久米裕選定 日本の百名馬

ミホシンザン

父:シンザン 母:ナポリジョオー 母の父:ムーティエ
1982年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:皐月賞、菊花賞、天皇賞・春

▸ 分析表

ミナガワマンナ(菊花賞)に続き、シンザン産駒2頭目のクラシックホースとなったのがミホシンザン。皐月賞を制した後、骨折によってダービーは断念した。秋に復活して菊花賞を制しただけに、もしも無事にダービーに出走できていたら、親子で「三冠馬」の栄冠に輝いたのではないかと、大いに惜しまれた。

ミホシンザンの同期といえば、海外で育成されてダービーを制したシリウスシンボリ(父モガミ)、皐月賞(2着)・ダービー(3着)と善戦したスクラムダイナ、あるいは芦毛の個性派ステイヤーとして活躍したスダホーク(父シーホーク)などがいる。この世代の馬たちの血統構成の傾向としては、シリウスシンボリを除けば、欧州系の血を主体とした馬が、主流を占めていた。

そして、前年のシンボリルドルフ、さらにその前のミスターシービーと、2年連続三冠馬が出現したように、欧州系が最高潮に達した時期で、ミホシンザンもその流れの中で、日本最強といわれたシンザンの代表産駒として登場してきたのである。

《競走成績》
4~6歳時に、16戦9勝。主な勝ち鞍は、皐月賞(GⅠ・芝2000m)、菊花賞(GⅠ・芝3000m)、天皇賞・春(GⅠ・芝32000m)、スプリングS(GⅡ・芝1800m)、京都新聞杯(GⅡ・芝2200m)、AJCC(GⅡ・芝2200m)、日経賞(GⅡ・芝2500m)。2着は有馬記念(GⅠ・芝2500m、1着=シンボリルドルフ)。3着はジャパンカップ(GⅠ・芝2400m、1着=ジュピターアイランド)。

《種牡馬成績》
代表産駒は、マイシンザン(NHK杯、朝日チャレンジC=コースレコード1分58秒0)、ミスズシンザン(白百合S)、シロキタシンザン(バイオレットS)、オンワードモニカ(東京4歳牝馬特別3着)、ゴッドマウンテン(NHK杯4着)など。

父シンザンは、すでに紹介した通り、1961年浦河産。19戦15勝で、皐月賞、ダービー、菊花賞、有馬記念、天皇賞・秋、宝塚記念などを制す。産駒には、このミホシンザンの他に、ミナガワマンナ(菊花賞)、シングン(金鯱賞、朝日チャレンジC)、シンザンミサキ(愛知杯、鳴尾記念)、スガノホマレ(日本短波賞、CBC賞、東京新聞杯、京王杯オータムH)、シルバーランド(愛知杯2回、マイラーズC、CBC賞、京阪杯)、ブルスイショウ(カブトヤマ記念、クモハタ記念)キャプテンナムラ(阪神大賞典、鳴尾記念)、ゴールデンボート(京王杯スプリングH)、ロイヤルシンザン(安田記念)、グレートタイタン(京都記念、愛知杯、スポニチ賞金杯、阪神大賞典)、フジマドンナ(カブトヤマ記念、福島記念、中日新聞杯)など、スピード・スタミナとも、タイプの異なるステークス・ウィナーを輩出している。

シンザン自身の血統構成は、Solario内に集約されたSundridgeとGainsboroughというスピード・スタミナを主体とした内容で、それを全開させたことが、強さの源泉となった。

▸ シンザン分析表

母ナポリジョオーは、9戦2勝。実績としては上級馬ではなかったが、自身の配合は、Nearcoの4×4の系列ぐるみを主導として、Lady Josephineのスピード、Rabelais、Alcantaraのスタミナを生かすなど、当時としては珍しい形態を示していた。欠陥は派生しておらず、St.Simonによる土台構造がしっかりしていて、血統構成だけでいえば、牝馬同士で準オープンレベルにいってもおかしくないだけの内容を確保していた。

▸ ナポリジョオー分析表

マイナス点は、せっかくのThe Tetrarch、Gainsborough系の流れを押さえられなかったことだが、このことは、逆に繁殖牝馬としての特徴になった。すなわち、相手の種牡馬によって、産駒がさまざまな形態に変化する素地を持っていた。そうした父と母の間に生まれたのが、ミホシンザンである。

ミホシンザンの血統構成では、全体をリードしている主導勢力は、その位置およびクロスの種類の関係から、Gainsboroughの5・5×7・7の系列ぐるみ。次いで、Blandfordの5×7・8・8・9の影響も強い。これらは主にスタミナ勢力として、ミホシンザンの能力形成に参加している。

つぎに、Tetratemaの5×7が、The Tetrarchのクロスを伴って、St.Simonによって主導と直結し、スピード勢力として能力参加を果たしている。このTetratemaとThe Tetrarchをクロスさせるということは、当時としては意外に珍しく、ミホシンザンの血統を語る上でも、重要なポイントになる。

つまり、皐月賞でみせた差し脚、瞬発力の血統的要因である、父シンザンの「ナタの切れ味」から、「カミソリの切れ味」の仔への変身を可能にした理由が、このTetratemaの血にあったのである。

ミホシンザンは、どちらかといえば、シンザンの晩年時期の産駒である。確かにシンザンは、重賞勝ちクラスの産駒を輩出してはいたが、いずれも上級レベルでは力不足を露呈していた。それが何故、晩年になってGⅠホースを出すことができたのか、その理由について、簡単に触れてみたい。

まず、シンザンは、戦前・戦後の日本に根付いていたGainsborough、Blandfordなどを中心に構成されており、現代の主流であるNearco系は、まだ含まれていなかった。そのかわりに、セフト系には潜在的に配されていたスピード要素、TetratemaとThe Tetrarchの血を持っていた。その他にも、自身のスピード源となったSundridgeがある。あるいは、シアンモアのBMSで、日本の競馬における伝統的なスピード要素であるOrbyを含むことなどが、特徴になっている。

これらの血は、シンザンが種牡馬となった当初の1960年代後半では、繁殖牝馬に浸透しつつあり、配された世代も3~4代と、前面に位置していた。したがって、ランダムに配合すると、GainsboroughやBlandfordが前面でクロスし、近親度の強い配合になりやすく、バランスを崩して、結果として上位では力不足を露呈する確率を高くしていたのである。

それが、時代を経るにしたがって、繁殖内の血が全体に後退していき、あるいは海外でスピード源として浸透し始めていたThe Tetrarchなどが導入されるようになり、シンザンが潜在的に持っていたスピードをよみがえらせることができる環境が整ってきた。そういう時代の流れに乗って登場してきたのが、ミホシンザンなのである。Tetratema-The Tetrarchが、ミホシンザンの血統のポイントと述べたのも、そのため。

ミホシンザンは、この他にも、パリ大賞典やリュパン賞を制し、フランス馬のスタミナ補給に貢献したSans Souci Ⅱや、英オークス、セントレジャーを制したPrtty Pollyなど、隠れたスタミナを生かしており、父シンザンの持つ特徴を活用した妙味が読み取れる。それが、GⅠ3勝の実績に結びついた血統的要因である。

これらのことを、8項目で評価すると、ミホシンザンの血統構評価は以下のようになる。

 ①=□、②=△、③=○、④=□、⑤=△、⑥=○、⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

ミホシンザンは、シンザン産駒として、なかなか個性的な内容を示しており、少ない種類のクロス馬でまとめられた、妙味を持つ形態であることは間違いない。しかし、6歳で天皇賞を制したものの、5歳時のGⅠレースは3戦ともすべて3着で、1勝もできなかったように、古馬になってからの頂上対決では、4歳時の勢いが影をひそめていた。

このことは、同馬の影響度バランス⑪⑨00が示す通り、母ナポリジョオーからのアシストが、必ずしも十分な形で行われていなかったことが、一つの要因と考えてよいだろう。また、この父母間のずれをいかに修正するかが、種牡馬としてのミホシンザンの課題となってくるのある。

3つのGⅠを制したミホシンザンは、シンザンの後継馬として、当然のことながら大きな期待を担って、1988年に、種牡馬入りを果たした。そして、2年目の産駒として、マイシンザンを出して、当時リーディングサイアー・ランキングで上位の実績を誇っていたトウショウボーイに続く内国産種牡馬として、注目を集めた。しかし、マイシンザン以外は、これといった成績をあげる産駒にめぐまれず、その後バブル経済とともに訪れた輸入種牡馬時代の波にもまれて、やがて忘れさられる存在になってしまった。

この原因の1つが、先に述べた父母間の世代ずれであり、そしてもう1つが、自身の中に、当時繁殖側に浸透し始めていた米系の血に対応できる要素を、欠いていたことである。今後、もしもミホシンザンの血が再び注目されることがあるとすれば、繁殖側の中で、欧州系Bois Rousselのスタミナと、スピードのNasrullah、Tudor Minstrelが再現されたときだろう。しかし、残念ながら、上級馬の出現ということでいえば、世代の統一性を欠くことから、極めて確率が低いことも間違いない。

このように、種牡馬として成功するには難しい構造を持ったミホシンザンだったが、その代表産駒であるマイシンザンは、父の特徴を引き出した配合として、なかなかバランスのとれた内容を示していた。その様子を分析表で確認していただきたい。

同馬の8項目評価は、以下のようになる。

 ①=□、②=○、③=○、④=○、⑤=□、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=8~12F 

Aureoleをスタミナの核にし、Tetratemaのスピード、Alcantara-Perth、Sans Souci Ⅱ、Orbyなど隠れたスタミナ・スピードをみごとに押さえて、なかなかきめの細かな配合馬である。慢性の脚部不安がなければと、惜しまれる1頭であった。

▸ マイシンザン分析表

最後に、ミホシンザンと同期の馬たちの血統にも簡単に触れておこう。まず、以前、「隠れた名馬」として紹介したスクラムダイナ(1A級)の稿で、シリウスシンボリ(1A級)、スダホーク(1A級)、ビンゴチムール(3B級)、サクラサニーオー(2B級)などについては、すでに解説している。そこで、今回は、ミホシンザンが3着になったときのジャパンカップを制したジュピターアイランド(Jupiter Island)と、おなじく公営から参戦して7着に敗れたジュサブローの血統構成について触れておきたい。

ジュピターアイランドは英国産。父、St.PadyはAureoleの代表産駒で、英ダービー馬。Jupiter Islandは、ムーンマッドネス(日本に輸入)の代役で参戦した馬だが、JC以前にはGⅠ勝ちはなく、全成績は40戦13勝。14頭立ての8番人気で、パット・エデリー騎乗という点以外は、注目度はそれほど高くはなかった。1番人気は、天皇賞・秋を快勝したサクラユタカオー。ミホシンザンは4番人気。公営から参戦したジュサブローは、オールカマーと東海桜花賞を連勝して、5番人気に支持されていた。 

結果は、直線アレミロード(JC出走で初の日本への輸入種牡馬)との叩き合いを制して、ジュピターアイランドが勝利をおさめ、2着アレミロード、そして日本馬の最先着は3着のミホシンザン。1番人気のサクラユタカオーは、距離の壁に泣いて6着に敗れた。

さて、勝ったジュピターアイランドの血統は、分析表に示されている通り、世代ずれがあり、その実績でもわかるように、決して一流馬の血統構成でないことは一目瞭然である。

8項目評価は以下のようになる。
 ①=□、②=△、③=○、④=□、⑤=△、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=9~12F

▸Jupiter Island分析表

確かに、BlandfordやClarissimusによってDonatelloのスタミナを確保し、少ない種類のクロス馬で結合のよさは見せている。そのために、おそらく、世代ずれの影響は最低限で済んだのだろう。とはいうものの、いかにもバランスの悪い内容で、JC馬としては、レベルの低い配合馬という位置づけが妥当。この馬の勝利については、鞍上のパット・エデリーの技量と、陣営が最後まで馬場への散水を主張し続けた執念の成果と解釈すべきだろう。

ジュサブローは、公営での戦績は、22戦15勝。中央では、4戦1勝。オールカマー(1着)の他、日経賞2着(1着=ミホシンザン)の実績を残している。
 
その血統は、Mahmoudの5×6は中間断絶だが、GainsboroughによってSolarioと直結し、その他Teddy、Son-in-LawもBay Ronaldで結合を果たし、スピード・スタミナを補給している。また、PharosとHurry Onは、Sainfoinで結合して、スピードおよびスタミナのアシストをし、完全異系交配で、みごとなバランスが保たれている。

以上を、8項目評価すると以下の通り。
 ①=□、②=○、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~12F

▸ジュサブロー分析表

生きている血の傾向は芝向きで、血統構成だけでいえば、ミホシンザン、そして勝ったジュピターアイランドをも、完全に凌駕している。もしも、ジュサブローが、中央の中長距離に実績を持つ厩舎に所属していたならば、もっと大きな仕事をしていたとしても、少しも不思議のない内容を持った馬であったことを、指摘しておきたい。

 

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