カツラノハイセイコ
父:ハイセイコー 母:コウイチスタア 母の父:シャヴリン
1976年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:ダービー、天皇賞、目黒記念・秋
昭和34年(1959)のコマツヒカリ(父トサミドリ)以来、20年ぶりに父内国産馬で、第46回日本ダービーを制したのがカツラノハイセイコである。その父は、競馬の大衆化を一気に押し進めたアイドルホースのハイセイコー。カツラノハイセイコは、その初産駒である。
カツラノハイセイコは、2歳の9月に札幌戦でデビューしたが、勝ち上がったのは4戦目というように、当初から目立った走りを見せていたわけではない。馬体も、父には似ず、430㎏程度の小柄な馬であった。頭角を現し出したのは、明けて3歳からで、京都のジュニアCなど、特別戦を3連勝した後、東上してくる。しかし、東上初戦のスプリングSでは、関東のリキアイオー(父タンディ)の2着に敗れ、本番皐月賞では5番人気と評価を下げていた。ところが、ビンゴガルーの2着と善戦し、続くNHK杯もテルテンリュウ(父ロングエース)の3着と堅実さを見せた。
そして、ダービーでは、父ハイセイコーの無念をはらすという期待を担って、堂々1番人気に支持される。2番人気は皐月賞馬ビンゴガルー、3番人気はNHK杯を制したテルテンリュウと続く。8番人気と、人気は低かったが不気味な存在だったのがリンドプルバン。同馬は、人気薄(9番人気)でハイセイコーを破ったタケホープと同じく、4歳中距離Sを制しての参戦で、鞍上もタケホープと同じ嶋田功騎手。
レースは、関西馬ニホンピロポリシーの先導で、12秒台前半のよどみないペースで進み、カツラノハイセイコは先頭集団の後方につけ、ビンゴガルーとリンドプルバンがこれをマークする。直線半ばから、カツラノハイセイコとリンドプルバンの2頭が抜け出し、ゴール前まで、まさに死闘ともいうべき叩き合いを演じた。勢いはプルバンが勝っていたが、最後はカツラノハイセイコが、その追撃をハナ差押さえて勝つ。みごと父の無念を晴らした1戦であった。
タイムは、コーネルランサーのそれを0.1秒上回る2分27秒3のダービー・レコード。以後、この馬は、「闘魂」とか「根性」の馬と形容されるようになるが、まさにそうした言葉がぴったりと当てはまる、不思議な雰囲気を持った馬であった。ちなみに、鞍上の松本善登騎手は、有馬記念をテン乗りのシンザンで制した経歴を持つ。ダービーは、現役最古参の45歳での制覇であった。しかし、同騎手は、この2年後に、ガン性腹膜炎のために亡くなっている。
《競走成績》
2~5歳時に、23戦8勝。主な勝ち鞍は、ダービー(芝2,400m)天皇賞(芝3,200m)、目黒記念・秋(芝2,500m)、マイラーズカップ(芝1,600m)など。2着は、有馬記念(芝2,500m、1着ホウヨウボーイ)、宝塚記念(芝2,200m、1着カツアール)など。
《種牡馬成績》
ユウミロク(カブトヤマ記念、オークス2着)、ハルナオーギ(南関東オークス)
父ハイセイコーは、昭和45年(1970)、北海道新冠の武田牧場の生産。南関東公営からデビューし6戦6勝。中央では、16戦7勝。主な勝ち鞍は、皐月賞、宝塚記念、弥生賞、スプリングS、高松宮杯、中山記念など、主に中距離で実績を残す。期待されて種牡馬入りを果たしたが、初年度産駒は、父に似ず小柄な馬が多かったため、産駒のデビュー前に人気を下げていた。しかし、このカツラノハイセイコの出現で、人気を取り戻し、以後、ハクタイセイ(皐月賞)、サンドピアリス(エリザベス女王杯)といったGⅠ馬や、マルカセイコウ(京阪杯)、ヤマニンアーデン(シンザン記念)などを出し、そして公営でもキングハイセイコー、アウトランセイコーといった南関東ダービー馬を出している。
母コウイチスタアは、1勝馬で、産駒もカツラノハイセイコ以外には、これといった活躍馬はいない。しかし、フロリースカップにつながる母系ファミリーからは、リキエイカン(天皇賞)、スズカコバン(宝塚記念)などが出ている。その意味では、1時代を築いた日本の基礎牝系の一族ではあった。
母の父ジャヴリンは、1957年アイルランド産。戦績は7戦1勝で、これといった実績はない。種牡馬としても、成績はいまひとつ。しかし、その父Tulyarは、英ダービー、セントレジャー、キングジョージの覇者。それにもまして、母Sun Chariotは、1,000ギニーとオークス、そして牝馬ながらセントレジャーを制し、9戦8勝の戦績を持つ。イギリスの最強牝馬の1頭に数えられ、Hyperionの代表産駒でもあった。したがって、ジャヴリンも、当時としては、これ以上望めないほどの「良血馬」だったのである。ただし、母のSun Chariotは、気性が悪く、また発育も不良で、イギリスからアイルランドに戻されかけたという経歴を持っていた。輸出許可証が間に合わなかったために、イギリスに残留し、その後で大活躍をしたというエピソードの持ち主なのである。
そうした父と母を持つカツラノハイセイコ。5代以内のクロスは、Hyperionの4×4とNearcoの4×5だが、後者は、途中Pharosが断絶して影響力が弱まっており、主導は明らかに前者の系列ぐるみのほう。この場合、NearcoやFriar Marcusのクロスの位置から、母の父ジャヴリンが強くなり、とりわけその中でもSun Chariotが、カツラノハイセイコの能力形成に大きく影響を及ぼしいてることが推測できる。
スタミナは、主導のHyperion、プリメロ(=Harina)内のBlandfordらで、両者はCanterbury Pilgrimによって、結合を果たしている。スピードは、まずFriar MarcusとThe Tetrarchが、CylleneとBona Vistaによって、主導と結合。かくし味のOrbyが系列ぐるみになり、St.Simonによって、主導と結合を果たしている。
父ハイセイコーは、Son-in-Lawの主導だが、カツラノハイセイコのほうは、そのSon-in-Lawや、その父Dark Ronaldもクロスになっていない。Son-in-Lawという馬は、競走生活では風邪ひとつ引くことのない丈夫な馬だったという。そして、どんなレースでも常にベストを尽くし、一度も故障しなかったハイセイコーは、まさにそのSon-in-Lawの影響が強く出たものと思われる。
それに対し、カツラノハイセイコのほうは、馬体不良や体重減などを起こしやすく、どちらかといえば虚弱的な面を持ち合わせていたことからも、Sun Chariotの影響を強く受けたと考えられる。とはいうものの、父にはないHyperionを主導にした上に、名牝Sun Chariotの能力を再現した。これもハイセイコーではクロスにならなかったThe TetrarchやFriar Marcus、Orbyといった、種類の異なるスピードの血を生かすことができた。父内にひそんでいたスピード・スタミナを引き出した配合はみごとであり、それが、父の成し得なかったダービー、天皇賞の制覇に結びついたといえよう。まさに血のドラマを見る思いがする。カツラノハイセイコの血統構成を、8項目で評価すると以下のようになる。
①=○、②=○、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=8~12F
じつにみごとな配合馬である。ダービーや天皇賞のような長距離レース以外に、1,600mのマイラーズカップを制することができたのも、The Tetrarch、Friar Marcus、Orbyというスピードを、巧みに再現することに成功したため。
カツラノハイセイコは、父ハイセイコーの後継として種牡馬入りしたが、折しもその当時は、ノーザンテースト、テスコボーイ、ファバージなどが活躍して、スピード化時代への突入期で、チャイナロックやジャヴリンなど欧州のスタミナ系は、どうしても不利になる傾向が見られた。その結果、よい配合相手にめぐまれず、どちらかといえば公営ダートで使われる産駒が多かった。そうした産駒の中から、牝馬のユウミロクがオークスを2着し、カブトヤマ記念を制するなど、中央で健闘していた。同馬の血統評価は以下のようになる。
①=□、②=△、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=□
総合評価=2B級 距離適性=9~12F
父母の世代の関係から、血の集合箇所がわかりにくく、主導の明確さを欠くことは否めないが、HyperionとBois Rousselのスタミナに、Tetratema、The Tetrarchのスピードを生かした点など、カツラノハイセイコの特徴をとらえていることは確か。とくに、欧州のスタミナの再現には見るべきものがある。それがオークスで2着した(1着メジロラモーヌ)血統的要因と思われる。
カツラノハイセイコは、残念ながら、牡馬の産駒にめぐまれず、ハイセイコーの父系をのばすことはできなかったが、このユウミロクが、ラグビボールとの間に、ユウセンショウ(全弟ユウフヨウホウは中山大障害馬)を出している。そのユウセンショウは、欧州系のスタミナをみごとに開花させ、ダイヤモンドSを制している。同馬は、英セントレジャー馬のSolario、凱旋門賞馬のMigoliを主導とした欧州芝向きのステイヤーで、じつにきめ細かい配合形態を示していた。本来は、日本で育んだスタミナの血として、こうした馬の血統を、世界に還元するべきなのだが……。ユウセンショウの8項目評価は以下の通り。
①=□、②=○、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=1A級 距離適性=10~15F
最後に、カツラノハイセイコと同期で、クラシック戦線の主なライバル馬たちの血統構成を簡単に紹介しておきたい。
■リンドプルバン(ダービー、ハナ差2着)
①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=9~12F
これぞという系列ぐるみがなく、主導が不明確。それと、Tetratema-The Tetrarchの結合にスムーズさを欠いたことが、勝ち上がりまでに13戦を要した原因と思われる。しかし、弱点・欠陥はなく、Blandfordの6×4・6を呼び水に、Rock Sandのスタミナを加え、スピード源Tetratemaの6・6×7にかくし味のOrbyを傘下に収め、異系の好バランスを保つことに成功。貴重なSheshoon~Hurry On系は少数派ということで、傾向に見合う繁殖牝馬が少なく、種牡馬として難しいプルバン(パリ大賞典、仏セントレジャー)をうまく生かした妙味、ダービーでの激走がフロックでなかったことは、十分に読み取れる。
■ビンゴガルー(皐月賞)
①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=8~11F
主導は、PharosとBlandfordの連合と推測できるが、いまひとつ明確さに欠ける。しかし、Mumtaz Mahal-The Tetrarch、Lady Josephineのスピードの再現は、この馬の特筆すべき個性。当時、意外性を持つ「狂気のビンゴ族」なる表現なども見られたが、その血統的要因は、まさにこのスピードの血と見てよいだろう。それと、祖母の輸入繁殖牝馬トリーティの血は、現代でも通用するスピード・スタミナを持ち、質のよさを保っていたことも、付け加えておきたい。
■リキアイオー
①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
総合評価=3B級 距離適性=8~10F
明確な主導と、上質なスタミナの核を欠いたことが惜しまれるが、Sir Cosmo、Mumtaz Mahal-The Tetrarch、Sunstarと、種類の異なるスピードの血を前面で再現することができた。明けて3歳になって、オープン(平場)、東京4歳S、弥生賞、スプリングSと4連勝を達成した裏づけは、十分に確認できる好配合。もう少しローテーションをきっちりとして、本番に向けて調整していれば、皐月賞の1番人気に応えたとしても不思議のない血統構成である。