合。Mahmoudの6×5も、Gainsborough、Canterbury Pilgrimで主導と結合し、主にスピード勢力として、能力をアシストしている。

つぎに、Teddyの6×6は、Bay RonaldとBend Orによって主導と結合。Son-in-Lawの6×5も、Bay RonaldとGalopinで、SardanapaleとWilliam the Thirdが、St.Simonで結合している。これらの血は、いずれもMarsyas内に含まれている血で、主にスタミナのアシストとして、能力形成に参加している。

そして、父内で呼応しているSardanapaleやBachelor’s Doubleといった血は、Ribotに含まれて、隠れたスタミナ要素になっていることもあり、それらのアシストを受けたテスコボーイ内のHyperionは、相当にスタミナを強化されたHyperionへと、能力変換を遂げていると考えられる。また、スタミナ強化をより確定的にした要素として、ジムフレンチがNasrullahとNearcoの血を含んでいなかったことにも、留意しておく必要がある。NasrullahとNearcoといえば、当時もいまも、主流の血である。そうした流行とは離れて、別の系統で血を構成させることは、種牡馬あるいは繁殖牝馬として、ときとして名馬を生み出す重要な血統的要素の鍵をにぎることになる。

バンブーアトラスの父ジムフレンチと母バンブーシザラの配合は、まさしくその典型であり、分析表上で、テスコボーイの父Princely Gift内の5代以内には、クロス馬が発生せず、Hyperionの血だけがみごとに強調されていることが確認できるはず。以上を、8項目に照らして評価すると、以下のとおりになる。

 ①=◎、②=○、③=◎、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=◎
 総合評価=2A級 距離適性=9~15F

Hyperion主導の明確性と、強固な結合力、一言でいえば、これがバンブーアトラスの血統構成に示された強さの秘密である。

バンブーアトラスは、ダービー以外に重賞勝ちはなく、ダービートライアルのNHK杯も6着(1着アスワン)と敗れている。したがって、本番のダービーにおいても7番人気と注目度は低く、波乱の立役者といった程度の評価でしかなかった。その背景として、同期の東西のチャンピオンであるホクトフラッグ(朝日杯3歳S)、リードエーティー(阪神3歳S)や、後に「幻のダービー馬」と称されたサルノキングの故障、セリ市で1億8,500万円という、当時としては空前の高値で取引されたハギノカムイオーの調整遅れなどもあった。

また、秋初戦の神戸新聞杯で、そのハギノカムイオーの3着に敗れたことも、ダービー馬バンブーアトラスの能力評価がいま一つ上がらない理由にもなった。なお、アトラスは、この神戸新聞杯で故障を発生し、結局引退することになった。

しかし、2400mというクラシック・ディスタンスを基準として構築されたI理論の評価においては、上記の馬たちの他、同期の皐月賞馬アズマハンターや、菊花賞馬ホリスキーと比較しても、バンブーアトラスの内容は決して劣ることはなく、一流の血統構成の持ち主であったことは間違いない。ダービーでは、1000mの通過が59秒6という速いラップのペースでも、好位に付けてレースを進め、直線で抜け出すという横綱相撲を演じ、勝ちタイムも、ダービー史上で初めて2分27秒台の壁を破る2分26秒5というレコードを記録。このことも、血統構成の優秀性を証明するもので、日本ダービー馬の中でも、ベスト10以内にランクされるだけの内容を持っていたことは、明記しておきたい。

バンブーアトラスは、引退した翌年の1983年から種牡馬として供用され、前記のとおり、菊花賞馬のバンブービギンをはじめ、GⅡ~GⅢ級のオープン馬を輩出し、地味な存在ながら、種牡馬としてそこそこの実績を残すことができた。ただし、コンスタントに勝ち上がり馬を出すタイプではなく、当時の繁殖牝馬の傾向からすれば、どちらかといえば、配合の難しい種牡馬といえたかもしれない。

その理由として、バンブーアトラスの父ジムフレンチが、アメリカ産ということもあって、Tom FoolやBlue Larkspurといったを血を含んでいたことがあげられる。つまり、バンブーアトラスが登場する以前の日本は、パーソロン、テスコボーイ、アローエクスプレス、チャイナロックなどの欧州系種牡馬が主体であり、現代とは異なり、繁殖側に米系と対応できる要素が不足していたからである。そのために、、母バンブーシザラのよさは生かせても、父ジムフレンチ内に不備を抱えるケースが多く見られたのである。

そうした中で、Man o’WarやSir Gallahadの血を含むNever Say Die系のネヴァービートやダイハードを持つ繁殖であれば、ジムフレンチを最低限生かすことができた。その代表的事例がバンブービギンだったのである。

バンブービギンの血統表を参照していただきたい。5代目同士のクロスとして、Hyperion以外に、Nasrullahの5×5ができてしまうことは、血の集合の明確性という点では必ずしもベストとはいえず、父ほどの迫力は望めない。しかし、バンブーアトラスの配合としては、当時としては珍しく、Tom FoolやGraustarkのスピード、スタミナのキーホースを押さえることができた。さらにノーザンテーストの弱点である、Victoria Park内の血も押さえられたことは、読み取れる。

そしてもうひとつ付け加えたおきたいことは、母の母内クレイマントの血の存在である。クレイマントは、英国産で、18戦4勝。その4勝が、すべて12Fといった、スタミナ優位の馬であった。1961年に日本に輸入されたが、種牡馬として不成功に終わっている。しかし、このバンブービギンの中では、Ribot内のGay Crusader、Sardanapale、Persimmonといった、隠し味的なスタミナの呼び起こしに一役買っているのである。バンブービギンは、テスコボーイやノーザンテーストの影響が強く、本質は中距離タイプの配合形態だが、菊花賞を制することができたことの背後には、このクレイマントの効果があったことは、間違いないだろう。

バンブーアトラスは、Ribot系を受け継ぐことで、サイアーラインとして、日本では貴重な存在である。構成されている血を見ても、サンデーサイレンスとも共通するHyperionとMahmoudの血の流れを持っていることが解る。ブライアンズタイムの中でスタミナを供給しているGraustarkを3代目の位置に持ち、さらにトニービンにも似た欧州系のスピードも持つというように、まさに現代的な構造を備えた種牡馬であった。しかし、残念ながら、サイアーラインとしては劣勢で、その仔バンブービギンは、ノーザンテーストを含むために、後継種牡馬としての可能性は極めて低いと言わざるを得ない。となれば、あとは、繁殖牝馬の血の中にあって、相手の種牡馬を生かす役割に期待したいものである。

▸ バンブービギン分析表

バンブーアトラスの世代は、三冠レースの勝ち馬がすべて異なり、その翌年からミスターシービー、シンボリルドルフと、2年連続で三冠馬が誕生することになる。その意味でも、アトラスの世代は、いささか影が薄い。それでも、この世代は、バンブーアトラスをはじめ、すでにこの「百名馬」で解説した皐月賞馬アズマハンターなど、日本馬が欧州系主体から、欧米混合型へと変化を遂げる転換期のパターンとして、参考になる部分は多い。

そこで、最後に、Alydarの全兄ホープフリーオンの産駒ロングヒエン(マイラーズC)と、Bold Rulerの直仔のファーストドーン産駒のシルクテンザンオー(シンザン記念)、そして皐月賞・ダービーで2着と健闘したワカテンザンの分析表を掲載し、以下に8項目評価を記しておく。転換期の馬たちの血統内容を検証してみていただきたい。

■ワカテンザン
 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~10F

▸ ワカテンザン分析表

■シルクテンザンオー
 ①=○、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=6~9F

▸ シルクテンザンオー分析表

■ロングヒエン
 ①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=○、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~11F

▸ ロングヒエン分析表

 

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