久米裕選定 日本の百名馬

シンボリクリスエス

父:Kris S. 母:Tee Kay 母の父:Gold Meridian
1993年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:G1有馬記念・2回、G1天皇賞・秋・2回

▸ 分析表

シンボリクリスエスのデビューは、平成13年(2001年)の10月、東京芝の1600m戦。4番人気ながら、中団から抜け出して1着。その後休養に入り、年が明けてから本格的に始動し、青葉賞を制してダービーに駒を進める。このときのダービーは、タニノギムレット、ノーリーズンについで3番人気の支持を受ける。レースは、やや遅いペースで流れ、少し早めに仕掛けたシンボリクリスエスは、タニノギムレットの2着と好走した。

秋は、菊花賞には向かわず、天皇賞→JC→有馬記念の路線を選択する。ダービー後にタニノギムレットが故障・リタイアしたために、シンボリクリスエスは、同期の代表馬として、天皇賞そして暮れの有馬記念を制し(JCは3着)、年度代表馬に選出される。

古馬になったシンボリクリスエスは、休養明け初戦に宝塚記念に挑戦し、1番人気に推されたが、ヒシミラクルの5着と敗退。秋に再起をかけ、3歳時と同様に、天皇賞→JC→有馬記念という路線を選択した。

初戦の天皇賞は、1分58秒0のレコードで制し、復活を果たした。しかし、続くJCは重馬場で、持ち前のスピードを発揮することができず、タップダンスシチーの逃げ切りにあい、大差の3着と敗れ、前年のリベンジを果たすことはできなかった。

そして迎えた有馬記念。前走のうっぷんを晴らすかのように、こんどは2着のリンカーンに9馬身差という有馬記念史上最高の着差をつけ完勝(それまでの記録は、カブトシローの6馬身差)。おまけに、2分30秒5というレコードも記録し、派手なパフォーマンスでラストランを飾って引退した。そして期待を担って、種牡馬入りを果たす。

《競走成績》
2~4歳時に走り、15戦8勝。主な勝ち鞍は、天皇賞・秋(G1・芝2000m)2回、有馬記念(G1・芝2500m)2回、青葉賞(G2・芝2400m)、神戸新聞杯(G2・芝・2000m)など。

父Kris S.は米国産で、重賞勝ちはなく、5.5F~9Fの距離で5戦3勝。成績は平凡だったが、種牡馬として実績を残している。Hail to Reasonの流れを継ぐ英国ダービー馬Robertoの直仔という評価から、種牡馬入りを果たし、英ダービー馬のKris Kinや、日本に種牡馬として輸入されたブロッコ(BCジュヴェナイル)、競走馬として輸入されたマチカネアレグロ(アルゼンチン共和国杯)らを出している。93年には、北米のリーディングサイヤーになった。

Kris S.自身の血統構成は、別紙の血統表の通り。Roberto内のMan o’War、Fair Playはもとより、Nearco、Blandford、The Tetrarchなどもクロスにならず、Robertoのよさは半減している。実績通り、血統構成レベルは凡庸な内容であった。ただし、Bull Dogの母系を系列ぐるみとして、St.SimonとGalopinの土台構造がしっかりしていたことは、読み取ることができる。この土台の確かさということは、種牡馬としての必要条件の一つであり、成功する種牡馬は、まずこの条件が満たされている。Kris S.は、その要件を備えたいたのである。

自身の血統構成を、8項目で評価すると、以下のようになる。
 ①=□、②=△、③=○、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=6~9F

▸ Kris S.分析表

母のTee Kayは、米国産で、マーサワシントンS(G3)を含め6勝。その父Gold Meridianは、G3―2着の戦績がある程度で、血の質そのものは、これといった強調できる要素は少なく、米三冠馬のSeattle Slewの血が目立つぐらいである。シンボリクリスエスが、デビュー戦で4番人気だったのも、一般的な血統背景が地味だったためだろう。

母Tee Kayの血統を8項目で評価すると以下の通り。
 ①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=△、⑥=△、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=6~9F

▸ Tee Kay分析表

Francis S.のスピードと、Alibhaiのスタミナが能力の源泉となっているが、全体のバランスはいま一つである。そうした父母の間に生れたのが、シンボリクリスエス。

まず、前面でクロスしているのが、Royal Chargerの5×5の系列ぐるみで、主導勢力を形成し、Turn-to、Francis S.のスピードを再現している。次いで、Nasrullahの5×6・6の系列ぐるみによってスピードをアシストし、Bull Dogの5・6・6・8×7・9・9・9の系列ぐるみに、Plucky Liegeのクロスが加わり、スタミナを供給している。

そして、Traceryの6×7・8が系列ぐるみとなり、隠し味的なスタミナ源として、能力参加を果たしている。このTraceryのクロスは、その父Rock SandがMan o’Warと結合を果たし、シンボリクリスエスの配合において、欧米系の血を連動させる上でも、重要な役割を果たしている。

決してバランスのよい配合とはいえないが、父Kris S.の持つ、しっかりとした土台構造の上に、Kris S.内のMan o’Warを補い、Royal Chargerを通じて、Francis Sのスピードを取り込めたこと、そこがシンボリクリスエスの配合の見どころである。

以上を8項目に照らすと以下の通り。
 ①=○、②=□、③=○、④=○、⑤=△、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=8~10F

シンボリクリスエスは、スピード優位の日本適性を持つマイル・中距離型というのが、勝ち上がり当初に下した診断であった。有馬記念の2連覇は、中山の2500mという特殊なコース取りと展開が有利に。血統的には、TraceryやPlucky Liegeのスタミナ効果が引き出された結果と考えられる。

とはいうものの、宝塚記念やJCでの2度の敗戦は、配合バランスの悪さや、スタミナ不足が原因と考えられ、シンボリクリスエスの血統構成は、やはりマイル~中距離型というのが、IK理論から見た評価になる。同世代の中では、「百名馬」で解説したタニノギムレット(1A級)の血統構成がもっともすぐれており、もしも同馬が無事であったならば、シンボリクリスエスの戦績もかわっていたはず。

参考までに、英ダービーを制したKris Kinの血統表を掲載しておいたので、Kris S.の生かしかたや、スタミナ比率を比較していただきたい。

Traceryは世代ずれを起こしているため、その効果は微妙だが、Nasrullahの主導を明確にして、Bull Dog、Plucky LiegeにGay Crusader、Admiral Drakeが加わり、同父産駒としては、シンボリクリスエスよりも、スタミナのしっかりした血統構成を示している。

8項目評価は以下の通り。
 ①=○、②=△、③=○、④=□、⑤=□、⑥=○、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~11F

▸ Kris Kin分析表

シンボリクリスエスはラストランの有馬記念を大差勝ちした印象もあって、スピード・スタミナ兼備の種牡馬と期待された。あるいは、現在流行のMr.ProspectorやNorthern Dancerを含まない構造から、交配範囲の広いタイプの種牡馬して、初年度から人気を得た。確かに、欧州系のスタミナに、米系のスピードを合わせ持つという利便性は読み取れる。しかし、それを有効に活用できるか否かの構造的な課題が残されていることも確か。その主な理由は、母の父Gold Meridianの血の質と、世代の後退にある。

Gold Meridianの血統構成については、影響度数字の00⑤⑤が示す通り、Seattle Slewのよさは半減し、全体のバランスが崩れている。しいて見どころをあげれば、Spy Songのスピードの確保と、クロス馬の種類が少ないこと。しかし、これも世代ズレがもたらした結果であり、血統構成レベルでいえば、理論上は1B級あたりである。

▸ Gold Meridian分析表

こうした崩れた構造を完全に修復することはまず難しく、ここがシンボリクリスエスの種牡馬としての大きな不安要因となっている。となれば、この不備を補うためには、どのような配合を心がけるべきか。ポイントを整理すれば、以下のようになるだろう。

① Hail to Reasonに着目して、欧米の血をまとめる。
② Francis S.に着目して、スピード勢力を集める。
③ Tom FoolとBull Dog-Teddy系による異系交配。
④ 優秀な繁殖牝馬内で血をまとめる。

幸い、期待値の高さもあり、上記④については、質の高い牝馬が多く配されている様子。初年度種付頭数も150頭と多く、ある程度の勝ち上がりは、確保できるかもしれない。

しかし、G1ロードに参戦してくるようなオープンクラスを輩出するかとなれば、その確率は低くなるように思える。Gold Meridianの悪い影響が大きくならないことを願うのみである。

最後に、セレクトセールで2億円を超える価格で落札されたラインクラフトの半弟ダノンマスターズの血統表を掲載しておくので、参照していただきたい。この配合は、前記の①と④を満たし、方向性としては間違っていない。シンボリクリスエス産駒としては、一つの典型パターンの様相を呈している。

8項目評価、以下の通り。
 ①=○、②=□、③=□、④=□、⑤=□、⑥=△、⑦=○、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=8~10F

新馬戦は、1番人気で7着と敗退しているが、シンボリクリスエスの種牡馬適性を知る上で目安となるだけに、今後の走りに注目してみたい。

▸ ダノンマスターズ分析表

以下、羽鳥補足:

ダノンマスターズは、最終的に中央24戦1勝という平凡な戦績で引退している。しかし、途中で去勢されたことなどを考慮すると、気性に何らかの問題を抱えていたのかもしれず、それが完全開花を妨げた血統的な要因とも考えられる。

参考までに、シンボリクリスエスの主な活躍馬を挙げておこう。

《種牡馬成績》
主な産駒は、エピファネイア(G1ジャパンC、G1菊花賞)、サンカルロ(G2阪神C・2回)、サクセスブロッケン(G1フェブラリーS)、ストロングリターン(G1安田記念)、ルヴァンスレーヴ(G1チャンピオンズC)など。

確かに、代表産駒のエピファネイアが芝のG1で2勝、ストロングリターンがG1安田記念を制してはいるが、そのほかのG1馬はダートタイプで、意外に芝のG1勝ち馬は多くない。これには、やはり、久米先生が案じていたGold Meridianの影響が影を落としていると言っても過言ではないだろう。

ちなみに、エピファネイアは、Hail to Reason4・7×5・6の系列ぐるみで全体をリードした形態で、これに父の母方Francis S.内のRoyal Chargerや祖母内Turn-toがスピード勢力として続いている。シンボリクリスエスへの推奨される配合の①のパターンである。

▸ エピファネイア分析表

 

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