久米裕選定 日本の百名馬

ネオユニヴァース

父:サンデーサイレンス 母:ポインテッドパス 母の父:Kris
2000年生/牡/IK評価:1A級
主な勝ち鞍:G1ダービー、G1皐月賞

▸ 分析表

ネオユニヴァースのデビューは、2002年(平成14年)11月の京都新馬戦芝1400m。18頭立ての1番人気で、レースは2番手から抜け出し、人気に応えて勝利を飾る。2戦目の中京2歳Sは、初戦同様、好位でレースを進めたものの直線伸びきれず、ホシコマンダーの3着に破れ、1800mという距離に対する不安がささやかれた。そうしたレースぶりから、白梅賞を勝った後、初めての重賞参戦となったきさらぎ賞は、3番人気とさほど高い支持は得られなかった。しかし、レースでは、本命視されたサイレントディールと叩き合いの末これをくだし、クラシック戦線に名を連ねることになる。

続くスプリングSは、関東のサクラプレジデントに次ぐ2番人気。鞍上にデムーロ騎手を迎え、これまでとは一味違い、中団待機というレースぶりで、3~4コーナーで徐々に進出し、1番人気のサクラプレジデントをとらえて優勝。

そして本番の皐月賞では、前年の2歳チャンピオンのエイシンチャンプや、サクラプレジデントを抑えて、1番人気に支持された。レースは、先行馬有利と思えるスローな流れだったが、中団より徐々に進出したネオユニヴァースは、早めにスパートをかけたサクラプレジデントを、内側から差しきり、デムーロ騎手の好騎乗によって優勝。 

さらに、重馬場で行われたダービーも、新興勢力として台頭してきたゼンノロブロイをとらえ、みごとに二冠を達成し、3歳クラシックロードの頂点に立った。ダービーを制したことで、本来ならば、秋に備えて休養をとるべきところだが、ネオユニヴァースは、古馬との対決の道を選び、宝塚記念へと駒を進めた。しかし、前年からの連戦の疲労が見られ、ヒシミラクルの4着と敗退した。

この無理な宝塚記念出走は、後々まで尾を引き、秋のネオユニヴァースは、神戸新聞杯(3着)、菊花賞(3着)、ジャパンカップ(4着)と、掲示板を外さない堅実さは見せたものの、春の勝負強さは影をひそめていた。

年が明けて、産経大阪杯では、持ち前の勝負強さを発揮して、マグナーテンを退けて勝利をものにしたものの、天皇賞・春では、イングランディーレの10着と、初めて掲示板を外す惨敗を喫した。その後、屈腱炎を発症し引退。ダービー後に休養をとっていれば、別の結果がでていたかもしれない。

《競走成績》
2~4歳時に走り、13戦7勝。主な勝ち鞍は、ダービー(G1・芝2400m)、皐月賞(G1・芝2000m)、スプリングS(G2・芝1800m)、大阪杯(G2・芝2000m)、きさらぎ賞(G3・芝1800m)など。

父サンデーサイレンスは、米国産で、2~4歳時に米国で走り、14戦9勝。ケンタッキーダービー(米G1)、プリークネスS(米G1)、BCクラシック(米G1)などを制し、米3歳牡馬チャンピオンに選出されている。種牡馬として日本に輸入され、1995年~2006年の間リーディングサイアー。産駒は、本馬を始め、ディープインパクト、ゼンノロブロイ、サイレンススズカ、スペシャルウィーク、アグネスタキオン、ダンスインザダーク、ダンスインザムード、フジキセキ、タヤスツヨシ、ジェニュイン、デュランダルなど、数多くのGⅠホースを輩出した。

母ポインテッドパスは、英国産で、仏で走ったが勝ち鞍はない。その理由として考えられるのは、母Silken wayに米系の血が含まれていなかったことから、父Kris内のGeisha、あるいはRelicに弱点が派生したことが影響したと思われる。とはいうものの、Hyperionの5×4の系列ぐるみを主導に、Bay Ronald系の流れを持つシンプルな形態であることから、繁殖牝馬としての利用価値は高い。米系の不備を補い、Hyperion系の流れを活用すれば、優駿生産は可能と推測できる。そして、それを実現したのが、ネオユニヴァースの配合である。

ネオユニヴァースの血統では、まず前面でクロスしている血は、Hyperionの6・7×5・6の系列ぐるみで、これが主導を形成している。他に影響力が強いのは祖母内Shantung、次いでTetratemaおよびThe Tetrarchを3つ持つPall Mallがスピードを供給。さらに、RabelaisやSans Souci など、隠し味的なスタミナを持つSicambreが、能力参加を果たしている。そして、ポインテッドパス内に派生していた米系の弱点は、父サンデーサイレンスがMan o’War、Fair Playを含み、Kris内Native DancerおよびReliance内のMan o’Warと呼応して、その弱点を補正することに成功し、米系のスピードを加えていることが読み取れる。

さらにサンデーサイレンスの血の流れでもあるGainsborough~Bay Ronald系を活用して、Gainsboroughが主導のHyperionと直接結合を果たし、スピード勢力として能力参加を果たしている。本来はクロスになりにくいLa Farina、Sans Souci 、Son-in-Lawなど、サンデーサイレンス内のアルゼンチン系Montpallnasseに含まれる特殊な血を押さえたことも、ネオユニヴァースの配合の見どころになっている。Hyperion主導の明確性を備え、異系バランスを保ち、シャレた血統構成の持ち主である。

これを、8項目で評価すると以下のようになる。

 ①=○、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=8~12F

Kris内のTourbillon系などがクロスになれず、スタミナの押さえかたの弱さから、長距離適性となるとやや弱い面は残るが、サンデー産駒としては珍しい、Hyperion主導の血統構成馬として、妙味のある配合形態を示している。ちなみに、サンデーサイレンスの産駒を、主導勢力別に分類すると、Almahmoudがもっとも多く、全体の8割程度を占めている。

主導勢力別に、主な産駒をあげると、以下のようになる。

 □Almahmoud=  ディープインパクト、スペシャルウィーク、ダンスインザダーク、
              マーベラスサンデー、アドマイヤベガ、ステイゴールド、ダイワメジャー
 □Pharamond=   タヤスツヨシ
 □Khaled=      フジキセキ
 □Royal Charger= エアシャカール
 □Nearco=      アグネスタキオン
 □Mahmoud=    マンハッタンカフェ
 □Turn-to=     サイレンススズカ
 □Hyperion=     ネオユニヴァース

1頭の種牡馬から、これほどまでに多系統にわたる主導勢力を持った産駒が輩出され、それらがGⅠ馬になるといった例は、これまでに他にはない。まさに変幻自在、サンデーサイレンスのスーパー・サイヤーたる理由の一端は、この主導勢力の分類からも、伺い知ることができるだろう。

話を元にもどすと、ネオユニヴァースの堅実性と、ゴール前での勝負強さは、このHyperionとTetratemaのスピード・スタミナが開花したことに因る部分が大きいと考えられる。したがって、種牡馬として活用する場合も、やはりこの血の流れや構造に留意して、交配を考えることがポイントになる。

つぎに、ネオユニヴァースの種牡馬としての可能性を検証してみよう。ネオユニヴァースは、すでに述べた通り、サンデーサイレンス産駒としては、個性的な血の流れを持っている。さらに、Northern Dancerの血を含んでいないことも、種牡馬としての特徴の1つになる。少し気になることは、Nasrullahの血が8代目という奥まった位置に配されていることで、この血の効果の判断が、判定の難しさにつながることが出てくるかもしれない。

そこで、ネオユニヴァースを種牡馬として活用する際の留意点を整理すると、以下のようになる。

 ①Hyperionの活用
 ②ポインテッドパス内の特殊な仏系の血を生かす
 ③欧米系の血の結合に注意する
 ④Nasrullahを活用する場合には、血の世代をそろえる

以上の条件を満たす具体例として、繁殖牝馬フランクアーギュメントとの交配をあげることができる。ネオユニヴァースのシンプルな構造を受け継ぐという点では、必ずしもベストとはいえないが、Tudor Minstrelの5×7を系列ぐるみにすることで、Hyperion系の流れを活用し、Tantiemeの6×6、Relanceの6×5によって、②と③の条件を満たすことができる。また、Nasrullahが6×8という位置でのクロスのため、強すぎず、弱すぎず、スピードを補給することが可能になる。

以上を8項目で評価するとつぎの通り。

 ①=○、②=△、③=□、④=○、⑤=○、⑥=△、⑦=○、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

開花はやや遅めで、反応面の心配は残るが、クラシック・ディスタンスを克服できるスピード・スタミナのバランスを保っている。

▸ ネオユニヴァース×フランクアーギュメント分析表

その他では、トニービン、ノーザンテーストというHyperion系の流れをもつエアグルーブ、マンハッタンカフェの母サトルチェンジなども交配は可能で、供用されている社台の繁殖牝馬とは、比較的相性はよさそうである。

それでいえば、ネオユニヴァースは、Nasrullahを8代目に1つしか持たないので、この日本的なスピードを再現するいう面では、タキオンよりも劣るかもしれない。その代わり、タキオンには見られない、KrisやSicambreといった欧米の質の高いスピード・スタミナ要素を包含している。そして、Northern Dancerを含まず、Hyperion系の流れを持つことで、ここ一番での勝負強さを持つ産駒を出すことは、十分に期待できる。

また、5代以内同士でクロスになりやすい血は、Hail to Reason以外には持っていないので、異系交配の様相を示す配合馬つくりやすいタイプであることも予測できる。その意味で、ネオユニヴァースは、現代の日本では、貴重な資質を備えた種牡馬ということができる。

(以下補足・羽鳥)
その後、ネオユニヴァースは、ドバイWCを制したヴィクトワールピサを輩出しているので、ヴィクトワールピサの血統構成をネオユニヴァースの種牡馬としての条件で検証してみよう。

ヴィクトワールピサは、Halo3×4を呼び水に、Almahmoudの系列ぐるみで全体をリードした形態で、Hyperion系の父の血の流れを再現するという観点からは必ずしもジャストフィットではない。しかしながら、HyperionとAlmahmoudはGainsboroughを介して互いに結合し、スピードとスタミナいう2本柱としてヴィクトワールピサの能力形成に大きな割合を占めているので、それはあくまで上位レベルでの話である。
従って①の「Hyperionの活用」はある程度クリアしていると判断できる。

②の「ポインテッドパス内の特殊な仏系の血を生かす」は、祖母内Bustino、Lorenzaccio内の血がKrisやShantung内の特殊な欧州系に対応し、Crepello、Wild Risk、Prince Rose、Tourbillonなどのスタミナが再現されていることが読み取れる。

③の「欧米系の血の結合に注意する」も、Haloのクロスにより、Blue LarkspurやMan o’War、Teddy系などの米系とAlmahmoudやNearco-Pharosなどとをうまく結びつけており、及第点の内容。

④の「Nasrullahを活用する場合には、血の世代をそろえる」もフランクアーギュメントとの配合同様に、8×6と程よい位置でスピード勢力として能力参加を果たしており、条件は満たされていると判断できる。

8項目評価では、
 ①=○、②=□、③=□、④=○、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=9~11F

▸ ヴィクトワールピサ分析表

 

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