久米裕選定 日本の百名馬

メジロパーマー

父:メジロイーグル 母:メジロファンタジー 母の父:ゲイメセン
1987年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:G1有馬記念、G1宝塚記念

▸ 分析表

メジロパーマーのデビューは、平成元年(1989年)8月、函館競馬場の新馬戦(芝1000m)で2着だった。2戦目も2着で、3戦目の未勝利戦(芝1200m)で初勝利をあげる。続く特別のコスモス賞(芝1700m)も連勝し、2歳時でオープンの資格を得ていた。しかし、この勝った2戦は、ともに重馬場よる勝利で、時計的な裏づけがなく、以後良馬場では苦戦を強いられた。また、体調不良や骨折休養などもあり、3歳時は5戦して0勝。3勝目をあげるのは、4歳札幌の条件特別で、同じ牧場の同期馬であるメジロマックイーン、メジロライアン両馬の華やかな活躍に比べると、まったくの影の存在であった。

それでも、4歳夏の北海道で、ハンデ戦の札幌記念(G3・芝2000m)を、51㎏の軽ハンデを利して勝ち、再びオープン入りを果たしている。しかし、その後の別定の重賞競走ではまったく精彩を欠いたために、4歳の暮に障害に転向している。障害では2戦1勝、2着1回の成績を残した。

5歳になったメジロパーマーは、再び平場戦にもどり、同期のメジロマックイーンとともに天皇賞・春(G1・芝3200m)に挑戦した。当時無敗のトウカイテイオーとの対決レースで、マックイーンのペースメーカー的な役割でレースを先導し、14頭立ての7着に粘った(優勝はメジロマックイーン)。このレース以後、パーマーは、若手の山田泰誠騎手とコンビを組むことになる。

そして、つぎの新潟大賞典(G3・芝2200m)を制し、宝塚記念(G1・芝2200m)に駒を進めることになった。このレースは、天皇賞2連覇を果たしたメジロマックイーンと、巻き返しを狙っていたトウカイテイオーが、ともに骨折で不出走。代わって、天皇賞、安田記念と連続2着に健闘したカミノクレッセが、圧倒的な1番人気に支持された。対して、メジロパーマーのほうは、13頭立ての9番人気と低評価。

レースは、逃げ宣言をしたオースミロッチやスピード馬ダイタクヘリオスを相手にせず、スタートからハナを奪ったパーマーが、荒れた馬場を味方に、2着のカミノクレッセに3馬身差をつけて逃げ切り勝ち。同期のマックイーンの代役を果たし、グランプリホースの座に着いた。秋を迎えたパーマーは、京都大賞典が14頭立て9着(優勝馬オースミロッチ)、天皇賞が18頭立て17着(優勝馬レッツゴーターキン)と、良馬場では持ち味を発揮することができなかった。

そのため、暮の良馬場での有馬記念(G1・芝2500m)でも、16頭立ての15番人気と、まったく人気を下げていた(上位人気馬は、トウカイテイオー、ライスシャワー、ヒシマサル、ナイスネイチャ、レガシーワールドなど)。このレースは、出走馬に先行タイプが多かったために、どちらかといえば、ペースは速くなると予想されていた。しかし、それが逆に、各馬が牽制し合う展開となり、人気薄で軽視されていたメジロパーマーが、好枠を利してスタートから楽に先頭に立ち、マイペースの展開に持ち込んだ。最後の3コーナーでは、いったん外からダイタクヘリオスに交わされたものの、4コーナーで再び先頭に立ち、レガシーワールドの急追をハナ差抑えて勝利をものにした。宝塚記念に続き、グランプリ連覇の偉業を達成したのである。

《競走成績》
2~7歳時に走り36戦8勝。主な勝ち鞍は、有馬記念(G1・芝2500m)、宝塚記念(G1・芝2200m)、阪神大賞典(G2・芝3000m)など。 

《種牡馬成績》
種付機会にめぐまれず、これといった活躍馬は出していないが、少ない産駒の中では、メジロライデン、デルマポラリスが勝ち上がっている。 

父メジロイーグルは、1975年にメジロ牧場で生産され、19戦7勝。重賞は京都新聞杯を制し、クラシックレースでも、菊花賞で3着(優勝馬インターグシケン)、有馬記念3着(優勝馬カネミノブ)、皐月賞4着(優勝馬ファンタスト)、ダービー5着(優勝馬サクラショウリ)などの活躍があり、個性派の逃げ馬として、その存在をアピールしていた。それを裏づけるように、自身の血統構成も、Hyperionの4×3の系列ぐるみを主導として、BMSのKhaledを強調、The TetrarchやSundridgeのスピードを加え、主導勢力を明確にした個性的な内容を示していた。

父のメジロサンマン(ステイヤーズS、目黒記念)のスタミナを完全に生かし切れなかったことは能力の限界を招くものの、メジロ牧場の基礎牝馬であるアマゾンウォリアーのよさは十分に再現していた。メジロイーグルの血統構成を、8項目で評価すると以下のようになる。

 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~11F

▸ メジロイーグル分析表

母メジロファンタジーは、メジロ牧場の生産馬で、4戦1勝。その母プリンセスリファードが種牡馬モガミの全姉ということで、良血の期待を受けていた。しかし、その父ゲイメセンが欧州系主体の血で構成されており、そのため母内の米系に不備を抱えることになり、影響度も⑪③⑥0とバランスを崩し、期待ほどの内容は示していなかった。評価としては1Bクラス。この両者を父母として生まれたのがメジロパーマーである。

まず5代以内でクロスしている血を検証してゆくと、Aureoleの4×5と、Nearcoの5×5が、ともに系列ぐるみを形成している。両者は、Chaucer、St.Simon、Cylleneらで結合を果たし、主にスタミナ勢力として能力形成に参加し、主導勢力を形成している。

つぎに、影響度数値に加算されるその他のクロス馬たちを見ると、Prince RoseがSt.Simon、Bayardo~Bay Ronaldで主導と結合し、スタミナを供給している。Aloeが、Bay Ronaldで同じく主導と結合してスタミナを供給。ここまででも、明らかにスタミナ優位ということが確認できる。

それに対してスピードのほうは、The TetrarchとSundridgeが、Mahmoudを介してGainsboroughやBay Ronaldによって、主導と結合を果たしている。そして、メジロイーグルの母アマゾンウォリアー内に配されている1つのTeddyがが、メジロファンタジーの曾祖母ノーラック内のTeddyとクロスして、米系のスピードを確保することに成功した。さらに特殊な米系Commandoの8×9、Voterの8×9を押さえたことなどは、メジロパーマーの能力形成や配合を語る上で、見逃すことができないポイントになっている。

とくにこのTeddyの存在が重要で、もしもこの血がなければ、ノーラック内に弱点を派生させることになった。そうなれば、グランプリどころではなく、未勝利脱出も難しい馬になっていたはず。まさに紙一重の状態だったのである。パーマーの血統構成を8項目評価すると、以下の通り。

 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=△、⑥=○、⑦=○、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=10~15F

スタミナに比べてスピードが弱いこと、祖父母4頭のバランスがいささか崩れていることなどからしても、決して一流馬の血統構成とはいえず、ムラな成績も、それを裏づけているといえよう。しかし、仏ダービー馬Prince Chevalier、Charlottesvilleの血を生かし、Hyperionの代表産駒Aureole(15戦7勝、コロネーションC、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS)を主導とした血統構成は、じつに個性的で、最近の日本では見ることのできない配合内容である。この重厚な馬の能力を引き出すには、相当な鍛練と時間が必要とされるはずで、主導のAureole自身が5歳以降に頭角を現したことからも、そのことは予測できる。

それでいえば、パーマーの成功要因の一つとして、障害への転向をあげることができるように思う。障害を練習することで、内在するスピード・スタミナが引き出され、血統構成から推測される晩成型の血に因る能力が開花したのだろう。もちろん、同期のメジロマックイーンのリタイアや、馬場、展開の利などの運を味方につけた馬であったことも確かである。

それにしても、メジロサンマンに始まり、メジロイーグル、メジロパーマーへと、3代にわたってステークスウィナーを出したことはみごとである。メジロアサマ、ティタンーン、マックイーンほどの派手さはないものの、日本では決してメジャーとはいえないサイアーラインを受け継ぎ、血を残してきたことは、まさしく競馬、そして血統の原点だと思う。

種牡馬としてのメジロパーマーは、父のメジロイーグルと同様、種付機会にめぐまれず、成績は伸び悩んでいる。それでも、障害でオープンになったメジロライデンや条件馬で2勝したデルマポラリスなどを出してはいる。両馬とも、メジロパーマーの特徴をとらえ、なかなかすぐれた配合形態を示しているが、ここでは配合の方向性を示す例として、デルマポラリスの血統を紹介しておこう。

まず、主導は、位置と系列ぐるみの関係から、Hyperionの5・6・7・8・8×6・7・7・7・8の系列ぐるみ。これは、メジロイーグル、メジロパーマーと同じ血の流れを活用し、デルマポラリスの能力形成の基礎となっている。ついで、Mahmoudが6・8×5・7・8の系列ぐるみで、Gainsboroughによって、主導のHyperionと結合を果たし、スピードを供給している。このHyperionとMahmoudの相性のよさは、これまで何度も説明してきたが、サンデーサイレンスが種牡馬として成功した背後には、この血の関係が有効に作用している。

その他、影響度数値に換算される血としては、NearcoはChaucerによって、Prince RoseはBayardoによって、主導と結合し、スピード・スタミナを供給。弱点・欠陥の派生もなく、じつにみごとなバランスを保っている。Man o’Warの血は、8代目までには結合を確認できないが、当馬が異系交配であり、血の流れと、10代目のRock Sand、Sainfoinの存在から、Mahmoudとの結合を読み取ることができる。以上を、8項目に照らすと以下のような評価になる。

 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=□
 総合評価=1A級 距離適性=9~12F

じつにみごとなバランスで、父母の血がジャストフィットした血統構成を示している。惜しまれるのは、日本では実績に欠ける晩成・中長距離型であり、そしてその才能開花には、厩舎技量の差が大きく影響する内容であったこと。そのことは、勝ち上がり時に指摘しておいたが、残念ながらその不安が的中して、結局デルマポラリスは条件クラスで競走成績を終えている。

とはいうものの、父やBMSがマイナーな血であるにも関わらず、この馬が中央でデビューし、2勝することができたのも、配合による能力形成の素質の片鱗を見せたと言えるかもしれない。もしも、同馬の所属厩舎が成績上位で、ステイヤーを育てる技量を持ち得ていたならば、メジロパーマーの種牡馬としての価値が見直されることになったかもしれない。そんな思いがさせられる血統構成馬であった。

▸ デルマポラリス分析表

 

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