久米裕選定 日本の百名馬

キングカメハメハ

父:Kingmambo 母:マンファス 母の父:ラストタイクーン
2001年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:G1ダービー、G1NHKマイルC

▸ 分析表

キングカメハメハのデビューは2003年11月。京都新馬戦の芝1800m12頭立ての1番人気。レースは、5~6番手の好位置から楽に抜け出して、デビュー戦を飾る。続くエリカ賞も制し、新馬・特別を連勝。3戦目の京成杯は、直線でもたつきを見せ、フォーカルポイントの3着と敗れた。この時点で、時計勝負のレースになると、少し不安があると思われた。その後、すみれS、毎日杯と連勝して、クラシックロードに参戦してくる。

しかし、キングカメハメハは、皐月賞には向かわず、クロフネ、タニノギムレットと同じく、NHKマイルC→ダービーという変則ローテーションを進むことになった。そこには、厩舎サイドの「直線の長い東京競馬場でこそ、強い馬が実力を発揮できるはず」という信念があったものと思われる。NHKマイルCは、心配されたマイルスピード競馬への挑戦だったが、前年の2歳チャンピオンのコスモサンビームに5馬身差をつけ、レースレコードの1分32秒5で圧勝。この結果、スピードレースへの不安は解消された。

その勝ちっぷりが評価されたキングカメハメハは、続くダービーでも、皐月賞馬ダイワメジャー、および上位入線のコスモバルクらを押さえ、1番人気に支持された。レースは、3F~6Fのラップが、ダービー史上最速という厳しい流れで展開されたが、キングカメハメハは中団より少し前につけ、4コーナーでコスモバルク、ダイワメジャーをマークして好位に進出する。直線で早めにスパートし、ハーツクライの強襲を完封して、1馬身1/2差をつけ、2分23秒3のレースレコードで優勝した。これで、所属する松田国厩舎の信念でもある変則ローテーションの正当性を、みごとに実証してみせた。

キングカメハメハは、秋の目標を天皇賞に定め、神戸新聞杯から始動し、ハーツクライ、ケイアイガードらを難なくおさえ、順調にスタートを切った。しかし、本番を前に、右前脚浅屈腱炎を発症し、惜しまれながら引退し、その後種牡馬となる。

《競走成績》
2~3歳時に走り、8戦7勝。主な勝ち鞍は、日本ダービー(G1・芝2400m)、NHKマイルC(G1・芝1600m)、毎日杯(G3・芝2000m)、神戸新聞杯(G2・芝2000m)など。

父Kingmamboは米国産で、仏・英で走り、13戦5勝。主な勝ち鞍は、仏2000ギニー(G1・1600m)、セントジェイムズパレス(G1・8F)、ムーランドロンシャン賞(G1・1600m)など。欧州マイル王決定戦のクインエリザベス二世SはBigstone、Baratheaに次ぐ3着。確かにマイルでは実績を残したが、父Mr.Prospector、そして母は20世紀最強マイラーと呼ばれ、BCマイル2連勝のMiesqueという期待値からすると、ここ一番というときの底力という点で、いささか物足りない成績という評価もされていた。

代表産駒は、本馬のほか、エルコンドルパサー、アメリカンボス、そして先頃種牡馬として輸入されたルールオブローなど。

Kingmambo自身の血統構成は、Nasrullahの4×6の系列ぐるみを主導に、Nashuaを強調。Bull Dog、Man o’Warなど、米系のスピードを加え、シンプルな内容で、一般レベルでいえば、スピード馬として分かりやすい形態を示していた。しかし、母Miesqueの持つHyperion、Gainsboroughを始め、Graustark内に存在するRibotらのスタミナ要素がクロスになれず、上質のスタミナの核を欠いていた。つまり、母のよさは生かしきれておらず、それが底力不足の要因となっていたのである。

以上のことを8項目に照らし評価すると、以下の通り。

 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~9F

母マンファスは、これといった競走成績は残していないが父ラストタイクーンへの配合としては、なかなかすぐれた内容を示している。全体の血として、欧州系比率が高いため、Northern Dancerの3×5の呼び水効果は、必ずしも有効とはいい難いが、父内Mill Reefを始め、母の父Blakeney、祖母内Charlottesvilleらに含まれる欧州系のスタミナがしっかりと再現されている。また母系もに見られるAimeeは、Blushing Groomの祖母にあたり、アグネスデジタルの母Chancey Squaw、アイルトンシンボリの母ブルーエスケープとも同系で、ここがスピード源となっている。

 8項目評価は以下の通り。

 ①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=○、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=9~12F

ほぼ3Bに近く、血の質も高い。この父母の間に生れたのがキングカメハメハである。
まず、前面でクロスしている血は、Northern Dancerの4×4・6が呼び水となり、これにNative Dancerの4・6×6・8と、Nasrullahの5・6×6・7が続く。これらはいずれもNorthern Dancer内に含まれるため結合を果たし、主にスピードを供給している。

注目は、Alibhai-Hyperion、Princequillo-Prince Rose、Tourbillonなど、Kingmambo自身のときにクロスしていなかった、Miesque内の欧州系の血が、新たにクロスになったことである。これによって、Miesqueはもとより、母内Mill Reef、Blakeney、Charlottesville内に含まれるスタミナ要素が目を覚まし、父Kingmamboに欠けていたスタミナが、キングカメハメハ内で能力参加をしている。Princequillo内を確認すると、Papyrus-Tracery、Gay Crusader、Prince Palatineまで、そのスタミナの裏づけとなるキーホースをきっちりと押さえ、Traceryによって、呼び水役のNorthern Dancerと結合を果たし、スタミナを注入している。ここが、キングカメハメハの配合のいちばんの見どころである。ただし、結合状態が強固でないことも確かで、開花の難しさは、このあたりにあると予測された。

以上を8項目すると以下のようになる。

 ①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

当初は、このスタミナの結合状態に、Northern Dancerのクロスが3つという構造から、クラスが上がると詰めの甘さが出ることが心配された。そして、3戦目の京成杯での3着という結果は、その血統的不安が露呈されたものと考えてよいだろう。このキングカメハメハの競走能力を構成する血統要素は、本来開花は遅めで、相当な鍛練を必要とする傾向が出ている。それでいえば、皐月賞を回避して、じっくりと鍛練を積むローテーションを選択したことは、血統構成の内容から見て、正解だったといえる。さらに、不安要素だったスピードを引き出すために、NHKマイルCを選んだことも、的を射ている。また、Northern Dancerクロスを3つ持つ場合の全体バランス、Native Dancerとの連動など、St.Simonクロスを持たない次世代形態を示すダービー馬ということでも、日本の血統史の中で、新たな1ページを開いた馬として位置づけられるだろう。

キングカメハメハの産駒のデビューは2008年ということで、まだ実績を検証することはできないが、その血統構成から、配合の方向性ということについて、少し触れておきたい。キングカメハメハは、一般的にはMr.Prospector系として扱われ、NHKマイルCとダービーの勝ち時計からも、スピードタイプという位置づけがされるかもしれない。

しかし、構成されているMill ReefやBlakeneyといった血は、欧州系のスタミナ色が濃く出る確率が高く、日本の芝では実績不足の傾向を示してきた。Mill Reef系を受け継ぐミホノブルボンやイナリワンなどの種牡馬実績を振り返ることでも、それが分かるはず。鍛えられて強さを発揮するということでいえば、キングカメハメハとミホノブルボンには共通点があり、Mill Reef、Princequilloの系統を生かした配合という点で、血統構成においても類似する部分を有している。

とすれば、配合の際の着眼点は、まずスピードの引き出しということで構成されている血からは、Mr.Prospectorが浮上してくる。確かに、Mr.Prospectorに着目すれば、早期スピード対応の可能な産駒ができるかもしれない。しかし、成長力・底力という点で多くは望めないだろう。と同時に、スタミナのよさを無視することになれば、キングカメハメハを配する意味もないはず。そうであれば、少し重厚になるとしても、キングカメハメハを構成する多数派の欧州系を活用することが、やはり基本となる。その上で、血の世代を整えることにも留意したい。そうした視点に立つならば、キングカメハメハの配合のポイントは以下のようになる。

 ①欧州系主体で、土台はNearco-Pharos、Hyperion-Gainsborough、Blandfordなど。
 ②米系はMan o’War、あるいはNative Dancerに着目。
 ③隠し味の欧州系はPrincequillo、Hurry On、Tourbillonなど。
 ④5代以内にクロスをつくる場合は、Northern Dancer以外では、Nureyev、Mill Reef、Never Bendなど。

具体的な繁殖牝馬でいえば、ディープインパクトの母ウインドインハーヘア、あるいはウオッカの母タニノシスターなどが、その傾向にマッチする。ただし、ウインドインハーヘアの場合は、世代的な問題から、クロス効果を確認しにくい部分が残るので、ここではあくまでも架空の事例を紹介する意味で、キングカメハメハとディープインパクトの交配、そして血の傾向を分かりやすくするために、ウオッカの母タニノシスターとのそれをあげてみたい。

■キングカメハメハ×ディープインパクト
 ①=□、②=△、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ キングカメハメハ×ディープインパクト分析表

Almahmoudの位置に問題は残るが、前記の条件を満たし、サンデーの特徴およびウインドインハーヘア内の欧州系のHurry On、Ksar、Mieuxce、Gold Bridgeまできめ細かく押さえ、開花後の安定が期待できる好バランスの血統構成を保つ。

■キングカメハメハ×タニノシスター
 ①=○、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=○、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F 

▸ キングカメハメハ×タニノシスター分析表

少し血の統一性に欠けるものの、Never Bendの6×4の系列ぐるみ主導の明確性を備え、Djebel、Princequilloを始め、欧州系のスピード・スタミナのキーホースをきっちりととらえている。日本の芝へのスピード対応には時間を要するが、クラシック・ディスタンス向きの血統構成となる。

キングカメハメハが、種牡馬として、優駿を輩出することに期待したい。

 

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