久米裕選定 日本の百名馬

マヤノトップガン

父:ブライアンズタイム 母:アルプミープリーズ 母の父:Blushing Groom
1992年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:G1有馬記念、G1菊花賞、G1宝塚記念、G1天皇賞・春

▸ 分析表

1995年の4歳(旧表記)クラシック戦線といえば、サンデーサイレンスの初年度産駒たちが登場し、桜花賞にダンスパートナー(2着)、プライムステージ(3着)、皐月賞にジェニュイン(1着)、タヤスツヨシ(2着)と、牡馬・牝馬とも、それぞれ春の初戦から強力馬を送り出してきた。しかし、その時点では、桜花賞の1番人気がライデンリーダー(父ワカオライデン、4着)で、皐月賞のそれもダイタクテイオー(父ニッポーテイオー、8着)であったように、まだサンデーサイレンス産駒に対する評価も、半信半疑のような状態だった。

また、この年は、アイドルホースだったオグリキャップも、皐月賞にオグリワン(16着)を送り出した。マヤノトップガンの父ブライアンズタイムは、前年の1994年に、初年度産駒の4歳馬で、牡馬のナリタブライアン、牝馬のチョウカイキャロルを出し、その活躍ですでにブレイクしていた。その前年にはトニービンも、初年度産駒ウイニングチケットのダービー制覇で、脚光を浴びている。そうした意味でも、93年~95年は、種牡馬の世代交代の時期でもあった。

そして、95年春の4歳牡馬クラシック戦が、皐月賞=ジェニュイン、ダービー=タヤスツヨシと、サンデー産駒が分け合って話題を独占している頃、マヤノトップガンは、下位条件クラスのダート路線を歩んでいた。デビューから7戦目まではダート戦を使われていたが、7月のやまゆり賞(中京芝1,800m)で3勝目をあげると、夏をリフレッシュ期間にあて、秋の神戸新聞杯から、いよいよオープンへの挑戦を開始。その神戸新聞杯は、5番人気でタニノクリエイトの2着、続く京都新聞杯でも2着(1着ナリタキングオー)に入り、オープンでも通用する力を見せた。

秋本番の菊花賞では、牝馬のダンスパートナー(1番人気)、牡馬のナリタキングオー(2番人気)に次ぐ3番人気に推された。レースは、好位から抜け出す堂々の横綱相撲で、前年のナリタブライアンのレコードを0.2秒上回る3分04秒4の好タイムで菊花賞を制覇し、4歳の頂点に立つ。

そして、いよいよ、4歳での有馬記念への挑戦。1番人気は女傑のヒシアマゾンで、股関節炎を発症させた後立ち直りを期待されたナリタブライアンが2番人気。その他にも、秋の天皇賞を制したサクラチトセオー(4番人気)や、古馬になって力をつけたタイキブリザード(5番人気)など、そうそうたるメンバー揃い、菊花賞馬ながら4歳のマヤノトップガンは6番人気であった。古馬の強敵陣を相手に、マヤノトップガンは、こんどは逃げの戦法に出て、タイキブリザードに2馬身差をつけて勝ってしまう。まさに、あれよあれよという間に、古馬を含めた頂点の座を極めてしまった。

マヤノトップガンの全戦績でもっとも印象深いのは、古馬になっての初戦、阪神大賞典であることに異論はないだろう。復活をかけたナリタブライアンとの年度代表馬同士の対決。このレースには、古豪のハギノリアルキング、菊花賞2着のトウカイパレスらが出走してきたが、3コーナーからは、逃げ込みをはかるマヤノトップガンと、それに食らいつくナリタブライアンとで、まさに2頭のマッチレースとなった。ゴールまで両者ゆずらずのデッドヒートは、まさしく「死闘」と呼ぶにふさわしい内容であった。

結果は、頭差でナリタブライアンの貫祿勝ち。トップガンは2着に敗れたものの、3着のルイボスゴールドとは1.5秒、9馬身の差をつけた。このレースは、競馬ファンの記憶だけでなく、日本の競馬史に残る名レースとなった。そして、これによって、父ブライアンズタイムの評価も決定的なものになった。

《競走成績》
4~6歳時に、21戦8勝。主な勝ち鞍は、菊花賞(G1・芝3000m)、有馬記念(G1・芝2500m)、宝塚記念(G1・芝2200m)、天皇賞・春(G1・芝3200m)、阪神大賞典(G2・芝3000m)など。

父ブライアンズタイムは、米国産で21戦5勝。フォーティナイナーなどと同期で、ケンタッキー・ダービー6着、プリークネスS2着、ベルモントS3着と、上級クラスでは、善戦するもあと一息というもどかしさを持った馬であった。それでも、格は下がるが、フロリダ・ダービー(G1・9F)、ペガサスH(G1・9F)と2つのG1レースを制している。

自身の配合は、父RobertoがHyperionを含まず、母Kelley’s DayがNasrullah、Nearcoを含まないことで、Sir Gallahad(仏2000ギニー)の5・5・7×5が、母方Plucky Liegeとその父Spearmint(英ダービー)らを系列ぐるみに含めて主導を形成。父母間の世代も整い、個性的な血統構成を示していた。ただし、欧米の血の結合にややスムーズさを欠いたとや、Ribotのスタミナのキーホースを完全には押さえきれなかったことなどが、上級レベルでのレースにおける詰めの甘さを生んだ原因になったものと考えられる。

▸ ブライアンズタイム分析表

母アルプミープリーズは、米国産で不出走。その父Blushing Groomは、仏2000ギニーなど10戦7勝の戦績。種牡馬としても、Nashwan(英ダービー)、ラムタラの母Snow Bride(英オークス)、アラジ(BCジュヴェナイル)、Rainbow Quest(凱旋門賞)などを輩出している。また、日本にも、クリスタルグリッターズ、バイアモン、グルームダンサーなどの産駒が、種牡馬として輸入されている。日本では、期待ほどの血の広がりを見せてはいないが、欧米ではNasrullah系の主流に。

ちなみにBlushing Groomの全兄ベイラーンは、すでに1975年に種牡馬して輸入されていたが、1シーズンのみの供用で死亡。代表産駒となったネオキーストン(福島記念)が種牡馬となり、公営のカゴヤツヨシなどを出したが、サイアーラインとしては残っていない。

なぜ、Nasrullah主流の日本で、思ったほどの実績を残せなかったのか?

その理由を簡単に述べておこう。Blushing Groom(=ベイラーン)は、自身の成績と、Nasrullah系というサイアーラインから、スピードタイプのイメージを持たれるが、自身の配合が、Blandford5×4・5の系列ぐるみが主導で、RabelaisがこれをアシストするWild Risk強調型であるように、イメージとは異なり、むしろスタミナによさをもつ血統構成だったのである。それが日本の馬場では素軽さを欠く要因となり、産駒の成績が伸び悩んだと考えてよいだろう。

母アルプミープリーズは不出走であったが、その配合はNearco主導で、BMSのVaguely NobleやHyperionを通じた祖母内Alibhaiらのアシストによって、明らかに中長距離タイプの様相を呈していた。もしも無事に競走馬になっていれば、日本の中央準オープンクラスの中長距離レースで、そこそこの実績を残したとしても不思議のない内容を示している。そして、母の母内にShut Outの血を配し、Broomstick、Fair Playの血を含めていたことは、トップガンの誕生にとって大きな意味を持つことになる。

▸ アルプミープリーズ分析表

マヤノトップガンの血統構成では、5代以内同士のクロスは、Nasrullahの5×4とAlibhaiの5×5で、いずれも系列ぐるみを形成しているが、Nasrullahの父のNearcoが、Vaguely Noble内で5代目に配され、その母Mumtaz Begumもクロスとなっており、位置と系列ぐるみの関係から、主導はNasrullahとなる。Alibhaiのほうは、セントレジャーを勝っているHyperion、Tracery両馬のクロスの裏づけで、スタミナ勢力として、Chaucer、St.Simon、Sainfoinなどを通じて、主導と直接結合を果たしている。Boudoir Ⅱも、Blenheimで主導のNasrullahと、GainsboroughでAlibhaiとの結合を果たし、スピード・スタミナを供給している。そして、Sir Gallahad=Bull Dogも、TeddyやPlucky Liegeのクロスを得て、Spearmint、St.Simonよって、主導のNasrullahと直結。同じくAlibhaiとも、Bay RonaldやSt.Simonによって結合を果たしている。

つまり、影響度数字に換算される6代以内のクロス馬は、すべて互いに結合を果たして連動態勢が整っている。Nasrullah主導で、強調された血がRed Godということから、一見するとスピード馬の配合のように思われるが、前記の検証の通り、主導に連動して注入されている要素の80%程度はスタミナ勢力なのである。この強固な結合と豊富なスタミナ勢力こそが、マヤノトップガンの強さの血統的根拠であることは間違いない。以上を、8項目で評価すると以下のようになる。

 ①=○、②=○、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=8~15F

どちらかといえば、父よりも母アルプミープリーズの影響の強い配合だが、前述した母内Shut Out に含まれるBroomstickやFair Playの血が、父内の米系と呼応して、弱点・欠陥の派生を防いだことが、マヤノトップガンの能力形成において、隠れた血の秘密となっていることを付記しておきたい。もしもこの血がなければ、父内のHail to ReasonやHasty Roadのスピードが完全には再現されず、ブライアンズタイムの種牡馬としての効力も半減してしまったはず。そうなると、GⅠはおろか、芝ではオープン馬としても通用しない、というのが理論からみた結論になる。

父母内に存在するたったひとつの血が、あるいはちょっとした血の位置によって、その馬の運命が左右されたり、血統の歴史を変えることさえある。それが配合の難しさであり、血統の奥の深さなのである。マヤノトップガンの血統構成は、そのことを改めて私たちに知らせてくれた。

もうひとつ、マヤノトップガンには、その戦績を振り返ってみると、配合によって備わった本来の能力と、調教・鍛練によって引き出された能力開花の過程に、密接な関連を見いだすことができる。それというのも、トップガンようなスタミナ優位の血統構成の馬は、能力開花に、ふつう以上の鍛練が要求される。したがって、未開花の場合には、もっぱらダートを使われ、厩舎実績の下位ランクの所に所属した場合には、ダート馬で終わる可能性が高い。

トップガンの場合も、最初はダートを使われていたが、鍛練によって芝対応のスピードが引き出されてくると、今度は先行策で持ち味を生かすようになってきた。これが4歳秋から5歳のレース振りに現れており、いわゆるスタミナ優位の血統構成馬に見られる特徴である。

しかし、この馬の奥まった位置にThe Tetrarchのクロスが7つもあり、潜在的にはかなりのスピードを備えていたことも、分析表から十分に読み取ることができる。この血が完全に開花した状態が、6歳時の競馬で、阪神大賞典、そして本番の天皇賞でサクラローレルに雪辱を果たした直線での差し脚は、まさにその産物である。このときが、マヤノトップガンの能力が全開された姿だったといえるだろう。

ブライアンズタイムの後継種牡馬としては、まずナリタブライアンが期待されて種牡馬入りを果たした。しかし、実績は思うように伸びないまま、2世代の産駒を残しただけで、1998年に死亡。ナリタブライアン自身は、たいへんすぐれた血統構成馬であったが、種牡馬としては、ランダムに配合すると、産駒の血統は、ブライアンズタイム自身の中ではクロスしていなかったNasrullahやNorthern Dancerがクロスになる確率が高い。その結果、配合内容はナリタブライアンとは異なる形態を示すことになり、その意味で特徴を引き出すことが難しいタイプの種牡馬てあった。そのことは当初から指摘してきたが、その不安が現実になりそうな状況。

それに対し、マヤノトップガンのほうは、自身がNasrullah主導で、Northern Dancerを含んでいないことから、ナリタブライアンよりは、対応範囲の広い種牡馬という推測ができた。それを証明するように、初年度産駒のバンブーユベントスが、日経新春杯(G2)を制し、2年目産駒のチャクラがステイヤーズS(G2)を勝ち、すでに種牡馬としては、ナリタブライアンを上回る実績を残している。

ただし、バンブーユベントス、チャクラとも、上位クラスに入ると、スピード面でやや不安を見せているように、トップガン産駒は総じてスピード不足になりやすい。その理由は、すでに解説したように、スタミナ要素が優勢なためである。誤解なきようにいえば、そのこと自体は決して悪いことではなく、あくまでも日本の馬場への適応や、日本の調教技量レベルを考慮してのこと。

それでいうならば、トップガンはむしろ欧州で種牡馬生活を送ったほうが、たいせつな血を残す可能性が高いはず。しかし、現実には日本で供用されているのだから、そこでの成功可能性を追求しなければないらないことも事実。そこで、トップガンの配合について、おおよその目安を考えてみよう。着目する血としては、欧米の血をまとめる役割としてHail to Reason、スピードの引き出し役としてHasty Road、NasrullahとMenowのまとめ役としてRed God、必ずしも日本的ではないが上質のスピード・スタミナを含むGraustarkなど。それ以外のポイントとしては、母方の血の中で、スピード・スタミナ要素をまとめる方法が必要だろう。参考として、すでに勝ち上がっているチャクラ、アドマイヤロッキーの分析表を掲載しておくので、参照していただきたい。

■チャクラ
 ①=□、②=□、③=□、④=□、⑤=○、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=9~11F
 Bull Dog、Blandford系の生かしたかたによさがある。3歳から頭角を現しているのは、Red Godの血による。

▸ チャクラ分析表

■アドマイヤロッキー
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=△、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~12F
 祖母内Ela-Mana-Mou(キングジョージ・2,400m)、Val de Loir(仏ダービー)のアシストで、重厚なタイプだが、英2,000ギニー馬Tudor Minstrelの6×4で、Lady Jurorなどスピードの血をまとめたことがポイント。順調さを欠き、休養中だが、ぜひとも開花した姿を見たい馬である(故障などのため残念ながら大成はできなかったが、乗馬として余生を全うできた模様)。

▸ アドマイヤロッキー分析表

最後にGⅠには手が届かなかったが、トップガンの配合と類似性のある型、すなわちNasrullah主導でRed God強調型の配合馬2頭の分析表を掲載しておこう。

■アイネスサウザー
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=□
 総合評価=1A級 距離適性=8~10F
 スタミナ勢力はやや弱いが、Lyphardの特殊な仏系の血がうまく生かされている。所属厩舎が心もとなかった。

▸ アイネスサウザー分析表

■ビッグバイアモン
 ①=○、②=○、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=◎、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~15F
 スティルインラブ(父サンデーサイレンス)の半兄で、絶妙のバランスを持つ。故障・リタイアは惜しまれ、もしも無事であれば、マヤノトップガンのライバルになっても不思議のない血統構成の持ち主であった。

▸ ビッグバイアモン分析表

 

 

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