久米裕選定 日本の百名馬

カブトシロー

父:オーロイ 母:パレーカブト 母の父:イーストパレード
1962年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:天皇賞、有馬記念

▸ 分析表

人気のときは凡走し、人気薄になると好走する。まるで「オッズを読んで走る」とまで言わしめた稀代のクセ馬カブトシロー。有馬記念を制したときに、2着馬リュウファーロスにつけた着差6馬身は、昨年(当原稿執筆時)のシンボリクリスエスと同様、競馬ファンに強烈な印象を与え、個性派として語り継がれてきた。

主な同期馬には、ダービーを制したキーストン(父ソロナウェー)、有馬記念を勝ったコレヒデ(父テッソ)がいた。また、1期前にはシンザン(父ヒンドスタン)、1期後にはスピードシンボリ(父ロイヤルチャレンヂャー)や、前記リュウファーロス(父ヒンドスタン)などがいた。

カブトシローが種付けされた1961年当時の種牡馬ランキングは、①ヒンドスタン、②ライジングフレーム、③ハロウェー、④トサミドリ、⑤ブッフラーと続き、クモハタなど内国産から欧州輸入種牡馬の時代に突入した時期でもあった。

《競走成績》
3~7歳時に走り、69戦14勝。主な勝ち鞍は、天皇賞(芝3,200m)、有馬記念(芝2,500m)、カブトヤマ記念(芝2,000m)など。クラシックは、ダービーがキーストンの5着。

《種牡馬成績》
ゴールドイーグル(サンケイ大阪杯、マイラーズC、公営・南関東で黒潮杯、公営・東海で東海桜花賞)が代表産駒で、他は公営馬が主流。

父オーロイは、英国産で8戦1勝。現代でいうところのGⅠ勝ちはないが、2000ギニー3着、英国ダービー4着(1着はSt.Paddy)という実績を持つ。その父AureoleはHyperionの直仔で、15戦7勝。古馬になって、キングジョージ6世&クイーンエリザベスSを含む重賞4連勝を記録した。また、母方Massineも凱旋門賞、アスコットゴールドCなど19戦12勝の名馬。

というように、オーロイを構成する血のスタミナは、一流の内容を示していた。ただし、産駒としては、このカブトシロー以外には、日経賞2着のスズヒカリトップがいる程度で、種牡馬としての実績はいま一つであった。

母パレーカブトは、19戦5勝の戦績で、朝日杯2着の実績を持つ。カブトシローはその初仔。

オーロイとの配合は、まず5代以内には、Gainsboroughの4・6×5の中間断絶クロスがある。この中では、英2000ギニー、エクリプスSなどを制したSt.Frusquinが6・7・8・8×7・7・8・9で強い影響力を示しており、この血が主導と考えられる。

その他、影響度数字に換算される6代目のクロス馬を検証すると、Bay Ronaldの6・8・8×7・9と、Galiciaの6・7・8×7・8があり、これらは、呼び水機能を果たすGainsborough内に配置されている。Canterbury Pilgrimの6・8・8×7は、NewminsterでGainsboroughと直結し、Ciceroの6×8はBend Or、Hamptonで結合。

Swynfordの7×6はSt.Simonで結合し、Gallinuleの7・8・9・9×6・9・9はSterlingトNewminsterで結合、Dorotheaの9×6・7はSterlingで結合という具合に、すべての血がGainsboroughと結合して、スピード・スタミナを補給する役割を果たしている。

そして何よりも、St.Simon32個、Galopin32個という磐石の土台構造を持っている。異系交配における配合形態としては、じつにみごとなもので、強固な結合と土台こそが、カブトシローの爆発的な強さの秘密であった。稀代のクセ馬といわれたが、血統構成上では、むしろ安定した走りを見込める形態であったことが確認でき、1世代前の五冠馬シンザン以上の配合の妙味を備えた馬、といっても過言ではない。カブトシローの以上の評価を、8項目に照らせば、以下のようになる。

 ①=○、②=○、③=◎、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=10~15F

祖母内El Saladoの不備から④の項目を△としたが、異系交配であることや、強調された血がAureoleであることから、それほどの能力減とはならずに済むと考えられる。

種牡馬としてのカブトシローは、九州の宮崎で供用されたことからも、血統的な期待値はさほど高くなかったことが伺われる。当然のことながら、交配相手となる繁殖牝馬の質は低く、結果として、産駒は主に公営の競走馬になるものが多かった。その中で1頭、公営の和歌山・東海・南関東を転戦し、めきめきと頭角を現してきた馬がいた。公営で16戦11勝の成績を上げ、6歳で中央に入厩したゴールドイーグルがそれである。

同馬は、中央でも好成績を残す。初戦のマイラーズCはシルバーランド(父シンザン)の2着だったが、翌年、7歳時に同レースを制している。そして、サンケイ大阪杯では、後の天皇賞馬ホクトボーイを一蹴して、みごとに花を咲かせたのである。

ゴールドイーグルの配合は、別掲分析表の通り、トウルヌソルの5×5を主導に、Cyllene、Orbyのスピードを加え、当時として珍しく、Fair Playの6×5と米系の血を生かしている。この点は、種牡馬としては難しいタイプのカブトシローの血の流れを、みごとに押さえていることが読み取れる。

▸ ゴールドイーグル分析表

トウルヌソルといえば、1926年に、下総御料牧場が、英国から9万8,076円で購入した馬。種牡馬として、日本の初代ダービー馬ワカタカや、11戦無敗の牝馬ダービー馬のクリフジなどを輩出し、日本競馬の草分け的存在。その血を生かした血統構成という点でも、カブトシローからは血統のロマンと歴史を味わうことができる。

ゴールドイーグルの配合を、8項目で評価すると以下の通り。
 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~10F

父カブトシローほどの迫力はないが、父母を構成している血を最大限に利した好配合馬ということができる。この馬は、引退後、北海道で種牡馬として繋養されたが、これぞという産駒にはめぐまれなかった。その理由としては、5代以内の血が時代の趨勢に合わなかったことや、土台となっていたSt.Simonの血が10代目以降に後退したことなどが考えられる。

また、残念なことだが、世界と血の交流のないカタカナ文字の日本の血は、世代が進むにつれて、クロスとして効力を発揮する確率は低くなり、弱点派生の要因になりやすいことも、もう一つの理由である。これは、何も過去だけのことではなく、現在の日本においても、将来的には同じ運命をたどることになりかねない危険性を抱えている。サンデーサイレンスの血があっても、世界的な交流、血の還元がなされなければ、同様な事態を招くだろう。

公営出身で、中央に転厩して成功した馬といえば、この「百名馬」シリーズでも、すでにハイセイコー、オグリキャップ、イナリワン、ヒカルタカイといった馬たちを紹介してきた。これらの馬は、いずれも配合の妙味を持ち、内容もその活躍に見合うだけのレベルを保った血統構成馬であった。そして、かれらに共通する点は、ダート主体の公営馬でありながら、欧州系の血を中心にした内容・形態を持っていたこと。公営で活躍した馬が、中央でも通用するか否かの目安は、まさにこの点にある。もちろん、それ以外に、中央転厩後の調教の順調度など、血統外のファクターを無事にクリアーする必要があることはいうまでもないが。

公営活躍馬の中でも、不運にも転厩後に体調を崩し、結果を残せなかった優秀な血統構成馬たちもいる。ゴールデンリボーも、その不運な馬の1頭。南関東で13戦6勝。東京ダービー、羽田杯、東京王冠賞を制した公営三冠馬である。1972年生まれだから、中央でいえばカブラヤオーやロングファストたちと同期に当たる。父はカブラヤオーと同じファラモンド、母はRibotの直仔オルヴィダダである。

ゴールデンリボー分析表

英オークス2着のMonsoon(=Squall)の3×2のクロスがあるが、これは単一クロスのため影響力は弱く、Fairway(=Pharos)の4×5が呼び水になっている。スタミナはRabelaisの5・6×6とGay Crusaderの6×6で、これらはいずれも系列ぐるみのクロスを形成して、Fairwayに直結している。次いで、Son-in-Lawの5・7×6もHampton、GalopinでFairwayと結合を果たしている。

スピードは、Sundridgeの6・8×7・8・8が、Sainfoin(=Sierra)で結合。そして、この馬も、前述したカブトシローと同様に、St.Simon31個、Galopin29個で、強固な土台構造を形成している。母内のRibot、Umidwar、Tai-yangといった血の構造を考慮すれば、同じファラモンド産駒でも、中央のカブラヤオーよりも質は高く、血統構成上は明らかに、このゴールデンリボーのほうが上と判断できる。8項目評価も、以下のようになる。

 ①=□、②=□、③=◎、④=○、⑤=□、⑥=○、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~12F

ゴールデンリボーの血統構成は、欧州主体で、前述の公営の実績と中央での活躍が一致するための条件を満たした内容である。しかし、4歳で転厩した後、体調を崩し、5歳まで3戦したものの、結果を出せずに競走生活を終えている。

その後、北海道で種牡馬になったが、これといった産駒にはめぐまれなかった。この馬は、ランダムに交配を行うと、配置されている血の関係から、少数派のBlandfordの影響が強く出る確率が高く、その意味で、種牡馬としてはかなり難しいタイプに属するものであったことが1つの要因と考えられる。

 

 

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