久米裕選定 日本の百名馬

アグネスフローラ

父:ロイヤルスキー 母:アグネスレディー 母の父:リマンド
1987年生/牝/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:G1桜花賞

▸ 分析表

1980年代後半の日本競馬は、オグリキャップ、タマモクロスという芦毛のスターホースの登場によって、「芦毛馬伝説」という言葉が誕生し、競馬ブームはいっそうの盛り上がりをみせた。

1990年、アグネスフローラの世代に入っても、その勢いは続き、さまざまな個性派スターが登場してきた。4歳牡馬路線では、芦毛のハクタイセイ(父ハイセイコー)、メジロマックイーン(父メジロティターン)が、それぞれ皐月賞と菊花賞を制し、脇役陣にもホワイトストーン(父シービークロス)が堅実な走りを見せ、芦毛伝説は受け継がれていた。これらの馬たちと、その他ではメジロライアン(父アンバーシャダイ)、ツルマルミマタオー(父グリーングラス)など、いずれも父内国産馬が活躍したことも、競馬の楽しみを増してくれた。

そして、ダービーではアイネスフウジン(父シーホーク)が勝ち、そのウイニングランのときに、場内から勝利騎手に対して「中野コール」が沸きおこり、競馬場の雰囲気がそれまでとは一変したのも、この年のことである。

牝馬路線でも、サクラサエズリ(父サウスアトランティック)、ケリーバック(父ハイセイコー)、ユキノサンライズ(父ホリスキー)といった関東勢に、エイシンサニー(父ミルジョージ)、イクノディクタス(父ディクタス)、コニーストン(父プルラリズム)などの関西勢と、バラエティーに富んだ血統馬が登場し、その意味では、粒揃いの世代であった。

その牝馬勢の中にあって、4戦4勝で桜花賞を迎え、圧倒的な人気でそれを制したのがアグネスフローラ。しかし、その後のオークスでは、後方待機のエイシンサニーに、直線一気の差し脚を決められ、惜しくも2着に敗れた。そして、このとき脚部に故障を発生し、惜しまれつつ、短い競走生活を終えている。

その後、繁殖に入り、昨年のダービー馬アグネスフライトの母となったことは周知の通り。これで、アグネスフローラの母アグネスレディー(オークス)から、親子3代にわたってクラシックホースという偉業を成し遂げたことになる。そうした血の流れを中心に、アグネスフローラの血統の秘密を検証してみたい。

《競走成績》
2~3歳(旧表記では3~4歳)時に6戦して5勝。主な勝ち鞍は、桜花賞(G1=芝1,600m)、チューリップ賞(芝1,600m)、エルフィンS(芝1,600m)、オークス2着(G1=芝2,400m)。

《繁殖成績》
 アグネスフライト(G1ダービー)、アグネスタキオン(G1皐月賞)

父ロイヤルスキーは、1974年アメリカ産。競走成績は、2~3歳時に14戦8勝。G1勝ちはローレルフューチュリティ(8.5F)で、主に6~9Fの距離で実績を残した。種牡馬としては、海外での産駒に、スキーキャプテン(朝日杯2着)の母スキーゴーグル(Ski Goggle、米5勝、エイコーンS=G1)がいる。

1979年に日本に輸入され、産駒でG1馬は、このアグネスフローラだけだが、ワカオライデン(朝日チャレンジC)、アサカサイレント(オールカマー)、ロイヤルシルキー(クイーンS)、ロイヤルコスマー(桜花賞2着)、ストロングクラウン(東京新聞杯2着)など、オープン馬を輩出し、スピードの伝え手として貢献した。また、母系のFlaring Topは、カナダ4歳牝馬チャンピオンで、Nijinsky、ミンスキー、The Minstrelなどを出す名牝系を築いている。

ロイヤルスキー自身の血統構成は、決してあか抜けした内容とはいえないが、Nasrullahの3×4(中間断絶)を呼び水として、Mumtaz Mahalのスピードに、Tourbillon、Blandfordのスタミナの核を加え、St.Simonの土台構造で全体をまとめた形態。アメリカ産馬といっても、能力形成の構造においては、ヨーロッパの血の占めるウエイトが大きい。そして、そのことが、産駒の多くが日本の芝にも対応できた要因と推測できる。

ただし、そのかわり、Nasrullahが系列ぐるみになった場合には、Bold Rulerの影響が圧倒的に強くなってしまうため、ダート適性を示す可能性が高くなる。ワカオライデンの産駒が、公営ダートで実績を残していることが、それを証明している。ちなみに、ワカオライデン自身は、Nasrullah、Nearcoがクロスにならず、祖母内Sir Gallahadが主導となって、テンポイントと共通する血統構成の持ち主であった。

▸ ワカオライデン分析表

母アグネスレディーは、1979年のオークス馬。他にも、京都記念、朝日チャレンジCなどを勝ち、計5勝をあげて、最優秀4歳牝馬に選出されている。

血統構成は、Hyperionを主導に、Blandford、Teddyのスタミナがアシスト、スピードはLady Jurorで、たいへんバランスのよい内容の持ち主であった。

アグネスレディーの血統構成で、とくに注目したいのは、St.Simonが果たしている役割である。それを、別紙クロス馬集計表で確認していただきたい。St.Simonの血は、祖父母4頭の8~9代の位置にまんべんなく存在し、その数はじつに38個にのぼる。

つまり、この血によって、各系統が相互に結合し、強固な土台構造を形成したことが、アグネスレディーの強さの最大の秘密なのである。また、この血統上の特性が、娘のアグネスフローラの誕生に大きく関わることになる。

アグネスレディーの8項目評価は以下の通り。

 ①=○、②=□、③=◎、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 血統評価=1A級 距離適性=9~12F

▸ アグネスレディー分析表

アグネスフローラの血統構成は、アメリカのBold Rulerを父系に持つ父ロイヤルスキーに対し、母はヨーロッパの血を主体としたアグネスレディーということで、第一感として「父母の血の傾向が合っていないのではないか」という印象を受けやすい配合である。

しかし、分析表に目を通すと、まず主導は、位置と形態から、BlenheimとPharosの系列ぐるみ。この両者は、Canterbury Pilgrim、St.Simonによって結合を果たし、連動している。この場合、Pharosはスピード、Blenheimは、その父BlandfordがUmidwar、Bahramの6代目に位置して強い影響を示していることからもスタミナ要素と推測できる。

スピードは、The Tetrarchがほぼ系列ぐるみを形成し、Bona Vistaによって主導のPharosと結合している。また、Lady Josephineも、Sainfoinで結合を果たし、スピードを供給している。

問題は、分析表を一見すると、父ロイヤルスキー内のWar RelicやDiscoveryといったアメリカ系の血に弱点が発生したように見えること。しかし、ここは、Bend Or、Sainfoinが、9代目でクロスとなって、主導との結合を果たしている。その結果、弱点・欠陥とならずにすんでいる。

その理由について補足すると、まず全体が完全異系交配であること、なおかつアメリカ系を多く含む部分の影響度数字が①ともっとも低い父の母内であること、そして前述したようにアグネスレディーが強固な土台として、St.Simonの血をまんべんなく含んでいたことにある。ロイヤルスキーの分析表をもう一度、参照していただきたい。この中のDiscoveryとWar Relicの9代目の位置を見ると、それぞれにSt.Simonの血が配置されていることが確認できるはず。

そして、アグネスレディーが38個のSt.Simonを土台にしていたこと、さらにアグネスフローラが6代目からクロスの始まる完全異系交配馬であることを考え合わせると、分析表上には表れない10代目の位置であっても、St.Simonによって結合を果たしていると推測できる。このことから、弱点にならずにすむ、と判断できるわけである。

ただし、これはいわゆる「紙一重」の差であり、ロイヤルスキーの血の特徴を考慮した場合、やはり発想しにくい交配であることも確か。同様の父とBMSの組み合わせでいえば、ワカオライデンのほうが、理論から導き出しやすく、わかりやすい内容だといえる。

アグネスフローラが生まれた1987年頃は、ノーザンテーストの全盛期ということもあり、日本の血統地図が、ヨーロッパからアメリカへと移行していく時期でもあった。当時は、アメリカの血といっても、8~9代の位置に、St.SimonやBend Or、Sainfoinなどを持っており、アメリカとヨーロッパの血を組み合わせても、それらが最低限結合し、効能を発揮する可能性は残されていた。その構造は、前述したことで理解されたと思う。その可能性を見事に実現した典型が、このアグネスフローラの血統構成といえる。

8項目評価は以下の通り。 

 ①=○、②=○、③=○、④=○、⑤=○、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 血統評価=1A級 距離適性=8~11F

内容的には、絶妙の形態で、スピードは一流といえるが、それに対し、上質のスタミナの核を欠いた点が、アグネスフローラで唯一惜しまれる点である。

以上がアグネスフローラの血統構成だが、先に述べたワカオライデンとともに、ロイヤルスキー産駒としては、ともに異色の内容である。そこで、この両者とは対照的に、これぞロイヤルスキー産駒という、わかりやすい例を紹介しよう。それはストロングクラウン。

主導はNasrullahの4・5×4の系列ぐるみで、Nearcoも5・6×5・5・5と続き、かなり近親度が強くなっている。その他では、6代目のBlandfordはNasrullahを構成する血でもあるので直結、Man o’WarはSainfoin、Sir GallahadはAjax、Spearmintによって主導と直結している。弱点・欠陥も派生せず、ロイヤルスキーのスピードを再現して、見事なバランスを保っている。

ストロングクラウンの8項目評価は次の通り。

 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 血統評価=1A級 距離適性=8~11F

▸ ストロングクラウン分析表

このNasrullahを主導とする形態は、現代日本では、テイエムオペラオーを始め、相変わらず主流となっている。日本の馬場にマッチしやすく、仕上がりやすく、安全性の高い血統構成といえる。ストロングクラウンのこの内容は、Nasrullah主導の典型的なスタイルとして、記憶にとどめておいていただきたい。同じロイヤルスキーの産駒でありながら、アグネスフローラとはまさに好対照の内容であることがわかるだろう。

両者を比較して、どちらがよいか悪いかの判断は別として、理論から見た配合上の妙味という点では、アグネスフローラに軍配をあげたい。とくに現代のように、血の片寄りが見られる場合には、発想の転換を図り、配合を考える上でも、重要なヒントを与えてくれるはず。日本のG1馬の中でも、ひときわ異彩を放った内容を持つ馬、それがアグネスフローラだったのである。

つぎに、同期のライバルである、桜花賞2着のケリーバッグと、オークスで先着を許したエイシンサニーの血統についても、簡単に触れておこう。

■ケリーバッグ

主導はNearcoの4×5・5の系列ぐるみで、カリムを強調した形態。スタミナはSon-in-Lawから補給されているが、BMSのシルバーシャークや、Orby、Sunstarのアシストなど、明らかにスピード優位。ハイセイコーの血の流れや、上質のスタミナの核を欠いたことは惜しまれるが、シンプルでたいへんバランスのよい血統構成を示していた。

 ①=○、②=○、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 血統評価=3B級 距離適性=8~10F

▸ ケリーバッグ分析表

■エイシンサニー

主導はHyperionの系列ぐるみで、祖母内チャイナロックを強調した形態。スピードは、Mumtaz Mahal、The Tetrarchで確保されているが、Papyrus、Felsted、Son-in-Law、Blenheimなど、他のアシストがスタミナ主体で、明らかにスタミナ優位であることがわかる。

残念なことは、父の母Miss Charissnaの影響が弱まり、バランスがくずれたことと、Never Bendのスピードを完全に再現できなかったことである。とはいうものの、母の持つヨーロッパのスタミナ再現は見どころ十分。桜花賞ではアグネスフローラの4着と敗れたものの、この底力を秘めたスタミナの血が、オークスというここ一番の大舞台で真価を発揮させる原動力となった。

 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 血統評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ エイシンサニー分析表

周知のように、2,000年のダービー馬アグネスフライトは、アグネスフローラとサンデーサイレンスの間にできた仔である。これで、祖母、母、息子と続く親仔3代GⅠ制覇を成し遂げたが、ことしもアグネスフライトの全弟アグネスタキオンが、ジャングルポケット、クロフネを破り、新馬-重賞を連勝し、兄をしのぐ勢いで、クラシックロードに歩を進めつつある。

フライトとタキオンは全兄弟なので、評価は同等になるが、ここでもう一度同馬の分析表を参照していただきたい。父サンデーサイレンスの種牡馬としての成功の要因の一つは、日本に深く根付いているNasrullahの血を含まず、Mumtaz MahalとThe Tetrarchの裏づけによってスピードを確保できるという構造にあることは、以前から指摘してきた通り。アグネスフライト(=アグネスタキオン)は、そうした構造をうまく生かした配合で、ともすれば影響度が強くなりがちなロイヤルスキー内のNasrullahがクロスとならないため、Pharamond、Nearcoによって父の父Haloを強調する形態になっている。

母同様、⑧②②0とみごとな異系交配の血統構成を再現することに成功している。表上では、St.Simonのクロスは確認できず、これまでのアグネスレディー-アグネスフローラの経緯を考えれば、決して万全とはいえないが、この血もほぼ生きるものと推測できる。

また、ここで注目すべきは、アグネスフローラ自身では、紙一重で弱点・欠陥になりそうだったWar RelicやDiscovery内のアメリカ系の血が、サンデーを配することで、Man o’War-Fair Playがクロスとなり、再生されている点にある。現代の種牡馬は、多かれ少なかれ、アメリカの血を持っているので、ランダムに配合しても、この部分はだいたい補正されるはずだが、種牡馬あるいは繁殖牝馬の不備を補うという考えかたは配合の基本であるだけに、それがうまく行われている様子を、分析表上で確認していただきたい。

また、もう一つの注目点は、アグネスレディーまではヨーロッパの血を主体に構成されていたが、ロイヤルスキーを配したことで、アメリカ系とも対応できる可能性が新たにできたことである。つまり、自然の流れの中で、次世代に対応できる血の入れ替えが行われていたのである。かりに、もしもヨーロッパだけの血で構成された繁殖であれば、サンデーサイレンスを配してもそのよさを生かすことはできないわけで、この「血の入れ替え」を含め、結果としてすべてが自然に行われたことが、親仔3代G1制覇という偉業につながったというべきだろう。

アグネスフライト(=アグネスタキオン)の8項目分析は以下の通り。

 ①=○、②=○、③=□、④=□、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 血統評価=3B級 距離適性=9~11F

▸ アグネスフライト分析表

ただし、この配合におけるアキレス腱は、スタミナの核不足にある。ここが、当初この馬の血統を評価したとき、オープン級としながらも、総合評価を3B級とした理由で、アグネスフライトが秋のGⅠ戦線でいま一つ精彩を欠いたことと無関係ではないはず。このタイプの配合馬は、連戦に耐える対応力に不安があるため、1戦1戦、疲れをとりながら、しっかりしたローテーションを組むことが、ふつう以上に要求されるということは記憶しておきたい。

 

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