久米裕選定 日本の百名馬

スペシャルウィーク

父:サンデーサイレンス 母:キャンペーンガール 母の父:マルゼンスキー
1995年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:G1ダービー、G1ジャパンC、G1天皇賞・春、G1天皇賞・秋

▸ 分析表

スペシャルウィークのデビューは、1997年(平成9年)の11月、阪神競馬場・芝1600mの新馬戦。14頭立ての1番人気に支持され、その期待に応えて、好位から抜け出し、危なげないレースぶりでデビュー戦を勝利で飾った。スペシャルウィークの同期には、グラスワンダー、エルコンドルパサーといった外国産馬をはじめ、キングヘイロー、セイウンスカイなどの個性的な馬たちが揃い、近年では最強世代との評価を得ている。ただし、3歳春のクラシック路線においては、まだ外国産馬には出走資格が認められていなかったために、ライバルとしては、上記のうち内国産のキングヘイローやセイウンスカイたちの名があげられていた。

スペシャルウィークは、2戦目の特別戦は2着に敗れたものの(1着=アサヒクリーク)、続くきさらぎ賞、弥生賞を連勝し、クラシック第1弾となる皐月賞では、堂々の1番人気に推される。しかし、レースでは、展開やコースの内外の有利・不利などが作用して、セイウンスカイの3着に敗れた。

そして迎えたダービー。ここでは、広い東京の馬場を味方に、ボールドエンペラーに5馬身の差をつけて圧勝。皐月賞の雪辱を果たすとともに(セイウンスカイは4着)、第65代ダービー馬の栄冠を獲得した。

その夏を順調に過ごしたスペシャルウィークは、秋初戦の京都新聞杯でキングヘイローを破り、3歳最強馬を決定する菊花賞へと駒を進める。しかし、ここでは、仮柵を外した最内のグリーンベルトを利して逃げを打ったセイウンスカイに、3馬身差をつけられて2着。続くジャパンカップでも、同期の外国産馬エルコンドルパサーの3着に破れ、3歳秋のシーズンは、やや不完全燃焼気味の状態で終わった。

年が明け、古馬となったスペシャルウィークは、AJCC、阪神大賞典、天皇賞・春と3連勝を飾り、遅咲きの血統を開花させて、古馬中長距離路線の頂点に立った。続く宝塚記念は、前年のグランプリホースで、同期のグラスワンダーを抑えて1番人気に推されるが、同馬に3馬身の差をつけられ、2着に敗退。さらに同年夏の猛暑で体調を崩し、秋初戦となる京都大賞典では、ツルマルツヨシの7着と、初めて掲示板を外す惨敗を喫す。

秋の天皇賞では、スペシャルウィークも、もはやこれまでかと思われ、人気もセイウンスカイ、ツルマルツヨシ、メジロブライトに次ぐ4番人気と、評価を下げた。しかし、ダービーを制したゲンのいい東京コースで、再び豪脚を披露し、レコードのおまけ付きで制覇。天皇賞春・秋を連覇し、みごとな復活劇を演じた。そして、日本代表としてジャパンカップに出走。この年は、直前の凱旋門賞で、エルコンドルパサーを破り、欧州の頂点に立ったモンジュー(仏・愛ダービー馬)が、8戦7勝の戦績を引っさげて参戦してきた。その他にも、ドイツの古豪タイガーヒル、同じく仏の女傑ボルジア(独から移籍)、前年の英ダービー馬ハイライズなど、近年ではもっとも充実したメンバーが揃った。

そうした強豪馬を相手にしたスペシャルウィークだったが、堂々の横綱相撲を演じて、ダービー、天皇賞・秋に続き、東京コース3度目となる栄光のゴールを駆け抜け、日本代表馬として、重責をみごとに全うした。

そして引退レースとなる有馬記念では、再度グラスワンダーにハナ差敗れたものの、中長距離資質を秘めたサンデーサイレンス産駒として、みごとな戦績を残してターフを去っていった。

《競走成績》2~4歳時に走り、17戦10勝。主な勝ち鞍は、日本ダービー(G1・芝2400m)、天皇賞・春(G1・芝3200m)、天皇賞・秋(G1・芝2000m)、ジャパンC(G1・芝2400m)など。

父サンデーサイレンスは米国産。ケンタッキー・ダービー(G1・10F)、プリークネスS(G1・9.5F)、BCクラシック(G1・10F)、サンタアニタ・ダービー(G1・9F)、スーパーダービー(G1・10F)、カリフォルニアンS(G1・9F)など14戦9勝。種牡馬として、1991年から日本で供用され、初年度産駒からダービー馬タヤスツヨシ、皐月賞馬ジェニュインを出す。以下、フジキセキ(朝日杯3歳S)、イシノサンデー(皐月賞)、ダンスインザダーク(菊花賞)、ダンスパートナー(オークス)、バブルガムフェロー(天皇賞・秋)、マーベラスサンデー(宝塚記念)、サイレンススズカ(宝塚記念)、スティンガー(阪神3歳牝馬S)、アドマイヤベガ(ダービー)、アグネスフライト(ダービー)、アグネスタキオン(皐月賞)、ステイゴールド(ドバイシーマC)、エアシャカール(皐月賞、菊花賞)、ビリーヴ(スプリンターズS、高松宮記念)、ネオユニヴァース(皐月賞、ダービー)、スティルインラブ(桜花賞、オークス、秋華賞)、ハーツクライ(有馬記念、ドバイシーマC)、スズカマンボ(天皇賞・春)、ヘヴンリーロマンス(天皇賞・秋)、ハットトリック(マイルCS)、エアメサイア(秋華賞)、そして2006年に引退したディープインパクト(皐月賞、ダービー、菊花賞、天皇賞・春、宝塚記念、JC、有馬記念)など、日本の血統地図を席巻する、奇跡的な実績を残したことは周知の通り。2002年死亡。

母キャンペンガールは未出走馬。スペシャルウィークを出産した後に体調を崩し、死亡している。キャンペンガール自身は、父マルゼンスキー内の米系の血がクロス馬となれなかったために、バランスの悪い配合馬となった。不出走で終わったのも、そうした配合上の不備が影響したとも考えられる。

それよりも、この牝系の見どころは、明治40年に輸入された基礎牝馬フロリースカップに行き着き、交配された種牡馬が、インタグリオー、ガロン、シアンモア、ダイオライト、プリメロ、ヒンドスタン、セントクレスピン、マルゼンスキーという具合に、日本の競馬史、血統史を語る上で、欠かすことのできない馬名がきら星のごとく並んでいることだろう。

ちなみに、明治40年というのは、政府が軍馬の質的向上政策を打ち出した直後ということもあり、小岩井農場が最初にサラブレッドを、ヨーロッパから一括購入することを決めた年でもある。繁殖牝馬20頭、種牡馬1頭(インタグリオー)というのが、その内訳。そのうち、基礎牝系として、近年まで活躍馬が見られるのは、以下の11頭である。

●アストニシメント
 リュウズキ、テンモン、スズパレード、メジロマックイーン、トロットスター、ショウナンカンプ
●ウェットセール
 バンブービギン
●ビュチフルドリーマー
 メイヂヒカリ、シンザン、タケホープ、ニッポーテイオー、レオダーバン、テイエムオーシャン
●フェエペギー
 ネーハイジェット
●フラストレート
 トウメイ、ホウヨウボーイ、ミナガワマンナ、トロットサンダー、ウメノファイバー
●プロポンチス
 ニットエイト、グランドマーチス、アイネスフウジン、ハクタイセイ、レガシーワールド
●フロリースカップ
 ガーネット、コダマ、ダテテンリュウ、キタノカチドキ、カツラノハイセイコ、シスタートウショウ、ニホンピロウイナー、スズカコバン、マチカネフクキタル、
 スペシャルウィーク
●ヘレンサーフ
 アカネテンリュウ、リニアクイン、オサイチジョージ、ヒシミラクル
●ボニーナンシー
 オオシマスズラン
●ライン
 グルメフロンティア
●エナモールド
 ジョージレックス

これらの系統が、現在も脈々と続いているわけで、「軍馬の質の向上」という国策も兼ねていたことから、資金不足の昭和初期や戦争直後の時期よりも、この時代は能力および質的に優れたサラブレッドが輸入されていたことを、伺い知ることができる。

そうした父母の間に生れたのが、スペシャルウィークである。
まず、前面でクロスしている血を検証すると、Almahmoudの4×6、Hyperionの6・7×5・7、Nearcoの6×5・6、Bull Leaの6×6があり、これらはいずれも系列ぐるみのクロス。Almahmoudは、本来スピード系だが、スペシャルウィークの血統では、セントクレスピン内のHyperion、Nearco、Nijinsky内のBull Leaなど、直接結合を果たす血が、いずれもスタミナ要素が強く、その影響でスタミナ優位のAlmahmoudへと能力変換を遂げている。そして、前述した牝系、祖母のレディーシラオキからも、Plucky Liege、Solarioを通じてヒンドスタンのスタミナ、Blandfordを通じてプリメロのスタミナという具合に、日本に根付いているスタミナ要素が、隠し味的に能力参加を果たしている。

父サンデーサイレンスは、アメリカ産といっても、主導のMahmoudを中心に、Gainsborough、Blandfordといった欧州系が強い影響を示し、米系よりも、これら欧州系の血を活用することが配合のポイントとなる。そして、このGainsboroughとBlandfordは、日本競馬の血統の中核となってきた系統でもある。つまり、父内Haloと、母内マルゼンスキーが呼応することによって、米系のスピードを再現し、さらにAlmahmoudの主導のもと、日本に根付いたGainsborough、Blandfordのスタミナを取り込むことに成功した。サンデー産駒の多くが、古馬になると、中長距離路線では成長にかげりを見せる傾向があるなかで、逆に古馬となって底力を見せたスペシャルウィーク。その血統的要因は、まさにこの日本のスタミナ系の注入の恩恵による、と言っても過言ではない。

スペシャルウィークの血統を8項目で評価すると、以下のようになる。

 ①=□、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

サンデー系と称される種牡馬が、毎年のように増えてきた。そうして中にあって、スペシャルウィークは、日本に根付いた牝系を持つ血統構成馬として、ひときわ異彩を放っている。スタミナ色が濃く、Nasrullahを含んでいないということから、産駒は総体的に、スピード面で不安をかかえることが予測された。とすれば、配合のポイントは、まずスピード要素を引き出すことと、血の集合力に留意する必要がある。スピード要素としては、具体的な血で言えば、Hail to Reason、Turn-to、Almahmoud、Menowに着目。血の集合で言えば、Hail to Reasonか、Northern Dancerの活用が、おおよその目安になる。

そして、2003年デビューの初年度産駒は、スピード面で伸び悩む馬が多く見られ、やや出遅れ気味のスタートとなった。しかし、2004年組から、スムースバリトン(東京スポーツ杯2歳S)、そして日米のオークスを制したシーザリオ、ダービーでディープインパクトの2着と健闘したインティライミらの活躍馬が出て、スペシャルウィークの種牡馬としての価値も、急激に見直されてきた。

シーザリオは、Northern DancerとHail to Reasonの併用型で、母の父Sadler’s Wells内への血の集合と、スピードの引き出しに成功している。そして、インティライミは、Northern Dancerのクロスの活用で、母の父ノーザンテーストを強調、血の集合力によって、スピードを引き出すことに成功している。このスペシャルウィークと母の父ノーザンテーストの組み合わせは、世代のずれがかえってプラスに作用し、Lady Angelaがクロスにならない構造が、結果としてバランスを整える効果をもたらすという、特殊な形態になることは記憶しておきたい。こうして、シーザリオ、インティライミは、オープン馬として実績を残しているが、理論上からは必ずしも万全の内容ではなく、クロス馬の位置関係や近親度の強さなど、問題を残していることも確か。両馬とも故障していることなどは、ともに近親度の強い形態が影響したとも考えられる。

となると、異系タイプで、どのような傾向の血が、スペシャルウィークには合うのか。あくまでも架空上の配合だが、英ダービー馬のHenbitの血を合わせてみたので、参考にしていただきたい。

■スペシャルウィーク×Henbit 
 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ スペシャルウィーク×Henbit分析表

BMS内にHurry Onの不備などがあり、必ずしもジャストフィットではないが、Gainsborough~Bay Ronald系の流れや、Blandford系の活用、Tetratemaのスピードアシストやシャトーゲイの活用など、スペシャルウィーク産駒のスピード不安を打ち消すことのできる要素を確認できるはず。いずれにしても、日本の伝統ある牝系を受け継ぐ種牡馬として、次世代を担う優駿が誕生することを期待したい。

スペシャルウィークの同期馬グラスワンダーについては、以前、この「百名馬」企画で解説した通り、血統評価はスペシャルウィークを上回るものがある(1A級)。

したがって、宝塚記念、有馬記念におけるスペシャルウィークの敗戦は、潜在能力の差、とりわけスピード比率の差によるものと考えられる。勝負事に「たら」や「れば」は本来ないものだが、もしもグラスワンダーがいなければ、スペシャルウィークはグランプリホースという栄冠も獲得していたかもしれない。そして、それだけの実力は備えていたと言ってよい。

 

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