久米裕選定 日本の百名馬

メジロラモーヌ

父:モガミ 母:メジロヒリュウ 母の父:ネヴァービート
1983年生/牝/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:牝馬三冠(桜花賞、オークス、エリザベス女王杯)

▸ 分析表

牝馬三冠は、1986年(昭和61年)、メジロラモーヌによって初めて達成された。といっても、秋の牝馬G1レースとして、エリザベス女王杯が創設されたのが、1976年(昭和51年、その前身であるビクトリアカップ創設も昭和45年)のことだから、牡馬と比べて、その歴史は浅い。その意味では、それまでの牝馬に、三冠馬にふさわしいような名馬がいなかったわけではない。ちなみに、メジロラモーヌ以前に、桜花賞とオークスの二冠を制しているのは、スウヰイスー(1952年)、ヤマイチ(1954年)、ミスオンワード(1957年)、カネケヤキ(1964年)、テスコガビー(1975年)、テイタニヤ(1976年)などがいる。また、ラモーヌ以降は、マックスビューティ(1987年、エ女王杯はタレンティドガールの2着)、ベガ(1993年、エ女王杯はホクトベガの3着)、そして1996年(平成8年)に秋華賞が新設されて以降は、昨年のスティルインラブが、ラモーヌについで2頭目の牝馬三冠の栄誉に輝いたのである。また前記の馬でスウヰスイーの時代は、オークスは秋に行われており、春の東京に定着したのは、1953年の第14回から。桜花賞のほうも、第1回(1939年)から5回までは中山1800m、6回が東京1800m、7~9回が京都1600m、そして阪神の1600mになったのは第10回(1950年)からだから、いずれにしても、牡馬の場合とはかなり条件が違っていた。

メジロラモーヌが交配された昭和57年頃は、日本競馬も完全にスピード化の方向に向かい、サイアーランキングも、テスコボーイ、アローエクスプレス、パーソロン、ファバージらのスピード系が上位を占めていた。そして、もう一つの潮流は、米国系の血が浸透し始め、ちょうどこの昭和57年に、ノーザンテーストがリーディングサイアーの1位になっている。メジロラモーヌの父モガミは、その少し前、昭和55年に輸入され、ラモーヌは2年目の産駒。

ラモーヌのデビューは、3歳(当時の表記)10月で、2着馬に大差(18馬身差)をつけて圧勝した。その後、京成杯3歳Sと4歳初戦のクイーンCで4着に敗れたものの(その間に2勝)、桜花賞トライアルの4歳牝馬特別からエリザベス女王杯までは、無傷の6連勝を遂げ、シンボリルドルフの重賞連勝記録を破ってしまった。その年の暮れには、女傑誕生の期待を担って有馬記念を引退レースに選んだ。出走メンバーは、前年の二冠馬ミホシンザン、天皇賞・春を勝ったクシロキング、天皇賞・秋のサクラユタカオー、同期ダービー馬のダイナガリバー、安田記念のギャロップダイナ、後の宝塚記念馬スズパレードなど、そうそうたる顔ぶれが揃ったが、人気はミホシンザンに続く2番人気に支持された。鞍上は牝馬得意の河内洋。しかし、結果は、直線での不利もあって、ダイナガリバーの9着に終わり、引退の花道を飾ることはできなかった。

《競走成績》2~3歳(現表記)時に、12戦9勝。主な勝ち鞍は、桜花賞(G1・芝1600m)、オークス(G1・芝2400m)、エリザベス女王杯(G1・芝2400m)、4歳牝馬特別・西(G2・芝1400m)、4歳牝馬特別・東(G2・芝1800m)、ローズS(G2・芝2000m)など。

《繁殖成績》
89メジロリュウモン(牡・父メジロティターン、0勝)
90メジロリベーラ(牝・父シンボリルドルフ、0勝)
92メジロテンオー(牡・父リアルシャダイ、3勝)
94メジロディザイヤー(牡・父サンデーサイレンス、2勝)
96メジロモンジュ(牡・父リンドシェーバー、0勝)
97メジロブレット(牡・父ティンバーカントリー、2勝)
98メジロフラックス(牝・父ラムタラ、1勝)
99メジログリーン(牡・父メジロライアン、現役3勝)
00メジロベッカム(牡・父ブライアンズタイム、0勝)

父モガミはフランス産で、2~4歳時に20戦3勝。GⅠ勝ちはないが、日本でいうところの特別レースで、1400m~2400mの距離を克服している。日本への輸入は、昭和55年12月で、代表産駒は、ラモーヌの他に、シリウスシンボリ(日本ダービー)、ユーワジェームス (ニュージーランドT4歳S)、メジロワース(マイラーズC)、メジロモントレー(アルゼンチン共和国杯、クイーンS、金杯東)、ナカミジュリアン(クイーンC)、レガシーワールド(ジャパンカップ)、ブゼンキャンドル(秋華賞)など、中長距離の活躍馬を輩出している。 

ただし、モガミ自身の配合は、Pharamond(=Sickle)のスピード系のリードに、Blenheimのスタミナが加わって、一応のまとまりは示すものの、父母の持つ特徴を生かしきれず、その戦績が示す通り、二~三流の内容であった。そのかわり、Lyphardの持つ欧州系のスピード・スタミナを内包していた。また、BMSのLucky Debonair(ケンタッキー・ダービー馬)がSt.Simon-Galopinの土台を基礎に、日本に不足していたTeddyのスピード・スタミナを加えている。そして、Mumtaz Mahalの父ではないThe Tetrarchの血を2つ、よい位置に配していたことは、それまでの日本では見られなかった構造であった。同様に、Nasrullahの血を含んでいなかったことも、種牡馬としてモガミの、忘れてはならない特徴である。ファミリーは、Caerleonと同系。

それに対して、母メジロヒリュウは、2~4歳時に24戦4勝の成績。重賞勝ちはないが、中距離の特別レースを2つ勝っている。その母アマゾンウォリアーは米国産で不出走。昭和40年に輸入され、メジロイーグル(父メジロサンマン、19戦7勝、京都新聞杯)を出している。そのメジロイーグルから、メジロパーマー(有馬記念)が出ており、そのことからアマゾンウォリアーは、メジロ牧場の重要な基礎牝馬となっている。

そうした両親の間に生まれたのがメジロラモーヌである。その血統は、まず前面で強い影響を示しているのが、Hyperionの6×4で、途中Bayardoは断絶しているものの、母系のSeleneが系列ぐるみのクロスを形成しているので、まずこれが主導勢力と見ていいだろう。つぎに、Nearcoの5×5で系列ぐるみがあるが、これは主導とは、Chaucer-St.Simon、Cylleneで結合を果たし、スピード・スタミナを補給している。中長距離型の産駒が多いモガミだが、メジロラモーヌには、他の産駒には見られないスピードが備わっていた。その要因として、重要な役割を果たしているのが、Tetratemaの8×6、Mumtaz Mahalの8×6・7、その父The Tetrarchの9・9・9×6・7・7・8のクロスである。これらが、Mahmoudの6×5の系列ぐるみに加わり、瞬発力を備えたスピードを供給している。そして、このMahmoudは、Gainsboroughを通じて主導と結合を果たし、その結果、主導のHyperionはスピードのあるHyperionへと、能力変換がなされている。これが、牝馬のGⅠロードでみせたラモーヌのスピードと決め手の血統的な源泉だったのである。

以上を、8項目で評価すると以下のようになる。
 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=△、⑥=□、⑦=○、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~11F

もう一つ、ラモーヌのスピードを演出した要因として、自身の中で強調されていたKhaledについて、説明を加えておきたい。Khaledはアイルランド産で、12戦6勝。コヴェントリーS、ミドルパークSなど、短距離のスピードレースで実績を残した馬で、代表産駒はSwaps。Hyperion系でありながら、母方のThe TetrarchやPolymelus、Sundridgeによってスピードが供給され、スピードの伝え手として、現代でも多大な影響を及ぼしている。この母系は、Khaledのみならず、母Eclairの全妹Infra Redも、Mill Reefの母系として、スピードを伝えている。とくにMill Reefの配合では、この中に含まれるThe Tetrarchの存在が、Mill Reefのスピードの立役者になっていたことは、ぜひとも記憶しておきたい。また、Khaledの血は、サンデーサイレンスの母方にも配されていて、サンデー自身やその産駒に、スピードを供給する役割を果たしている。フジキセキなども、Khaled-Red Rayのクロスが、能力形成に重要な役割を果たしていた。日本の競馬のスピード化のプロセスは、NasrullahとThe Tetrarchの血が多数派を占めていたが、メジロラモーヌは、Hyperion系のスピード馬として、いち早く頭角を現した1頭だったのである。Khaledの8項目評価は以下の通り。

 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=○、⑦=○、⑧=□
 総合評価=1A級 距離適性=6~10F

▸ Khaled分析表

メジロラモーヌは、桜花賞トライアルから重賞6連勝と、牝馬同士のレースでは無敵の強さを誇っていた。しかし、三冠最後のエリザベス女王杯では、スーパーショットに1/2差まで詰め寄られ、引退レースとなった有馬記念では、直線の不利があったとはいえ、9着に沈んでいる。また、3歳時の京成杯や4歳初戦のクイーンCでも、圧倒的な1番人気に支持されながら、不可解な敗戦(ともに4着)を喫している。その要因を血統に求めるとすれば、前半の不可解な敗戦はKhaledの気性面の問題、そしてエリザベスの苦戦と有馬記念の惨敗は、距離適性によるものと推測できる。

それともう一つ、影響度数字が「0」となったモガミの母ノーラックが、能力参加していない点もあげることができるだろう。ノーラックは、ケンタッキー・ダービー馬Lucky Debonair (日本ではマラケートの父としてもなじみ深い)の産駒だけに、構成されている血はCommando、Dominoなど、米系の特殊な血が多い。そのために、どうしても欧州系の血との連動性が弱くなり、メジロラモーヌの血統構成内でも、能力形成やバランス面において、能力減を引き起こす要因になったものと推測できる。ここが、ラモーヌが2000mを超えるレースになると限界を見せる血統的根拠と考えてよいだろう。

つぎに、牝馬三冠を達成し、期待されて繁殖入りしたメジロラモーヌを考察してみたい。当初、シンボリルドルフとの交配によるメジロリベーラなどは、「父母合わせて十冠」という夢の配合が話題になった産駒だったが、期待に応えるだけの結果は出ていない。しかし、I理論から診断すれば、決して悪い内容ではなく、血統構成上はオープン級の評価を下すことはできた。しかし、それ以外の産駒たちは、NasrullahやHyperionのクロスが同時に派生してバランスを崩したり、あるいは前述のノーラック内に弱点を派生させたりと、満足できるような内容を持つ交配はされていない。

走り過ぎた牝馬の産駒は成績が伴わない、などとよくいわれるが、ラモーヌの場合は、そういうことよりも、まず父母間に生じた世代のずれが問題。そして、ノーラックという扱いの難しい血の存在が、繁殖としての成績に影響していると考えられる。ランダムな配合では、優駿生産の確率が低い繁殖牝馬というのが、I理論からの判断になる。

■メジロリベーラ
 ①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ メジロリベーラ分析表

結果を残せなかった理由は、あくまでも分析表上の推測だが、気性面あるいは馬体によるもの。血統内でいえば、Man o’War、Fair Playの欠落といったことが、理由として考えられる。

最後に、参考までに、メジロラモーヌを苦しめたスーパーショットと、そのときの3着馬ロイヤルシルキー、そしてモガミ産駒としては優れた血統構成を示していたナカミジュリアンに、簡単に触れておこう。

■スーパーショット
 ①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F
血の集合はわかりにくいが、Pharamond(=Sickle)のリードで、Buckpasserが全開。スタミナ面では明らかにメジロラモーヌを上回る配合。血統構成だけでいえば、エリザベス女王杯で、ラモーヌに先着しても不思議はなかった。

▸ スーパーショット分析表

■ロイヤルシルキー
 ①=○、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=△、⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=8~10F
Menowの5×6の系列ぐるみが主導。現代の馬に通ずる形態を持つスピード配合。それもそのはずで、母のモミジⅡは、マーベラスサンデーの祖母として、現代でも産駒にスピード・スタミナを供給している。

▸ ロイヤルシルキー分析表

■ナカミジュリアン
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~12F
Nearcoを主導に、Hurry On、Son-in-Lawのスタミナ、Tetratema-The Tetrarchのスピードを生かし、モガミ産駒としてはトップレベルの配合馬であった。

 ▸ ナカミジュリアン分析表

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