久米裕選定 日本の百名馬

サッカーボーイ

父:ディクタス 母:ダイナサッシュ 母の父:ノーザンテースト
1985年生/牡/IK評価:2A級
主な勝ち鞍:G1マイルチャンピオンS、G1阪神3歳S

▸ 分析表

《競走成績》
3~4歳時に11戦6勝。主な勝ち鞍は、マイルチャンピオンS(GⅠ・芝1,600m)、阪神3歳S(GⅠ・芝1,600)、函館記念(GⅢ・芝2,000m、JRAレコード=1分57秒8、2着は前年ダービー馬のメリーナイス)、中日スポーツ賞4歳S(GⅢ・芝1,800m)。3着-有馬記念(GⅠ・芝2,500m、1着オグリキャップ、2着タマモクロス)。 

《種牡馬成績》 
ナリタトップロード(菊花賞=GⅠ=3,000m)、ティコティコタック(秋華賞=GⅠ・芝2000m)、ゴーゴーゼット(アルゼンチン共和国杯=GⅡ・芝2,500)、キョウトシチー(東京大賞典・ダ2,800m)

父ディクタスは、フランス産で、競走成績は17戦6勝。GⅠ勝ちが、1,600mのジャック・ル・マロワ賞ということで、1981年に種牡馬として輸入された当初は、マイラー系競走馬と紹介されていた。しかし、父Sanctusは、仏ダービー、パリ大賞典を制しているように長距離実績を持ち、その仔のディクタスも、Blenheimの5・5×5を主導に、Ksarの5×6、Gainsboroughの5・6×6というクロスを持ち、むしろスタミナによさを持つ血統構成を示していた。そして、それを裏づけるように、2,000mのGⅠ競走チャンピオンSでは、Nijinskyの4着と好走し、一般レースでも、2,400mの距離のレースを勝っている。また、種牡馬としても、日本に輸入された後、Palikaraki(GⅠ・アーリントンH)や長距離のGⅠカドラン賞3着のMagwalなどを出し、1983年にはフランスのリーディングサイアーの座に着いている。

日本における代表産駒に、朝日杯3歳Sを制し、皐月賞2着(1着ミホシンザン)、ダービー3着(1着シリウスシンボリ)と安定した成績を残したスクラムダイナ、有馬記念4着のミスターブランディ、皐月賞2着のディクターランド、牝馬ながら安田記念を2着と好走したイクノディクタスなどがいる。ちなみに、ディクタスの種付価格は、当初(1982年)は180万円であった(ノーザンテースト350万円)。

母ダイナサッシュは、9戦して勝ち鞍はなし。母の母ロイヤルサッシュ(英国産)も未勝利だが、当時日本で流行していたPrincely Giftの産駒という血統上の価値があり、その血に日本の誇る名種牡馬ノーザンテーストという配合で、母ダイナサッシュは評価を受けていた。

父ディクタスの特徴は、Nasrullah-Nearco、Hyperionの血を含まず、それでいてMahmoudを持つことでスピードの裏づけとなるThe Tetrarchを包含していること。このことが、母ダイナサッシュとの間で、みごとなバランスを保つことになる。

まず、BMSとなるノーザンテーストだが、この馬は、Lady Angelaの3×2という強い近親の形態をとり、当時としては、クロス馬を生かしにくく、それにカナダの特殊な血であるVictoria Parkを含んでいた。もしも、かりにディクタス内にHyperionの血があったとしたら、この血が近い世代でクロスして影響が強くなり、しかもVictoria Park内に弱点が派生することになる。しかし、HyperionもNearcoもクロスにならなかったために、ノーザンテーストの影響力が③と、祖父母4頭の中ではもっとも弱くなって、弱点は軽微ですんだ。このことは、ディクタスにノーザンテーストの組み合わせから、活躍馬が多く出る理由でもある。

次に母の母ロイヤルサッシュだが、ここもNasrullah、Nearcoはクロスにならずにすみ、Princely Giftの影響は弱くなっている。それでいて、Mumtaz MahalとThe Tetrarchのスピード系の血がクロスして、能力形成に参加している。以上のことから、主導はMahmoudの5×6の系列ぐるみ。Mahmoudの父Blenheimは、もともとディクタスの主導を形成する血であり、スタミナ勢力として、ごく自然に生きてくる。そして、このMahmoudには、Mumtaz MahalとThe Tetrarchが直結し、スピード勢力として参加している。もっとも、このMahmoudは、単にスピードだけでなく、しっかりしたスタミナも備わっている。Pharosも、Canterbury Pilgrimによって、ちょうどよい位置で主導と直結している。さらに、St.Simonによって、Rabelaisとも連動している。 こうして、5~6代にあって影響度数字に換算される血を検証すると、スピード勢力はもちろん、スタミナ勢も、かなりの比重を占めていることがわかる。このように、Mahmoudの主導の明確性と、強固な結合が、サッカーボーイのあのはじけるようなスピードを生み出す血統的要因になったのである。

これを、8項目で評価すると以下のようになる。
 ①=◎、②=○、③=◎、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=◎
 総合評価=2A級 距離適性=8~12F

サッカーボーイは、阪神3歳Sで、2着に8馬身差をつけて勝ち、GⅠのマイルチャンピオンS、函館記念で、当時としては驚異のレコード勝ちをおさめ、最優秀スプリンターに選出されたことから、一般的にはスピード馬と位置づけられている。しかし、本質は、むしろ中距離の血統構成であり、クラシック戦線でも、脚元の故障さえなければ、ダービー制覇も夢ではなかった内容を秘めている。それを証明したのが、引退レースとなった有馬記念で、結果はオグリキャップの3着と敗れはしたものの、これは、相手がオグリ、タマモクロスという一流の血統構成であったため。もし骨折というハンディキャップがなければ、もっときわどい勝負をしていたはずである。

競走馬としてのサッカーボーイの血統構成は、以上のように、「配合の妙の見本」のようなみごとなものであった。これは、ディクタスの血統の持つ「特殊性」(Hyperion・Nasrullah・Nearcoを含まないこと)のたまものといっても過言ではない。しかし、サッカーボーイが種牡馬になった場合には、ディクタスの時代のような、特殊性を持つ繁殖牝馬が極めて少なくなっているという状況が待っていた。つまり、日本の繁殖牝馬の趨勢を考えると、Nasrullah-Nearco、Hyperionの血を含む馬が圧倒的に多くなっていたのである。

とすれば、これとランダムに配合をすれば、NasrullahやHyperionのクロスが発生し、サッカーボーイのときに⑥⑧③⑥と影響力が強かったディクタスよりも、ノーザンテーストとPrincely Giftを含む母ダイナサッシュのほうが影響が強くなる可能性が高くなる。その結果、勝ち上がり馬は出ても、上級レベルで戦えるような血統構成馬の出現は難しい。それが、種牡馬としてのサッカーボーイの評価となる。 

もしも、サッカーボーイのようにMahmoudの主導の明確性を打ち出すことができなければ、HyperionかNasrullahのどちらか一方を強調して、シンプルな構造を持たせることが、配合の一つの方法。そのことは、以前、『スタリオン・ブック』の中でも解説したが、それに近い形態が、産駒の中でGⅠ馬となったナリタトップロードのケースである。

ナリタトップロードの母フローラルマジックは、Hyperionの血は含まず、母の母内Never BendのNasrullahが4代目から系列ぐるみのクロスを形成して、強い影響力を示している。主導は明確で、その構造はシンプル。ただし、影響の強い祖母内の米系の血のクロス効果が完全には読み取れず、チェック項目の④を△としてたため、評価を「2B級」とした。しかし、これまでの実績を見る限り、9代目のGalopin、St.Simon、Isinglassによって最低限、欠陥部分は補修されていると推測できる。 とはいうものの、同馬のここぞというときの弱さは、やはりこの母内に生じている米系の不備が影響していると見て、まず間違いはないだろう。

▸ ナリタトップロード分析表

サッカーボーイの主導は、前述の通りMahmoudだが、やはりこのMahmoudを主導とした馬の代表として、サンデーサイレンスがいる。サンデーとサッカーの差は、前者がNasrullahを含んでいないことと、ノーザンテーストのような自身を強調し過ぎる血を含んでいないことがあげられる。といっても、種牡馬ではなく、競走馬としては、Mahmoudの血の流れに共通点を持つことは事実である。とすれば、繁殖牝馬には、サンデーサイレンスのような構造を持つ馬が、配合相手として傾向に合うとことは、容易に想像がつく。それを実現させたのが、母がサッカーボーイの全妹ゴールドサッシュに、サンデーサイレンスを配した、ステイゴールドということになる。

同馬の8項目チェックは以下の通り。
 ①=○、②=□、③=□、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=2B級 距離適性=芝9~11F

主導とスピード・スタミナの項目は良好としてたが、ノーザンテースト内の弱点で④を△とし、これを能力の限界と見て2B級の評価とした。ただし、その主導とスピード・スタミナの比率や、血の流れのよさを持っている点は評価していた。昨年の海外でのGⅠ制覇は、国産馬として、歴史に名を刻むことになる。それは何よりのことだが、欲をいえば、ステイゴールド内のノーザンテーストの位置にシャトーゲイのような血が配されていれば、競走馬としても、種牡馬としても、もう一段レベルアップされた姿が期待できただろう。

▸ ステイゴールド分析表

最後に主導のMahmoudについても、簡単に触れておきたい。Mahmoudは、父Blenheim、母Mah Mahalとの間の仔で、1933年にフランスで生まれた。戦績は11戦4勝で、英国ダービーをレコードで制した芦毛の名馬。祖母がスピードのMamtaz Mahalで、ダービーをレコード勝ちしたことから、スピード馬のイメージを持たれがちだが、自身の血統構成は、St.Simonを主導に、Gainsborough、Blandfordを強調した配合で、スタミナ優位。このスタミナが、英ダービーで、早めにスパートし、サバイバルレースのような展開を粘りきった血統的要因になっている。

これまでに何度か解説したが、Mahmoudを主導とした配合馬は、飛びのきれいな馬が多く、重馬場を不得手といしている馬が多い。マンハッタンカフェなども、そうした影響を受けている1頭といえるかもしれない。

 ▸ Mahmoud分析表

 

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