久米裕選定 日本の百名馬

レガシーワールド

父:モガミ 母:ドンナリディア 母の父:ジムフレンチ
1989年生/セン/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1ジャパンC、G2セントライト記念

▸ 分析表

1985年(昭和60年)、それまで劣勢だった関西が、「打倒関東」、「失地回復」を実現させる切り札として、栗東トレーニングセンターに坂路コースが新設された。その熱意が通じ、戸山厩舎からミホノブルボンが出現して、皐月賞、ダービーの二冠を制したのが1992年春。そのブルボンと同期・同厩だった馬がレガシーワールドである。レガシーワールドは、気性に問題があって、去勢されセン馬となった。そしてようやく1勝をあげたのが、ブルボンがダービーを制した後の7月、福島の未勝利戦であった(7戦目)。その後、夏の函館で特別を2連勝し、秋のセントライト記念が初の重賞競走挑戦となった。

このレースには、ダービーでミホノブルボンの2着に好走したライスシャワーが出走していた。1番人気は、夏の上がり馬として期待されたトレヴィット(父ノーアテンション)、続いて堅実性を買われたホワイトアクセル(父タップオンウッド)が2番人気。ライスシャワーは、ダービーが人気薄の好走ということで、フロック視され3番人気。そしてレガシーワールドは、ローカル転戦後で4番人気と意外に低評価であった。同馬は、たしかに気性難ということもあり、このレースでも、パドックですでにイレ込み、馬場入場後も返し馬もできないほど。スタート地点まで行くのに、厩務員が手綱をとって、馬の気持ちを静めながら歩いていくという状態だった。しかしレースでは、軽快というよりも力強い走法で逃げ、最後の直線でライスシャワーの追撃を頭差抑えて、堂々と重賞初挑戦・初制覇を成し遂げる。

さらに東スポ杯(芝2400m)も逃げきり、続くドンカスターSでは、2番手抜け出しの走法で、外国産馬のヒシマサルを破った。そして、故障引退のミホノブルボンに替わって、ジャパンCに駒を進める。ここでは、トウカイテイオーの復活劇の前に4着と敗れたが、ユーザーフレンドリー、ドクターデヴィアス、クエストフォーフェイムといった外国の強豪勢に先着し、底力のあるところを見せつけた。

こうして、夏から休みなく使われるというハードなローテーションながら、その勢いをかって有馬記念にも挑戦した。このレースでは、メジロパーマーの絶妙な逃げにあい、ハナ差の2着に敗れた。しかし、ゴール前の脚勢は明らかにレガシーのほうが勝っており、騎乗法やペース配分さえ誤らなければと、惜しまれるレースであった。

一流馬の仲間入りを果たしたレガシーワールドは、年が明けてAJC杯でホワイトストーンの2着に敗れた後骨折し、休養に入る。秋になって、京都大賞典でメジロマックイーンの2着に好走すると、つぎは再びジャパンCに挑戦。このレースでは、1番人気がブリーダーズCの優勝馬コタシャーン、以下ホワイトマズル、スターオブコジーン、ウイニングチケット、ナチュラリズムと続き、レガシーは6番人気だった。レースは、メジロパーマーがよどみない平均ペースで逃げ、レガシーワールドは2番手を進む。これを追うマチカネタンホイザ、ハシルショウグン、ライスシャワーといった先行勢が脱落していくなかにあって、レガシーだけは直線で粘りを発揮し早めに先頭に立つ。大外を追い込むコタシャーンを抑え、レガシーは念願のGⅠを制覇した。

《競走成績》2歳~7歳時に走り、32戦7勝。主な勝ち鞍は、ジャパンC(G1・芝2400m)、セントライト記念(G2・芝2200m)など。2着――有馬記念(G1芝2500m)、AJCC(G2・芝2200m)、京都大賞典(G2・芝2400m)など。

父モガミはフランス産で、20戦3勝。G1勝ちはなく、G2のシャンプラ賞(芝1850m)が4着、G3のジョンショール賞(芝1600m)も4着と、競走成績は二流。1981年から種牡馬として日本で供用され、代表産駒にはシリウスシンボリ(日本ダービー=G1・芝2400m)、メジロラモーヌ(オークス=G1、芝2400m、桜花賞=G1・芝1600m、エリザベス女王杯=G1、芝2400m)、ブゼンキャンドル(秋華賞=G1・芝2000m)、メジロモントレー(AJCC=G2・芝2200m)、などがいる。

モガミ自身の配合は、Pharamondを主導として異系交配の形態を保っていたが、欧米の血が入り混じり、これぞという特徴に欠ける血統構成で、成績通り二流の内容であった。モガミの血統構成を、8項目に照らして評価すると以下の通り。

 ①=□、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=8~10F

▸ モガミ分析表

母ドンナリディアは、父が米系を含むジムフレンチで、母ダイゴハマイサミが欧州系主体のため、父内に弱点が派生し、配合としては不十分な内容であった。しかし、繁殖牝馬としては、NasrullahとNearcoの血を含んでいないことが一つの個性としてとらえられ、利用価値のある構造を持っていた。

そうした父母の間に生まれたレガシーワールド。まず前面でクロスするのは、Hyperionの6×5・6が系列ぐるみを形成して主導の役割を担う。ついで6代目にあるクロス馬を検証すると、PharosがChaucerとSt.Simonによって、MahmoudがGainsborough、PharamondがSelene、Black ToneyがGalopin、Bull DogがSt.SimonとBay Ronald、Son-in-LawがBay Ronaldによってという具合に、すべて主導のHyperionと直接結合を果たし、スピード・スタミナを補給している。

この中で、米系のBlack Toneyの中にはCommandoとBen Brushのクロスが内包されていて、種牡馬モガミの中では連動の難しいノーラックの血をうまく活用することができた。このことが、レガシーワールドの配合、および能力形成において、大きなポイントになっている。惜しまれるのは、The Tetrarchの血が、父母の間で2世代離れていて、クロス効果が読み取りにくくなっていることである。もしもこの血が確実に生かされていれば、有馬記念のハナ差負けは逆転していたかもしれない。

スピードはPharamondとFairwayが6代目クロスで能力形成に参加しているが、主導がスタミナ豊富なRockefella内のHyperionで、5代目から系列ぐるみのクロスを形成。そこに同じチャイナロック内のSon-in-Lawが6代目で影響を示し、スタミナを補給。さらに、Graustark内のTraceryの系列ぐるみや、父内MarcovillやClarissimusなど、隠し味的な面までスタミナがアシストされ、明らかにスタミナ優位の配合となっている。レガシーワールドの血統構成を、8項目で評価すれば、以下の通り。

 ①=○、②=○、③=◎、④=○、⑤=◎、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=2A級 距離適性=10~15F

父母の血の質は、決して上質とはいえないが、Hyperion主導の明確性や、全体のバランスはじつに見事である。とはいうものの、この馬も並の調教では、日本の硬い芝では上位のスピードレースに対応することは難しく、せいぜい1000万円クラスあたりまで行けば上々と考えるのが妥当。それを、G1上級クラスで通用するまでにしたのは、故・戸山調教師のスパルタ調教が実を結んだ結果と見て間違いないだろう。その点では、同期のミホノブルボンにも同じことがいえる。2004年秋、菊花賞を制したデルタブルースのローテーションや成績に、これと共通性があり、スタミナ優位の血統構成もよく似ている。

レガシーワールドはセン馬のために、種牡馬にはなれなかったが、仮に種牡馬になったととしても、スピードの引き出しが難しく、日本の競馬では良績を残すことは難しかっただろう。

そんなわけで、レガシーには種牡馬としての解説項目がないので、ここではかつての逃げ馬で、個性派として活躍した馬たちについて、簡単に触れておこう。

■タクマオー(1968年生)
福島大賞典2回などローカルに強い馬だったが、中央でも毎日王冠を制し、有馬記念でもイシノヒカルの5着と善戦。じつにしぶとく、粘りのある逃げを打つ馬であった。父シンドンは愛ダービー馬で、愛2,000ギニー2着、愛チャンピオンSも2着。Hyperion系種牡馬として期待を担って輸入されたが、このタクマオー以外にはこれといった馬は出していない。
タクマオーは、Blandfordの5・5×4の中間断絶クロスを呼び水として、プリメロを強調した形態。ついで、中間断絶ながらSon-in-Lawの6×4も、スタミナ勢力として能力参加を果たしている。スピードは主にOrbyとPolymelusだが、比率としては明らかにスタミナ優位。シンドン内は、HyperionやDonatelloなど血の質は高い。もしこの血が、牝系3代目、4代目に残っていれば、HyperionやDonatelloをクロスさせて、現代でもスタミナの補給源として使いたい馬である。8項目評価は以下の通り。

 ①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□ ⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ タクマオー分析表

■トーヨーアサヒ(1969年生)
同期のダービー馬はロングエース。トーヨーアサヒは、「走る精密機械」と呼ばれるほど正確なラップで逃げを打つ馬で、京王杯AH、ダイヤモンドS、日本経済賞、ステイヤーズS、アルゼンチンJCCなどを、逃げて制覇している。Bayardoの6×5の系列ぐるみクロスを主導に、BMSライジングライト内Gainsboroughを強調した形態。これに続くのがDark Ronald、Persimmon、St.Frusquinなどで、いずれもスタミナ勢力として能力参加を果たしている。スピードはRoi Herodoから補給されているが、全体の比率は明らかにスタミナ優位になっており、これがマイペースに持ち込んだ際の粘りの原動力となっていた。

 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~15F

母内の血の質の低さが、上級レベルにおける限界になったことが推測できるが、St.Simon、Galopinによる土台構造の強固さはみごとであり、精密機械といわれた血統構成の秘密はここに隠されていたのかもしれない。

▸ トーヨーアサヒ分析表

■ホワイトフォンテン(1970年生)
寺山修司の命名による「白い逃亡者」の名は、後々まで語り継がれている。戦績は50戦11勝。主な勝ち鞍は日本経済賞2回、毎日王冠、AJCC、日本最長距離S(芝4000m)など。父ノーアリバイは、フランス産で、成績は二流のマイラーといったところ。種牡馬としても、このホワイトフォンテン以外は、これといった活躍馬は出していない。
ホワイトフォンテンは、Phalarisの5・6・7×6・7の系列ぐるみを主導に、Sickleを強調。Man o’Warのスピードのアシストに、Teddy、Plucky Liegeらによってスタミナをアシストしている。欧米系の血をじつにうまく取り入れ、30数年前にここまで欧米系をフィットさせた配合馬は、他にいないのではないかと思われる。現代でも通用するじつにしゃれた配合馬である。

 ①=○、②=□、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~12F

この馬が本当に頭角を現し始めたのが5歳のとき。日経賞で、天皇賞馬のフジノパーシア、ダービー3着のハーバーヤングを破り、AJC杯では菊花賞馬のコクサイプリンスを抑え、いかにもダークホース的なイメージを持たれていた。しかし、血統構成レベルは、破った相手よりも確実に上であり、本来ならば上位クラスでも主役になれた器といえる。

▸ ホワイトフォンテン分析表

このように検証してゆくと、逃げ馬と呼ばれ活躍した馬には優秀な配合馬が多く、いずれも晩成傾向を示すという共通点を持っている。その理由は、スタミナの裏づけを持つスピードを引き出すためには、それなりの鍛練が必要となるためと考えてよいだろう。最近の例では、タップダンスシチーが、Northern Dancer全開型として、年齢が進むにつれて味のある馬になっている。

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