久米裕選定 日本の百名馬

セントライト

父:ダイオライト 母:フリッパンシー 母の父:Flamboyant
1938年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:皐月賞、ダービー、菊花賞

▸ 分析表

いうまでもなく、日本で初の三冠馬となったセントライト。デビューは、太平洋戦争に突入した年、1941年(昭和16年)3月15日、横浜根岸競馬場の新馬戦1,700m芝。

当時の日本は、トウルヌソル(父Gainsborough)、シアンモア(父Buchan)の両馬が、2大種牡馬として君臨していた。そして、ダイオライト(父Diophon)は、日本に輸入された最初のクラシックホース(英2000ギニー)だったにも関わらず、その体型から、種牡馬としての評価が低かった。それらの理由から、セントライトの競走馬としての期待値も低く、新馬戦は12頭立ての7番人気で、単勝配当が200円(大卒初任給が70円の時代)という大穴。不的中者にも7円50銭の特別配当があったといわれている。2戦目が、その15日後の横浜農林省賞典4歳呼馬(現在の皐月賞に相当)1850m。これは1番人気で優勝。

そこから、5月18日のダービーまでに4戦を消化し、古馬混合のハンデ戦では2着に敗れているが、他の3戦は1着。ダービーでは、直前のレースで鮮やかな勝利をおさめたミナミモア(父シアンモア)が1番人気で、セントライトは2番人気に。しかし、東京競馬場で行われた本番のレースでは、好位を追走し、直線で先頭に立つという横綱相撲。2着のステーツに8馬身の差をつけ、2400m(芝重)を2分40秒1のタイムで圧勝し、第10回ダービー馬となった。

夏を休養にあてたセントライトは、9月から始動し、菊花賞までに4戦して2勝。本番の菊花賞(京都芝3,000m、芝重)は、6頭立ての1番人気になる。ダービーで、1番人気を譲ったミナミモアを、2馬身半差しりぞけて優勝、初代三冠馬となる。勝ち時計は3分22秒3。

セントライトは、馬体重500㎏、体高165㎝と、当時としてはかなりの大型馬で、軍馬育成の制度規制の撤廃がなければ、体高164㎝以下という規定に引っかかって、中央競馬には出走できなかったといわれていた。菊花賞を制したセントライトは、その後は、ハンデ等の関係から、出走レースが制限されるために、オーナーの意向で引退し、種牡馬生活に入った。

《競走成績》
3歳時のみの競走で、12戦9勝。主な勝ち鞍は、皐月賞、ダービー、菊花賞など。

《種牡馬成績》
主な産駒は、オーライト(天皇賞、京都記念)、オーエンス(天皇賞、京都記念)、セントオー(菊花賞)、トキノダイゴ(七夕賞)など。

父ダイオライトはイギリス産で、2~5歳時に走り、24戦6勝。2,000ギニーを制す。スプリンター、マイラーとして実績を残し、1935年にOrby系のスピードの伝え手としての期待を担って輸入。

しかし、産駒は、セントライトを始め、テツザクラ(菊花賞)、グランドライト(天皇賞)、ヒロサクラ(天皇賞)、トヨウメ(天皇賞)など、力強い中長タイプとして成功している。スピードタイプとしては、タイレイ(桜花賞)、ハマカゼ(桜花賞)などの牝馬が出ている。

ダイオライト自身の配合は、St.Simonの5・5×4を呼び水に、Hermit-Newminsterのスピード、Wenlockのスタミナを加えた近親度の強い配合で、バランスとしては、決して一流とはいえない。しかし、強調されたRock Sandに血を集合させたことが、ここ一番の2,000ギニーでの優勝に結びつく原動力となったものと考えられる。ちなみに、ダイオライトの母系からは、日本に種牡馬として輸入されたラヴァンダン(天皇賞馬ヤマニンウェーブの父)が出ている。

母フリッパンシーは、英国産の1勝馬で、1928年に輸入され、小岩井農場に繋養された。繁殖牝馬として、日本競馬への貢献度は高く、産駒にはセントライトの他に、トサミドリ(21勝、皐月賞、菊花賞、セントライト記念)、クリヒカリ(旧名=アルバイト、9勝、皐月賞、天皇賞、横浜記念)、大鵬〈タイホウ〉(11勝、目黒記念、横浜御賞典、オールカマー)らを輩出している。フリッパンシー自身はGalopinの4・6・6×4・5を呼び水として、St.SimonやDonovan(英ダービー、セントレジャー)を強調した配合だが、スピード要素を欠いたことが、1勝馬で終わった要因と考えられる。しかし、構成されている血はTracery(セントレジャー、エクリプスS)を始め、いずれも欧州を代表する質のよさを備え、血の世代も整然としていた。こうした構造を持っていたことが、後に活躍馬の輩出と結びついたのである。

セントライトの血統では、5代以内同士のクロスは、Rock Sandの3×4、Donovanの4×4、Ormeの5×5、St.Simonの5×4があり、種類の異なるクロス馬が多く派生している。この状態は、主導の明確性という意味では、決して好ましいことではない。しかし、Rock Sand(英三冠馬)、Donovan(英ダービー、セントレジャー)、Orme(エクリプスS、チャンピオンS)、St.Simon(無敗、アスコットゴールドC)らは、いずれも優秀な血統構成馬である。そして、これらの血が、近い世代で、Galopinを通じて結合を果たしたことは、セントライトの配合の見どころとなっている。前述した馬たちは、いずれもスピード・スタミナ兼備の馬だが、Orme以外は、どちらかといえばスタミナタイプの馬である。父がスプリンター、マイラータイプのダイオライトでありながら、3000mの菊花賞をも制したセントライトは、明らかにスタミナ優位の血統構成であることが確認できる。この優秀なスタミナと、Galopinを中核とした結合の強固さが、セントライトの強さの基盤であり、三冠達成の源だったのである。以上を、8項目に照らして評価すると以下のようになる。

 ①=□、②=△、③=◎、④=○、⑤=□、⑥=○、⑦=○、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=10~15F

⑥のクロス馬の種類を○としたのは、結合が8代目で完了しており、種類が実質30台であるため。初代の三冠馬が3B級というのでは、いささか納得しにくい面が残るだろう。しかし、「シンプル・イズ・ベスト」を配合の基本とするI理論の立場からすると、②の配置や近親度の強さが問題となる。こうした血統構成の馬は、上級レベルのレースにおいては、スピード的に限界を露呈する傾向が見られる。セントライトの場合も、そうしたスピード面の弱さが、三冠レースの時計に現れており、決して優秀なタイムとはいいがたい。ダービーや菊花賞などは、「重馬場を味方につけた勝利」との評も見られ、8項目評価の②は種類の異なるクロス馬が5代以内に配置されたことで△、⑧項目が□となり、総合評価3B級が妥当と思われる。とはいうものの、セントライトの血統構成は、決して悪い内容ではない。当時の国内馬との比較では、血の質、とりわけスタミナ面ですぐれた要素を秘めていたことは事実であり、3歳時に12戦もして、故障もなく三冠を制したことが、それを裏づけている。その後、種牡馬としても、日本の競走馬の血の質の向上に貢献したことも間違いない。

セントライトは、日本初の三冠馬として、期待されて種牡馬入りしたことはいうまでもない。しかし、前述したように、昭和16年12月には、太平洋戦争が勃発しており、産駒実績としては、昭和24年以降が目安になる。産駒の傾向は、種牡馬実績の項で記したように、自身の特徴とよく似た中長タイプの馬が多く、スタミナの伝え手としてとくに貢献したといえる。サイアーランキングも、昭和22年=10位、23年=10位、25年=8位、26年=9位、27年=8位と健闘していた(1位は、22~26年の間は、トキノミノルの父として有名なセフトが連続、その後6年はクモハタが首位)。

種牡馬としてのセントライトは、スタミナは心配ないが、スピードをいかに引き出すかが課題であった。となれば、前面では、Orbyの血に着目することが望ましく、それに成功したのが、菊花賞馬のセントオーのケースである。この馬の主導は、Orbyの5×5の系列ぐるみで、Grand Paradeが強調され、父に不足していたスピードを確保している。スタミナは、St.Simonを始め、Sainfoin、Isinglassなどから補給し、Galopin、Doncasterによって他系統と結合を果たし、セントライトの特徴をうまく生かした血統構成となっている。これを8項目に照らすと以下の通り。

①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ セントオー分析表

母内のBuchan のスピードを生かせなかったことや、父内における血の集合がわかりにくいことは、この馬の能力の限界となるが、菊花賞の勝ち時計3分10秒1は、父に不足していたスピードを補う配合であったことを、十分に証明することができる。

セントオーは、種牡馬となったが、牡馬にこれといた産駒を出すことができず、そのために父系は途絶えてしまった。また、その他のセントライト産駒も、天皇賞を制したオーエンスなどが種牡馬となったが、いずれも産駒にめぐまれず、父系をつなげることはできなかった。この原因は、やはりスピード不足。セントオーでいえば、母内プリメロ、シアンモアといった血が、当時の繁殖牝馬の主流となっており、代々重ねてきた日本の血の閉塞状況が起きてしまったと考えてよいだろう。

現代では、競走馬の血統の中に、セントライトの名を見かけることはほとんどなくなってしまった。少し前の時代には、カブトヤマ記念を制したアイアンハートの父オーシャチ、オークスを制したリニアクインの中に見ることができた。アイアンハートの配合は、Bクラスのそれだが、重馬場巧者はセントライトに似ている。リニアクインの配合は、歴代オークス馬の中でも上位にランクされる内容で、同年のダービー馬ラッキールーラあたりとの比較ならば、明らかにそれを上回る。分析表を掲載しておいたので、比較してみていただきたい。

■リニアクイン
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、 ⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~12F

▸ リニアクイン分析表

■アイアンハート
 ①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=△、 ⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=8~10F

▸ アイアンハート分析表

 

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