久米裕選定 日本の百名馬

キーストン

父:ソロナウェー 母:リットルミッジ 母の父:Migoli
1962年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:日本ダービー、京都3歳S

▸ 分析表

《競走成績》
2~5歳時に走り、25戦18勝。主な勝ち鞍は、日本ダービー(芝2400m)、京都3歳S(芝1500m)、弥生賞(芝1600m)、金杯(芝2000m)など。2着―菊花賞(芝3000)。

キーストンのデビューは、1964年(昭和39年)の7月、函館の新馬戦。1番人気に応えて、2着に10馬身差をつけて圧勝すると、翌年の弥生賞まで、無傷の6連勝という快進撃を続けた。しかし、スプリングSでは、同じ関西馬のダイコーターの2着に敗れ、連勝記録はストップする。

クラシック第1弾の皐月賞は、ダイコーターに次ぐ2番人気に推されるものの、チトセオーの14着と惨敗を喫し、血統的には早熟のマイラーではないかという評価が、一部では囁かれるようになった。その後、ダービー前のオープンレースで勝ち、キーストンはダービーに駒を進める。そのダービーでは、皐月賞を制したチトセオーは、NHK杯で故障を発生させ不出走。人気は、NHK杯を制したダイコーターが、断然の1番人気に支持される。キーストンは、小気味のよい快速ぶりが支持され、2番人気に。

当日は不良馬場で、スピード馬には不利な条件になった。しかしキーストンは、好枠(2番)を利して、好スタートとともに1コーナーから先頭に立ち、マイペースでレースの主導権をにぎる。そして、最後まで脚色が衰えることなく、逆に直線坂下から後続馬を引き離しにかかった。ダイコーター(2着)の猛追も退け、1馬身3/4の差をつけて優勝。これによって、スタミナをも兼ね備えたスピード馬であることを実証した。

秋の菊花賞ではダイコーターに敗れたとはいえ、3/4馬身差の2着と健闘した。その後も、当時の平場オープン競走、金杯と連勝し、古馬での活躍が期待された。しかし、スピード馬に多く見られる脚元の不安は、キーストンにとっても例外ではなく、4歳春後半から5歳夏まで休養を余儀なくさせられた。

5歳秋から復活したキーストンは、再び連勝街道を突き進むすることになる(4連勝)。そして迎えた暮の阪神大賞典。ここでも、持ち前のスピードを発揮したキーストンだったが、レース中に故障を発生させ、予後不良。落馬転倒によって振り落とされた山本騎手を、後続馬に踏まれないように守ろうとしたキーストンの姿は、競馬ファンの胸を打ち、後々まで語り継がれることとなった。

父ソロナウェーは、アイルランド産で、競走成績は9戦6勝。愛2000ギニー(8F)を制している。日本への輸入は、1958年(昭和33年)。

本国に残した産駒としては、Sweet Solera(1000ギニー、オークス)、Spiniard Close(ヴィクトリアC)、Lucaro(愛2000ギニー)、Sanctum(ヴィクトリアC)らが活躍。日本でも、本馬の他に、テイトオー(ダービー)、ベロナ(オークス)、ヤマピット(オークス)、ブルタカチホ(目黒記念)、マキノホープ(日本経済賞、オールカマー)、ケンサチオー(スプリングS)など、Fairway(=Pharos)系の血の伝え手として、多くのステークスウィナーを輩出している。

ソロナウェー自身の配合は、Cylleneの5・5・7×5を伴うPolymelusの4・6×4を呼び水に、Phalaris、Pomme-de-Terreを強調した形態。この血は、ソロナウェーのスピード源となっている。また、当馬の場合のSt.Simonは、母内Grand Parade内の影響が強く、スピード勢力として、能力参加を果たしている。ただし、主導のPolymelusとはKing Tomを共有しているが、強固な結合状態とはいえず、Vedette、Hamptonを含むPearmain(=Peepshow)の6×5を通じての間接的結合と考えられる。スタミナは、Isonomyの7・7・9×6・6・7の系列ぐるみによって補給されるが、比率としては、実績通りスピード優位の血統構成となっている。

以上を8項目に照らして評価すると、以下の通り。
 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=○、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=6~9F

▸ ソロナウェー分析表

母リットルミッジは、英国産の1勝馬。自身は、Friar Marcusの5×3クロスを持つものの、この血は単一クロスのため影響は弱く、St.Simonの系列ぐるみが主導になっている。ただし、影響力の強い祖母Derehamの中では、St.Simonは多数派ではなく、全体的に血の統一性に欠けることが、能力減要因となる。決して悪い配合ではないが、1勝でとどまっていたことの血統的要因はその点にある。

8項目評価は以下の通り。
 ①=□、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=~9F~

▸ リットルミッジ分析表

そうした父母の間に生れたのがキーストン。まず、前面でクロスしている血をチェックすると、Chaucerの5・7×6とDesmondの6×5が系列ぐるみで、St.Simonによって両者は結合を果たしている。この他にも、Persimmonの7・8×6・8、St.Serfの6×8の系列ぐるみも、St.Simonによって結合を果たしている。

これらは、父のときにはクロスとなっていなかった血で、スタミナの核として、能力形成に参加している。この中では、Chaucerに含まれるHermit、Newminster、Stockwell、Macaroniといった血が、St.Simon系以外の系統との結合において重要な役割を果たし、スピードのCylleneの6・6・6×6や、スタミナのSon-in-Lawの6×5と連動し、スピード・スタミナ兼備のChaucerへと、能力変換がなされている。

そして、Orbyの5×5が、中間断絶ながらも、途中からSt.SimonやBend Orをクロスとして、スピードを注入している。小気味のいいキーストンのスピードは、まさにこのOrbyとCylleneが大きく影響していたものと考えられる。

以上を8項目で評価すると、以下のようになる。
 ①=○、②=○、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=8~12F

父ソロナウェーは、当時の日本で主流となっていたBlandford、Gainsboroughの血を含んでいなかった。そのことが、血の偏向が見られ始めた当時としては、逆に近親交配を回避させる上で都合がよかった。キーストンの配合でも、母の父Migoli内のBlandford、Gainsboroughがクロスにならず、結果として、異系のバランスを保つことができた。

シンザンに代表されるヒンドスタンのような派手さはないが、以後日本に浸透してくるNearco系を活用したり、牝系を伸ばす上でも、地味な働きをしていることは、記憶しておきたい。その際のキーホースは、Fairway(=Pharos)であり、牝馬でダービーを制して話題となったウオッカにも、6代目ソロナウェーの血があることが確認でき、Fairwayの血は、Blue Peterのスピード・スタミナを再現するために、隠し味的な働きを示している。

キーストンは、前述した通り、レース中の事故により予後不良となり、種牡馬として後世に血を残すことはできなかった。それでも、祖母Valerieの娘May MeadowとGrey Sovereignの間にできたマーシュメンドが日本に輸入され、後のその牝系から、JCダート、フェブラリーSを制したウィングアローが出ている。また、先日ユニコーンSを制したロングプライド(父サクラローレル)も、同じ牝系であり、欧州系スピードの伝え手として、役割を果たしている。

最後に、キーストンと同期で、ライバル関係にあった皐月賞馬チトセオーと菊花賞馬ダイコーターについて、簡単に触れておこう。キーストンが交配された1961年(昭和36年)当時は、それまでの父内国産種牡馬クモハタ、トシシロの時代から、輸入種牡馬へ移行する転換期にあたり、サイアーランキングは、1位にヒンドスタンがランクされ、2位ライジングフレーム、3位ハロウェーと、上位を輸入種牡馬が占めていた。キーストンの同期馬も、ダイコーターがヒンドスタン産駒で、持ち込み馬のチトセオーはジルドレ産駒という具合。と同時に、繁殖牝馬の傾向も、それまでとは異質の系統が導入されるようになっていた。

そのこともあって、同期のチトセオー、ダイコーターの血統構成は、まさに転換期の代表的内容を示している。

■チトセオー
 父ジルドレ 母ビニイ
 父ジルドレは、英2000ギニー馬として、後の昭和40年に日本に輸入されているが、チトセオーは持込み馬。

①=□、②=△、③=○、④=□、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=○
 総合評価=2B級 距離適性=9~11F

Teddyの位置関係や、父内Ksarの生かしかたなど、決してベストの配合とはいえないが、強調された母の父Borealis内の血の結合状態や、Alcantara、Barcaldineなどの特殊な血の生かしかたや、当時としては意外に難しいThe Tetrarchの生かしかたなどで、時代を先取りした形態が保たれている。バランスは悪いが、Borealisは全開している。このタイプの配合馬は、好調期には意外な粘りを発揮するケースが見られるが、当馬はまさにそうした血統構成の持ち主で、その個性が皐月賞制覇に結びついたものと考えられる。

▸ チトセオー分析表

■ダイコーター
 父ヒンドスタン 母ダイアンケー
 母ダイアンケーは、米国産で、8勝をあげている。米国系といっても、Man o’WarやFair Play系は含まず、極めて特殊な血で構成され、主導も、Pink Dominoの6・6×4の系列ぐるみ。それに対して、父ヒンドスタンは、欧州系そのものだから、ダイアンケー内の米系とは、クロス馬は派生していない。ただし、St.Simon、Isinglass、Bend Orなど、古い欧州系の血が配されいる。それらのクロスを連動させることができれば、優駿を輩出することも可能であり、欧州系×米系交配の代表が、Native DancerやSea Birdということになる。それでいえば、ダイアンケーの血統構成は、レベルは別として、配合形態や方向性ということでは、Native DancerやSea Birdと類似点を見いだすことができる。8項目評価は以下の通り。

①=○、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=10~15F

St.Simonの5・7・7・8・8・8・9・9×6・7・7・8の系列ぐるみを主導に、Bois Rousselを強調。Isinglass、Sainfoinのスピード・スタミナを加え、少ないクロス馬によって、Bois Roussel内で血をまとめることができた。ダイアンケー内は、9個のGalopinが土台構造を形成し、弱点の派生を防げたことが、能力形成に貢献したものと考えられる。とはいうものの、米系の不備は、古馬となってからの成長力に支障をもたらすことが考えられ、4歳時は0勝に終り、5歳以降もこれといった重賞勝ちを果たせなかった血統的要因は、その点にあるはず。開花の早い中長距離型配合。それがダイコーターの血統構成である。

 ▸ ダイコーター分析表

 

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