久米裕選定 日本の百名馬

チョウカイキャロル

父:ブライアンズタイム 母:ウィットワタースランド 母の父:Mr. Prospector
1991年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1優駿牝馬、G1エリザベス女王杯――2着

▸ 分析表

【久米裕選定 日本の百名馬 羽鳥昴・補完その2】

久米先生の百名馬を、ホームページのリニューアルに伴い掲載しはじめてから、早や6年以上が過ぎた。その原稿をホームページ用に編纂しつつ、そして私自身が読み手ともなりながら、ここまでに掲載した馬はその数96頭。それがもう間もなく完成を迎えることになる。

すでに掲載を終えた馬の中には、ナリタブライアンやナリタタイシン、スペシャルウィーク、グラスワンダーなど、私自身が実際にその走りを目にし、その強さが未だ鮮明に焼きついている馬たちもいた。また、過去の映像でしかその走りを知ることのできないテンポイントやトウショウボーイ、グリーングラス、ハイセイコーなど、かつて一時代を築いた馬たちもいた。

さらには映像すら残っていないトキノミノルやセントライト、クリフジなどまで、その血統構成やクロス馬の変遷を久米先生の文章と共に振り返る旅は、時に楽しく懐かしく、そして時に改めて考えさせられる有意義なものであった。

前回は、百名馬に足りなかった3頭の補完のうち、最初にエイシンワシントンを挙げた。そして今回が2頭目となるわけだが、次にはチョウカイキャロルを挙げることを、編纂をはじめた時から決めていた。

この馬も、ブライアンズタイム産駒として、ナリタブライアンと双璧を為す優秀な血統構成のもち主であり、初年度産駒の牝馬の活躍馬として見事オークスを制し、種牡馬としてのブライアンズタイムの名を高めた1頭だからである。

《競走成績》
3~4歳時に走り、12戦4勝。主な勝ち鞍は、オークス(G1・芝2400m)、中京記念(G3・芝2000m)など。

《繁殖牝馬成績》
チョウカイシャトル(父ピルサドスキー)が準OPを勝った程度で、期待ほどの成績を残せないまま繁殖を引退、現在は功労馬として繋養されている。

父ブライアンズタイムに関しては、百名馬のナリタブライアンの中でも解説されているので重複する部分もあるが、いま一度解説しておこう。

同馬の配合のポイントは、父RobertoがHyperionを含まず、逆に母Kelley’s Day がNasrullahを含まなかったことが一つの要因となり、Sir Gallahad(=Bull Dog)がその母Plucky Liegeを通じて系列ぐるみのクロスとなり、全体をリードするとともに、スタミナの核を形成していること。また、スピードはMumtaz MahalとSundridgeからアシストを受けており、なかなかバランスのよい配合である。

ただし、前面で全体をリードするSir Galahadが母内は1連しか存在せず、必ずしも多数派とは言えないことは惜しまれ、ここが実際の競走でも「あと一歩」足りない要因となっていたものと判断できる。しかし、それ以外に大きな不備はなく、なかなかしっかりした配合であることは間違いない。

8項目をチェックすると以下のとおり。
 ①=○、②=○、③=□、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○ 
 評価=1A級、距離適性=芝9~12F、ダ8~11F

▸ブライアンズタイム分析表

また、ブライアンズタイム自身は米国のダートで実績を残したが、血統構成上は父Roberto(英ダービー馬)が強調されていることから、本質は芝への適性が高かったものと考えられる。それは、同血馬サンシャインフォーエヴァー(母同士が全姉妹)の実績により証明された。

対する母ウィットワタースランドは、米国産で12戦2勝。芝9FのG3勝ちがある程度で競走成績はそれほどではないが、当時流行していたMr. Prospector牝馬という血統を買われ、繁殖牝馬として輸入されたものと思われる。

その内包する血を見てみると、父は当時のアメリカ血統のスピードの担い手Mr. Prospector、母系はVaguely Nobleのスタミナ、Northern Dancer、欧州系のMy Babu、そして米系のUnbreakable、Displayと、欧米混在型の血のもち主。ただし、自身の配合では、大きな不備はない代わりに、父内はTeddyとBull Dog、母内はVaguely Noble内Nearcoの影響が強く、血の位置関係にちぐはぐな面があることや、父内Whisk Broomの世代ズレなどもあり、決して一流の配合とはいえなかった。

▸ウィットワタースランド分析表

ちなみに、ウィットワタースランドはManilaの仔を受胎して輸入され、日本で牡馬を出産した。ショウナイと名づけられたその馬は、中央9戦未勝利で引退している。参考までにその分析表も掲載してみた。

同馬は、Northern Dancer3×4の中間断絶というその後の流行を先どりしたような配合であった。また、全体を通じて大きな不備もなく、分析表からは勝ち上がれないほどの内容ではない。しかしながら、同時にNasrullah5×5が系列ぐるみを形成し、強い影響を示しており、位置関係からはこのNasrullahの影響の方が強く、せっかくのNorthern Dancerクロスが呼び水としての機能を果たし切れていないことなど、父母の傾向は万全とは言えず、父Manilaを生かす意味でも、母ウィットワタースランドを生かす意味でも、中途半端となってしまっている。

▸ショウナイ分析表

この血統的なマイナス要因と近親度の強さによる仕上げにくさ、そして明らかに中距離以上に適性をもつだろうこの馬をローカル・平坦の短距離をメインに出走させたことなど、複合的な要因が重なり、同馬は未勝利のまま競走生活を終えてしまったのだろう。

同馬の次に、ウィットワタースランドの日本での産駒として、ブライアンズタイムとの交配で誕生したのがチョウカイキャロルである。

チョウカイキャロルは、半兄のショウナイとは対照的に、前面でクロスしているのはNashua4×4の中間断絶のみである。このNashuaは、母内の主体であったNearcoと父ブライアンズタイムの主導Sir Galahad(=Bull Dog=Nectarine)-Teddy系を結合させる上で非常に有効な血であり、このNashuaを呼び水に父母それぞれ自身のマイナス要因をうまく補完できたことが、同馬の配合の最大のポイントである。

そして、RobertoやGraustark、Vaguely Nobleのスタミナ、Mr. Prospector、Hasty Roadなどの米系スピードを、Nashuaの傘下に見事収め、欧州系の質の高いスタミナを主体に、そこに米系のスピードを融合させた、非常に優秀な血統構成のもち主であった。

同馬の血統構成を、8項目評価に当てはめると以下のとおりになる。
 ①=○、②=◎、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=◎、⑧=○
 評価=2A級、距離適性=芝10~15F、ダ8~12F

ただし、それだけに、同馬の中で再現された血は明らかに晩成傾向を示しており、早熟スピードタイプの方が有利となる3歳春のクラシック路線で、距離は2400mのオークスとはいえ、同馬のようなスタミナ優位の配合馬が勝つことは稀な例といっても過言ではない。

そのチョウカイキャロルの手綱を、デビューから一貫して取ったのは故小島貞博元騎手(元調教師)であった。同騎手は、所属していた戸山為夫調教師が病気で亡くなった後、戸山師の管理馬で怪我により長期休養していたミホノブルボンと共に行き場を無くし、同じ戸山厩舎の門下生で兄弟子の鶴留明雄元調教師がブルボンを引き取り、小島騎手にも積極的に騎乗機会を与えていた経緯があり、その1頭としてチョウカイキャロルと出会ったのである。

チョウカイキャロルは、小島騎手を背に1月初旬のダート1800mでデビュー勝ちを飾り、次いで500万下の混合レース・セントポーリア賞でオフサイドトラップの2着に入り、芝への適性もクリアした。そして桜花賞を視野に入れ、中山のG3フラワーCに出走し1番人気に推されたが、結果はオンワードノーブルの3着。これにより賞金を加算できず桜花賞には出走できないため、目標をオークスに切り替えての立て直しとなった。

しかしながら、理論からの見解では、むしろこれは同馬にとって幸運であったと言えるだろう。明らかに距離不足の桜花賞では、たとえ出走していてもその持ち味であるスタミナを生かすことができず、馬群に沈んだ可能性が高いからである。それは、実際にこの年の桜花賞を、オグリキャップの半妹として注目を集めたオグリローマン(父ブレイヴェストローマン、詳細は後述するが、理論上は早熟タイプ)が制したことからも窺い知ることができる。

目標をオークスに切り替えたチョウカイキャロルは、前哨戦の1つOP忘れな草賞を先行策から押し切って4馬身差で圧勝し、無事オークスへと駒を進めた。そして、オークス当日。1番人気は桜花賞馬オグリローマンで、チョウカイキャロルはそれに次いでの2番人気であった。スタートが切られ、メローフルーツ、ナガラフラッシュ、そしてテンザンユタカと3頭が先行する中、チョウカイキャロルはそれを見る2番手集団の内々を楽な手応えで追走し、4コーナー手前あたりから先頭集団に並びかけると、そのままうちラチ沿いに脚を伸ばし、大外から猛追してきたゴールデンジャックを3/4馬身差で退けて優勝した。

今思えば、先行してこそ持ち味の生かせるこの馬を、無理に抑えることなく行く気にまかせさりげなくリードした小島元騎手のその騎乗が、チョウカイキャロルの良さを引き出せた1つの要因であったことは間違いない。小島元騎手は、チョウカイキャロルの他に、ミホノブルボンやレガシーワルド、そして珍しいところではテンポイントの全弟キングスポイントで中山大障害を勝つなど、理論の高評価馬に騎乗する機会が多かったように思う。それも何かの縁のようなものだったのかもしれない。

オークス優勝後、夏を越したチョウカイキャロルは、エリザベス女王杯を視野に入れ、前哨戦のG2サファイヤSから復帰を果たした。しかし、このレースでは、逃げたテンザンユタカを捉えきれず、1と3/4馬身差の2着に甘んじてしまう。そして、迎えた本番で、チョウカイキャロルの前に立ちはだかったのは、G2ニュージーランドトロフィーやG3クリスタルCで牡馬を一蹴してきた「女傑」ヒシアマゾンであった。

同馬は、外国産馬のため、当時春のクラシックには出走できず、裏街道で5連勝中であった。そして、すでに、ヒシアマゾンは、G2ローズステークスで、同期のライバルたち――ゴールデンジャックや桜花賞馬オグリローマン、アグネスパレードらを圧倒しており、エリザベス女王杯でもチョウカイキャロルを抑えて1番人気に推されていた。

フルゲート18頭で行われたレースは、ゲートが開くと同時に、逃げ宣言をしていたバースルートが飛び出し、他馬を大きく引き離す大逃げを打った。大きく離れた2番手にやはり逃げ馬のテンザンユタカがポツンと逃げのような形で追走し、チョウカイキャロルは6番手あたりで先行グループの一角を形成し、これを追っていた。ヒシアマゾンは追い込みのスタイルが確立しはじめた時期でもあり、スタートは五分だったもののすぐに後ろに下げ、後方待機策を取っていた。

向こう上面あたりで、ヒシアマゾンが外を回りながら徐々に順位を上げ始めたところからレースは動き始め、同馬は4コーナーの手前ではチョウカイキャロルの少し後ろのあたりまで接近していた。そして、4コーナーを曲がってからの直線の攻防では、チョウカイキャロルはいったん先頭に立ったように見えたものの、大外のヒシアマゾンと馬体を合わせる形の追い比べになり、ほんのわずかのハナ差で惜敗してしまう。

ここでそのヒシアマゾンの分析表を見てみよう。

▸ヒシアマゾン分析表

まず目に飛び込んでくるのは、Nearctic4×3が系列ぐるみを形成し全体をリードした、近親度の強い配合であるということである。次に、このNearctic内の直結しているクロス馬の状態を見てみると、NearcoやHyperion、そしてPharosといった主要なクロス馬が集約されていることが読み取れる。また、PapyrusはTraceryを介して、Sir Galahad(=Bull Dog)はSpearmintやAjaxなどを介して、それぞれNearcticと結合を果たしている。

さらに、米系のMan o’WarもSainfoinを通じてNearcticと連動しており、Nearcticへの血の集合力を備えていたことがわかる。この血の集合力が、同馬のあの差し脚の源だったわけである。ちなみに、このヒシアマゾンのことを久米先生はずっと基本はマイラーだとおっしゃっていた。もちろん、私も同じ意見である。その理由としては、以下のことが挙げられる。

 ①父の母方SassafrasのスタミナのキーホースであるHurry Onが欠落しており、そのス
  タミナの再現が万全ではない。
 ②同様に、キングスベンチのスタミナを再現するキーホースHurry Onが欠落している。
  キングスベンチ自身は、2~3歳前半の6~7F勝ちしか実績がなく(英2000ギニー
  も2着)、マイラーと分類されているが、実際には別紙分析表のとおり、Hurry Onや
  Son-in-Law(英ステイヤー)などのスタミナを再現した配合であった。ヒシアマゾン
  の中では、このキングスベンチの中のHurry Onが欠落した代わりに、The Tetrarchが
  クロスし、スピード色が濃くなっていると判断できる。
 ③母Katies内は、Fighting FoxやPapyrusがクロスになり、これがスタミナ源となっている
  ので、まったくスタミナがないわけではない。
  しかしながら、仏マイラーのノノアルコの影響が圧倒的に強いこと、ここへの集合力が
  能力の源泉であることから、スローペースの上がり勝負でこそあの切れが発揮できたはず。

同馬の8項目評価は以下のとおり。
 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 評価=3B級、距離適性=芝6~9F、ダ6~9F

こうしてヒシアマゾンとチョウカイキャロルの分析表を改めて見比べてみると、それぞれの血統構成から読み取れる特徴が脚質・レースぶりにも表れていたのである。

チョウカイキャロルとヒシアマゾンは次のレースを共に年末の有馬記念としたが、ここには同世代最強馬ナリタブライアンも出走してきた。そして、ネーハイシーザーやアイルトンシンボリ、ライスシャワーなどの古馬勢をものともせず、圧勝したのはナリタブライアンであった。

ヒシアマゾンは、いつもの後方待機ではなく、先行したナリタブライアンをマークする形で中段から脚を伸ばしたが、2着に入ったとはいえ最後までその差は縮まらなかった。チョウカイキャロルはナリタブライアンの直後あたりにつけ、先行したものの、8着に敗れて3歳を終えた。

明けて4歳になったチョウカイキャロルは、G2京都記念4着、G3中京記念優勝、続くG3京阪杯2着、と牡馬と混合の中距離路線で健闘を見せた。しかし、その年の春競馬の締めくくり――G1宝塚記念でライスシャワーが予後不良となり命を落とした陰で12着と惨敗した後、真菌性喉嚢炎という喉の病気を発症していることがわかり、長期休養を余儀なくされてしまった。そしてその後、復帰叶わぬまま引退繁殖入りが発表された。

母ウィットワタースランドは、チョウカイキャロルと半妹チョウカイウイット(父ブレイヴェストローマン)の2頭の牝馬を遺しただけで早世しており、チョウカイキャロルがその後継として、血統も実績も期待されていたことは確かである。そして、初年度はサンデーサイレンスと交配され、オークス馬×父サンデーサイレンスとして期待を受け誕生したのがチョウカイウエストであった。

同馬は、デビュー戦の芝1600mで7馬身差の圧勝を飾り、最初は将来を期待されたのだが、結局その後は1勝もできず、残年ながら大成はできなかった(喉鳴りだったという情報もある)。
チョウカイウエストには、同じ冠名で、フライト、カイザー、サンデーという全弟がいるが、このうちフライトが芝とダ両方で2勝ずつ計4勝、サンデーが芝中長距離で3勝を挙げただけで、期待ほどの実績を残せていない。では、理論上はどうだったのか、以下のチョウカイウエストの分析表を見ながら解説してみたい。

▸チョウカイウエスト分析表

まず前面でクロスしているのはHail to Reason3×4の単一で、これがNearcoと米系のSir Galahad(=Bull Dog)-TeddyやBlue Larkspur、Man o’Warなどとを結びつける役割を果たしている。繁殖としてのチョウカイキャロルは、St. Simonが10代以降に後退しており、Bay Ronaldも9代目に1つしかない。これは、St. SimonやBay Ronaldが10代以降に後退し、代わってPhalarisやGainsboroughが土台構造を支え、やがてPharos-NearcoやHyperionへと移行する流れの初期の時期の繁殖であったことを意味し、その土台構造の弱さをカバーする上でHail to Reasonが前面で血をまとめ、有効に作用していたと判断できる。

次に、Almahmoudは父内4代母内7代で世代ズレしているが、これはサンデー自身がMahmoudの系列ぐるみで全体をリードした形態であったことからも、父の傾向を生かす上で、Almahmoudのクロスの影響はないか、あってもごくわずかであった方が都合がよい。従って、同馬のケースではプラス材料と判断できる。その父のスピードと母内ブライアンズタイムやVaguely Nobleのスタミナが再現されており、サンデー産駒としてはなかなかスタミナに良さのある血統構成のもち主だったことがわかる。

8項目に当てはめると、
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 評価=1A級、距離適性=芝9~12F、ダ8~11F

ところが、この全兄弟4頭は評価に見合うほどの良績を残せなかった。それを配合面から推測すると、やはり母チョウカイキャロルからのアシストがブライアンズタイムやVaguely Nobleなどスタミナ優位で、意外にスピード要素が少なかったことが要因と考えられる。3代父はMr. Prospectorだが、この部分もNasrullahがクロスにならず、日本ではいま1つ芝適性の低いSir Galahad(=Bull Dog)-Teddyの影響が強いため、同馬のケースでは十分なスピード勢力とは言えず、高速馬場へと変化しはじめた日本の馬場に適応が難しかったのだろう。

チョウカイキャロルは8頭の産駒を産んだが、その中のチョウカイシャトル(父ピルサドスキー)がダートでOP入りした程度で、チョウカイフレンチ(父フレンチデピュティ、中央未勝利)を出産した以後は不受胎が続き、そのまま繁殖牝馬を引退している。

ちなみに、前述のチョウカイシャトルについても血統構成を解説しておこう。
位置と系列ぐるみの関係から、Northern Dancer4×3の中間断絶を呼び水に、Turn-to、Nasrullahの系列ぐるみからスピードのアシストを受けた形態で、これにAlibhaiやDjebelなどのスタミナが加わっており、大きな不備もない。しかしながら、クロス馬の種類の多さが示すとおり、血の統一性に欠けており、芝のスピード対応に不安を残す内容であった。従って、同馬がダートで実績を残したことも血統面から頷けるものがある。

同馬を8項目に当てはめると以下のとおり。
 ①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 評価=2B級、距離適性=芝9~12F、ダ8~10F

▸チョウカイシャトル分析表

一般レベルで言えばそこまで悪い内容ではなく、チョウカイキャロルのスタミナもある程度再現されており、そのスタミナが同馬のダートでのしぶとさの源であったことは想像できる。とはいえ、それでも父母それぞれの優秀性を考慮した場合、歯がゆさが残ることは否めない。

繁殖牝馬としてのチョウカイキャロルは、自身の血統構成がそうだったように、そのアシストもスタミナ優位であり、日本の馬場ではコンスタントに活躍馬を送り出せるタイプとは言えなかった。それが、産駒不振の1つの要因となっていたのは明らかである。もしも繁殖牝馬としてもそれに相応しい実績を残せていたなら、現在の活躍馬の母系にその名が刻まれ、1大牝系の1つになっていたなら、その走りを実際には知らない世代にもその名はもう少し知られていたかもしれない。

奇しくも、ライバルであったヒシアマゾンも、引退後米国に渡り繁殖生活を送ったが、結局これといった産駒実績は残せなかった。ヒシアマゾンの半姉ホワットケイティーディドとケイティーズファーストの2頭を通じてその牝系が受け継がれ、そこからアドマイヤムーン(ジャパンC、宝塚記念など)やスリープレスナイト(スプリンターズS)などのG1馬が出ていることを考慮すると、母系としての軍配はヒシアマゾンの方に上がるのかもしれないが…。

それでも記憶の中に残るチョウカイキャロルは、忘れな草賞からオークスまで本当に強かった。エリザベス女王杯でもハナ差で敗れはしたが、ヒシアマゾンとの名勝負を繰り広げ、負けてなお強しの印象を残した。まさに、百名馬の1頭に相応しい走りを見せてくれた優秀な血統構成馬であったことは間違いない。

最後に、他のライバルたちの血統構成にも簡単に触れてみたい。

■オグリローマン
①=○、②=△、③=○、④=□、⑤=△、⑥=□、⑦=□、⑧=△
評価=2B級、距離適性=芝6~9F、ダ6~9F

▸オグリローマン分析表

オグリキャップ(父ダンシングキャップ)の半妹として公営笠松から中央入りし、注目を集めた馬。Nasrullah3×5で全体をリードした明確性と血の集合力に良さがあり、確かに早期からスピードを発揮できたことは確か。これが桜花賞勝ちに繋がったものと判断できるが、父ブレイヴェストローマンの影響が強すぎ、全体バランスを崩しており、スタミナの核も不足していた。オークスでの1番人気を裏切り惨敗したことや、それ以後の不振もこの血統構成から窺い知ることができる。

■ゴールデンジャック
①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=○
評価=3B級、距離適性=芝8~11F、ダ6~10F

▸ゴールデンジャック分析表

Tom Foolの中間断絶を呼び水に、その中に血をまとめた形態で、血の結合状態も良好。それだけに残念なのは、強調された祖母自身が、米系のBuckpasserに特殊な仏系の血が主体の母を配した血の統一性に欠ける配合であること。とはいえ、一般レベルでいえばなかなか優秀な内容で、芝・ダートを問わず、中距離でスピードを発揮できる形態。ゴールデンジャック自身は、主に芝で活躍したが、全弟のスターリングローズがJBCスプリントを制し、ダート巧者の一面も証明した。

■アグネスパレード
①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=○
評価=3B級、距離適性=芝8~12F、ダ8~10F

▸アグネスパレード分析表

Nasrullah5×5は中間断絶で影響が弱まり、Fair TrialとHyperionの系列ぐるみで全体をリード。Lady JurorやMumtaz Mahal、The Tetrarchのスピード、PapyrusやSon-in-Lawなどからスタミナのアシストを受け、全体バランスも良好。G3チューリップ賞を含めた2勝しかしていないが、G2ローズS2着、G1エリザベス女王杯3着、G3京都金杯2着など、3歳秋以降も好走したのは、血統構成の良さの片鱗の表れと言えるだろう。

■ツィンクルブライド
①=○、②=△、③=□、④=△、⑤=△、⑥=□、⑦=□、⑧=○
評価=2B級、距離適性=芝8~10F、ダ6~9F

▸ツィンクルブライド分析表

影響度数字が示す通り、父Lyphardの影響が圧倒的に優位の配合。父とBMS=Cozzeneが呼応し、Nearcoの系列ぐるみを主体に、Hurry OnやRabelaisなどのスタミナが再現されたことは読み取れ、仕上がった時の意外性は秘めていた。ただし、祖母内の世代後退やこの部分の主要なクロスであるBlack Toneyが父内は9代目に1つしかないなど、クロス効果に不安の残る内容で、ムラ駆けするタイプであった。

■ローブモンタント
①=□、②=□、③=□、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=△、⑧=△
評価=1B級、距離適性=芝~9F~、ダ~9F~

▸ローブモンタント分析表

BMSリマンドをはじめ、祖母内もペール(=パーソロン全弟)やワラビーなど、母は欧州系で占められた繁殖で、父リアルシャダイ内の米系に不備を抱えた配合。異系交配により、不備は多少軽微とは考えられるが、それでも父の良さは半減しており、配合上の妙味に欠けることは否めない。桜花賞3着の後、故障により早期引退したが、仮に現役を続けていても将来的な上積みは期待しにくい内容であった。

■フサイチカツラ
①=○、②=○、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=◎、⑧=◎
評価=2A級、距離適性=芝9~12F、ダ8~10F

▸フサイチカツラ分析表

Nearcoの系列ぐるみを主体に、父の父Northern Dancerを強調。Nasrullahからスピード、HyperionやTourbillonなどからスタミナのアシストを受けた欧州タイプの配合。PapyrusやGay Crusader、The Boss-Orbyなどもきめ細かく押さえており、本来なら重賞で活躍しても何ら不思議のない優秀な血統構成のもち主であった。同馬がいま一つ勝ち切れなかった原因を血統構成に求めるならば、やはり父Sadler’s Wellsの内包する血が、日本馬場へのスピード対応に不向きだったということに尽きるだろう。

■メモリージャスパー
①=○、②=○、③=□、④=○、⑤=□、⑥=○、⑦=○、⑧=○
評価=1A級、距離適性=芝9~12F、ダ8~9F

▸メモリージャスパー分析表

NearcoとMenowの系列ぐるみを主体に、Bull Leaからスタミナを補給し、父の父Nijinskyを全開させたことが当馬のポイント。また、特殊な仏系のスタミナも、RabelaisやSwynford-John o’Gauntなどを通じて主導のNearcoやMenowなどと結合を果たしており、難しさをもつイルドブルボンへの配合としてはなかなか優秀な血統構成馬であった。同馬は、放牧中に病死してしまっており、産駒を残せなかったことが惜しまれる。全体的にスタミナ色が強く、コンスタントに活躍馬を輩出できるタイプではなかったが、配合次第では母譲りのしぶとさ・大崩れしない堅実味を備えた産駒も期待できたはずである。

 

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