久米裕選定 日本の百名馬

メリーナイス

父:コリムスキー 母:ツキメリー 母の父:シャトーゲイ
1984年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:G1日本ダービー、G1朝日杯3歳S

▸ 分析表

四白流星で、栗毛の美しい馬体を誇ったメリーナイス。デビューは、1986年(昭和61年)8月の函館。新馬戦勝ちを含めて4戦2勝の後、朝日杯3歳Sに駒を進めた。9頭立ての2番人気に推されたメリーナイスは、中団から好位に進出、早めに抜け出して、1番人気のホクトヘリオスの追撃を押さえて、1馬身1/2差をつけて勝ち、2歳チャンピオンの座についた。

年が明けると、メリーナイスは、クラシック戦線に向けて、スプリングS(1,800m)から始動。ここで1番人気に支持されたのは、3戦2勝の戦績で、シンボリ牧場期待のマティリアル。メリーナイスは、休養明けということと、血統面から距離延長が不安視されて2番人気に。そして、結果も、マティリアルが勝ち、メリーナイスは9着に敗れる。

その結果、さらに距離が延びた皐月賞では、8番人気と評価を下げることになる。結果は、弥生賞を制して勢いに乗るサクラスターオーが圧勝し、2着には関西の2歳チャンピオン・ゴールドシチーが入る。1番人気のマティリアルは、後方から追い込んだが3着。3月にデビューしたモガミヤシマが4着に食い込み、メリーナイスは7着に敗れた。

そして迎えたダービー。皐月賞を制したサクラスターオーと、NHK杯を圧勝したモガミヤシマが、ともに骨折リタイアしたために、単枠指定のマティリアルが、圧倒的な1番人気に支持された。2番人気はゴールドシチー、3番人気が別路線の上がり馬ダイゴアルファと続き、メリーナイスは差のある4番人気。勝負の興味は、ほとんどマティリアルのレースぶりにのみ注がれるという状況だった。

レースは、トチノルーラー(父ラッキールーラ)の先導で、平均よりやや遅めのペースで進んだ。好枠から好スタートを切ったメリーナイスは、内枠寄りの4~5番手の位置につけ、折り合いよく好位をキープ。そして、直線早めに先頭に立ったサニースワローを交わすと、あっという間に後続馬を引き離し、2着に6馬身という差をつけて優勝し、第54代ダービー馬の栄誉に輝いた。1番人気のマティリアルは、末脚が不発で、18着と大敗した。

夏を無事に過ごしたメリーナイスは、秋初戦のセントライト記念を制し、菊花賞に駒を進める。そこでは1番人気に推されたが、レースでは折り合いを欠き、サクラスターオーの復活の前に9着と敗退。その後、有馬記念では落馬。古馬になってからは、目黒記念で2着など、ダービー馬としての片鱗は見せたものの、度々の発熱のなどの不運もあり、結局それ以降は勝ち星を増やすことができぬまま引退し、種牡馬入りした。

《競走成績》
2~4歳時に走り15戦5勝。主な勝ち鞍は、ダービー(G1・芝2400m)、朝日杯3歳S(G1・芝1600m)、セントライト記念(G2・芝2200m)。

《種牡馬成績》
マイネルリマーク(共同通信杯4歳S・G3・芝1800m)、イイデライナー(京都4歳特別・G3・芝2000m)など。

父コリムスキーは米国産で、15戦2勝。GⅠ勝ちはなく、6~7Fの距離で実績を残した二流のスプリンター。Northern Dancer系種牡馬としての期待を担い、1979年に輸入される。母系は、Exclusive Native、Deputy Ministerと同系。コリムスキー自身は、Nearcoの3×4(中間断絶)を呼び水として、Phalaris、Spearmintらのリードで、全体をまとめている。といっても、これぞというスピード・スタミナが備わっているわけでもなく、血の統一性や主導の明確性も欠いている。それが二流のスプリンターで終わった理由でもある。

8項目で評価すると、以下の通り。
 ①=△、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=6~8F

産駒は、メリーナイスの他に、スーパーファントム(京成杯)、オギサバンナ(中山3歳牝馬S2着)、シマノヤマヒメ(中京記念)。公営のコリムプリンス(報知オールスターC)、スーパーミスト(東京記念)など。

母のツキメリーは、南関東公営で走り、東京3歳優駿牝馬賞、浦和桜花賞2着など、公営オープンで活躍した。自身の血統構成も、Hyperionの4×4を主導に、父の父Swapsを強調した内容で、中央の準オープンレベルの内容は十分に確保しており、なかなか個性的な形態を示していた。

①=○、②=□、③=□、④=○、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=8~10F

そうした父母の間に生れたメリーナイス。影響度数字に換算される位置にある主なクロス馬を見てみると、まずNearcoの4・5×6が確認できる。これは、位置と系列ぐるみの形態から、主導勢力と判断できる。次いで、Hyperionの5×5・5が、途中でBayardoが断絶しているものの、Gainsboroughによって、Solarioの6×7と結合している。Nearcoとも、ChaucerやSt.Simonによって結合して、スタミナ勢力として、能力参加を果たしている。

War Admiralの5×6も、母の母内月友のMan o’ Warがちょうどよい位置でクロスして、ほぼ系列ぐるみとなり、主導のNearcoとはSainfoinで結合して、Francis.Sをはじめ、米系のスピード・スタミナを供給している。このWar Admiralのクロスは、現代では珍しくないが、当時の日本の繁殖牝馬は欧州系主体であったことから、コリムスキーのような米系主体の種牡馬と呼応させることが難しかったのである。

そうした欧州系と米系を連動させたという意味では、メリーナイスの配合は、時代を先取りした例として位置づけられる。Polynesianの5×4は単一クロスのため影響力はやや弱いが、PhalarisとBlack Toneyなど、欧米の血をまとめる上で有効に作用して、スピード勢力として能力参加を果たしている。

以上を8項目に照らして評価すると、以下のようになる。
 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=8~12F

サクラスターオーとモガミヤシマが抜けた1987年のダービー出走馬の中では、血統構成だけならば、この馬がもっともすぐれており、他馬との比較からも、2着との差が6馬身というのは、配合レベルを反映した結果と考えてよいだろう。

メリーナイスは、Northern Dancer系を父に持ち、朝日杯とダービーを制した実績から、スピード・スタミナを兼ね備えた馬として期待され、1989年に種牡馬入りを果たした。初年度に、ビワハヤヒデを相手に共同通信杯を制したマイネルリマーク出して、注目される。しかし、その後は、京都4歳Sを制したイイデライナーは出したものの、中央でコンスタントに成績を残すことはできなかった。

その理由として考えられることは、欧米混合型の配合で、Northern Dancerを強調した血統構成のメリーナイスに対し、その流れを受けて、米系の血でまとめられた繁殖牝馬が、まだ時代的に少なかったということに尽きる。つまり、種牡馬となるのが、一時代早すぎたのである。コリムスキー内のFrancis.Sや、シャトーゲイの持つSwapsなどは、それこそ現代のスピード要素のトレンドで、Mr.Prospector系とも十分に対応できる種牡馬、というのがメリーナイスの評価になる。参考までに、マイネルリマークとイイデライナーの分析表を掲載しておくので、参照していただきたい。

■マイネルリマーク
 ①=□、②=○、③=○、④=△、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~10F

▸ マイネルリマーク分析表

父内の米系はクロスになれず、父母の傾向は万全ではない。しかし、ツキメリーと母ミヤコカツヒメの持つBay Ronald系の流れを、テスコボーイの4×3の呼び水のもとに、少ないクロス馬でまとめて、スピードの再現に成功している。ファラモンドとガバドールのスタミナを捕球できたことは、当馬の長所。テスコボーイを呼び水とした配合としては、バランスのよい血統構成で、仕上がりやすさと早熟性が、共同通信杯4歳Sの勝利に結びついた。

■イイデライナー
 ①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~10F

▸ イイデライナー分析表

母の父ロイヤルスキーが、メリーナイスの持つ米系と呼応できたことが、この配合のポイント。Princely Giftの5×4の系列ぐるみの主導のもと、弱点・欠陥の派生もなく、うまくまとめられている。早熟性を備え、当時の日本的な配合の代表的なパターンの持ち主といえる。母の父ロイヤルスキーは、Man o’ WarやPharamond、Ksarらを含み、欧米双方の血に呼応できる便利性を備えている。ロイヤルスキーを含むアグネスタキオンが、種牡馬として現代でも通用している理由を、伺い知ることができる血統構成である。

メリーナイスの同期には、サクラスターオー、タマモクロスなど、父内国産のすぐれた血統構成馬が出現している。これらの馬については、この「百名馬」シリーズで、すでに解説しているので、ここではメリーナイスが勝ったダービーで人気を得ていたマティリアルと、関西2歳チャンピオンのゴールドシチー、そして人気薄ながら2着に粘ったサニースワロー、さらにメリーナイスと同じ父を持つスーパーファントムの血統について、簡単に触れておきたい。

■マティリアル
①=○、②=△、③=○、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~10F

▸マティリアル分析表

シンボリ牧場の生産馬で、父パーソロン、BMSスピードシンボリという組み合わせが、七冠馬シンボリルドルフと同じであり、スプリングSの勝利や皐月賞で見せた追い込み脚が評価され、ダービーでは単枠指定される。しかし、血統構成は、祖母ライトゲイムの世代後退によって、ルドルフとはまったく異なる内容となり、マイラー傾向を示していた。ライトゲイム内に含まれる3つのThe Tetrarchがスピードを供給できたことは、マティリアルのひとつの個性であり、それが皐月賞で見せた鋭い末脚に結びついたものと考えられる。それに対して、母内に多く存在しているHyperionやGainsboroughはクロスになれず、その不備を補う上質のスタミナを欠いていた。ダービーでの惨敗は、まさにそのスタミナ不足が露呈した結果だったといえよう。

■サニースワロー
 ①=○、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=9~12F

▸サニースワロー分析表

BMSファバージ内のNasrullahはクロスにならず、主導はNearcoの系列ぐるみ。祖母内月友の持つFair Playが父と呼応して弱点の派生を防ぎ、Blenheimを通じてDonatelloのスタミナを加えたことが、ダービーで意外な粘りを発揮できた血統的な要因となった。

■ゴールドシチー
 ①=□、②=□、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~11F

▸ゴールドシチー分析表

血の集合箇所がわかりにくいことで、詰めが甘い。しかし、祖母内カバーラップⅡ世と月友のFair Playがヴァイスリーガルと呼応して米系を再生し、OrbyやTraceryのスピード・スタミナが生きた。きめ細かい配合形態を示し、菊花賞2着の善戦も納得できる。父ヴァイスリーガルは、クロフネの父系Vice Regentの全兄にあたり、フレンチデピュティなど、現代の主流と同系である。

■スーパーファントム
 ①=□、②=△、③=○、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=△、⑧=□
 総合評価=1B級 距離適性=9~10F

父母の位置関係から、NearcoとFairwayのどちらが主導なのかわかりにくいが、強調されたアポッスルのスピード・スタミナ、キーホースが押さえられたことと、クロス馬相互の結合がしっかりしていたことが、この配合のポイントになっている。早熟中距離傾向といった血統構成。同じ父を持つメリーナイスと比較すると、コリムスキー内の米系の血が、まったく生かされていないことがわかる。

▸ スーパーファントム分析表

 

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