久米裕選定 日本の百名馬

カネミノブ

父:バーバー 母:カネヒムロ 母の父:パーソロン
1974年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:有馬記念

▸ 分析表

カネミノブのデビューは、1976年(昭和51年)9月12日(5着)。そして初勝利は2戦目の同月26日の新馬戦である。この年は、1歳上の世代のテンポイント、トウショウボーイ、グリーングラスがそれぞれ三冠レースを分け合い、「3強」を形成し、3頭の頭文字をとった「TTG時代」の幕開けともいわれた。彼らの活躍は、いわば、ハイセイコーが果たした競馬の大衆化を、単なる一時的なブームではなく、定着させる役割を果たしたといえる。

また、カネミノブの同期では、持込馬のマルゼンスキーもデビューを果たしている。朝日杯3歳Sでは、1分34秒という破格のレコード勝ちを果たし、競馬ファンの間では、別次元の性能を持つ馬の表現として、「外車」という形容詞が使われるようになった。当時の持込馬にはクラシックレースの出走資格が与えられていなかったので、同馬を欠いた皐月賞、ダービーは、前年の3強世代とは対照的に、盛り上がりに欠けるクラシック戦線となった。その意味で、皐月賞馬ハードバージ、ダービー馬ラッキールーラ、そしてこのカネミノブたちは、地味な存在というのが、当時の一般的な印象だった。

カネミノブは、ダービー3着という実績は残したものの、3歳時の勝ち鞍は、8戦して函館の大沼Sの1勝のみ。頭角を現してきたのは、古馬(4歳)の5月、アルゼンチン共和国杯で重賞を初制覇してからである。ただし、続く日経賞は連覇したが、休養後の秋には毎日王冠2着(1着=プレストウコウ)、目黒記念も2着(1着=リュウキコウ)と惜敗が続き、その後の天皇賞も5着(1着=テンメイ)の成績で終わった。そのために、暮れの有馬記念では、9番人気と、低評価に甘んじることになった(1番人気=プレストウコウ)。

しかし、その評価に反発するかのように、レースは堂々の横綱相撲でのレコード勝ち。破った相手も、その年のダービー馬サクラショウリ、天皇賞馬グリーングラス、前年の菊花賞馬プレストウコウなど、そうそうたるメンバーであったことから、この有馬記念の勝利で、年度代表馬に選出されることになった。その後は、クラシック制覇こそないものの、6歳で目黒記念、毎日王冠を制し、最後まで衰えることなく、堅実な成績を残した。

《競走成績》
2歳~6歳時に走り、37戦8勝。主な勝ち鞍は、有馬記念(芝2500m、2分33秒4=レコード)、アルゼンチン共和国杯(芝2400m)、日本経済賞(芝2500m)、目黒記念(芝2500m)、毎日王冠(芝2000m)など。3着はダービー(芝2400m、1着ラッキールーラ)、有馬記念(1着=グリーングラス)。

《種牡馬成績》
主な産駒は、キーミノブ(毎日杯=G3、ペガサスS=G3)、ニューファンファン(毎日杯=G3、)、タカノミノブ(3着ラジオたんぱ賞=G3)、タイガーローザ(3着フラワーC=G3)、マークラブ(4着カブトヤマ記念=G3)など。種牡馬としては、マルゼンスキーは別格として、同期のラッキールーラやハードバージ、プレストウコウなどよりすぐれた成績を残した。

父バーバーは、1965年英国産で、競走成績は6戦3勝。2歳時には、G2のリッチモンドS(6F)を制し、3歳時にも同じくG2のセントジェイムズパレスS(8F)に3着するなど、主にスプリンター、マイラーとして実績を残す。日本には、種牡馬として1968年に輸入され、青森牧場に繋養された。

自身は、Phalarisの5・5×5の系列ぐるみのクロスを主導とし、スピードはSundridge、スタミナはBlandfordから補給している。影響度は⑦⑦⑦⑪で、なかなかバランスのとれた血統構成を示していた。惜しまれるのは、母方に含まれたスタミナ要素を完全に引き出すことができなかったことで、ここが一流馬になりきれなかった理由と考えられる。当時は、自身の競走成績や、Princely Gift系ということから、スピード系種牡馬と紹介されていたが、潜在的な要素としては、かなりスタミナ比率の高い種牡馬と考えるべきである。

▸ バーバー分析表

産駒は、このカネミノブの他に、カネミカサ(中山記念2回、アメリカJCC、アルゼンチン共和国杯)、スルガスンプジョウ(日本短波賞、セントライト記念、クモハタ記念)、カネオオエ(福島大賞典)、ヨネミノル(クイーンC)など、中距離に実績を持つ馬を輩出している。

母カネヒムロは、パーソロンの代表産駒の1頭で、384㎏という小柄な体で、不良馬場のオークスではナスノカオリらを一蹴して制するなど、4勝の勝ち星をあげている。ちなみに、鞍上は、当時まだ若手だった岡部騎手。カネヒムロ自身は、パーソロン産駒といっても、その血よりも母方のSon-in-Law、Phalaris、Rabelaisといった血の影響が強く、スタミナ優位の形態で、日本では珍しい血統構成の持ち主であった。小柄ながら、不良馬場の2,400mを克服できた根拠は十分に読みとれ、まさにオークス馬にふさわしい血統構成といえる。

▸ カネヒムロ分析表

そうした父母の間に生まれたカネミノブだが、その血統は、まず主導が、Pharosの5・5×5・7の系列ぐるみで、それに差なくBlandfordの5・5・6×6・7が続き、影響度数字が示すとおり、Princely Giftが強調されている。そのPrincely Gift内は、スピードのMumtaz Mahal、The Tetrarch、Lady Josephineらが、しっかりとクロスして、主導のPharosとは、SainfoinやBona Vistaを通じて結合を果たしている。

また、バーバーの母方からは、BayardoがHamptonとGalopinによって主導と結合し、Dark RonaldがHampton、SardanapaleがSt.Simonという具合に、直接結合を果たしている。これらはいずれもスタミナ勢力であり、その結果、強調されたPrincely Giftは、明らかにスタミナ優位のPrincely Giftへと能力変換がなされている。

それに対して惜しまれるのは、パーソロン内のDjebelや、カネヒムロのときには生きていたSon-in-Lawがクロスになれなかったこと。そして、母の母カネタチバナが、バーバーとは傾向を異にしていたこと。それが、不良を克服したカネヒムロ産駒であっても、カネミノブが重を苦手とし、勝ち味の遅さを見せた理由と考えられる。

以上を8項目に照らして評価すると、以下のようになる。
 ①=□、②=○、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

カネヒムロの特徴を完全に生かしきれなかったことは惜しまれるが、バーバーの特徴は押さえられており、なかなかしっかりした血統構成の持ち主であることは間違いない。以前解説した同期のラッキールーラよりは、明らかに上で、37戦して掲示板に載るのをはずしたのは、稍重と不良の3回だけという堅実な走りと実績を残せたことは、十分に裏付けられる血統構成といえる。

カネミノブは、1981年から種牡馬生活に入り、Princely Gift系の伝え手として、毎年30~50頭の産駒を送り出した。産駒の傾向としては、9~10Fの中距離馬が多く、Princely Giftの一般的なイメージであるスピードや素軽さよりも、平均ペースで粘り強い走りをする馬が良績を残していた。

とはいうものの、カネミノブの血統構成は、欧州系主体で、米系の血が一滴も含まれていなかったことは、時代背景的にも種牡馬として不利な要件であった。同じPrincely Gift系のテスコボーイを父に持つトウショウボーイが、種牡馬としてブレイクしたことで、一時的にカネミノブの種付頭数も増えたが、コンスタントに活躍馬を出すというわけにはいかなかった。そこで、ここでは、カネミノブのスピードとスタミナをうまく引き出した配合馬として、キーミノブを紹介しておこう。

まず前面でクロスしているのが、Nasrullahの4×4の系列ぐるみで、Princely GiftとRed Godのスピードを引き出している。次に、Straight Deal(英国ダービー馬)の4×4だが、これは単一クロスのため、影響力は弱くなっている。しかし、その中のBayardo、Sardanapaleらがクロスになり、スタミナ勢力として、能力参画を果たしている。母方からは、イエローゴッド内のスピードのLady Jurorに、スタミナのHurry On、母の母方からはヴィミーのスタミナも加わり、父母の特徴をうまくとらえている。

8項目評価は以下のとおり。
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~10F

実績どおり、明らかにマイル~中距離のオープンの血統構成を示している。

▸ キーミノブ分析表

最後に、カネミノブと同期のライバル馬たちの血統構成にも触れておこう。プレストウコウ(1A級)とラッキールーラ(2B級)については、以前に解説(注・ラッキールーラは百名馬ハクリョウ内で解説)しているので、ここでは、ハードバージ(皐月賞)、インターグロリア(桜花賞、有馬記念2着)について。

■ハードバージ
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~12F

Nasrullahの3×4を呼び水に、英ダービー馬のBleneimの4・5×6の系列ぐるみをスタミナの核として、Nasrullah内に含まれるThe TetrarchとSundridgeがクロスとなって、スピードを補給。Dark Legendは、Hampton、St.Simonで呼び水のNasrullahと結合して、スタミナを補給。かくし味のSans Souci も、St.SerfがDark Legend と結合して、スタミナ勢力として参加。その結果、スピード・スタミナを兼ね備えたNasrullahへと能力変換をとげている。ダービー2着を最後に故障・引退しているが、10F以上の距離であれば、同期のマルゼンスキーをしのぐスタミナを秘めており、高度な配合内容を示す馬として、記憶にとどめておきたい血統構成の持ち主。

▸ハードバージ 分析表

■インターグロリア
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

Blandfordの5・6・6×5・5・6の系列ぐるみを主導に、Bahram、プリメロ、Umidwarといったスタミナを再現。スピードは、The Tetrarchのクロスが欠落したことはマイナスだが、Lady JosephineとOrbyでうまく補完。母の父コダマがBlandfordの4×3を主導とする配合馬であり、その流れをしっかりと押さえることに成功している。桜花賞を制したことから、スピード馬と位置づけされているが、桜花賞は重馬場での勝利。また有馬記念の2着も、適性距離外と評価されているが、理論上は、明らかに中長距離型の血統構成である。

▸ インターグロリア分析表

 

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