久米裕選定 日本の百名馬

テイエムオペラオー

父:オペラハウス 母:ワンスウェド 母の父:Blushing Groom
1996年生/牡/IK評価:3B級
主な勝ち鞍:G1皐月賞、G1天皇賞・春2回、G1宝塚記念、G1ジャパンカップ、G1天皇賞・秋

▸ 分析表

テイエムオペラオーのデビューは、平成10年(1998年)の8月、京都芝1,600mの新馬戦で、結果は2着。その後体調を崩して休養に入り、勝ち上がったのは、翌平成11年の2月、3戦目になる京都ダート1,800mの未勝利戦であった。続く特別(ゆきやなぎ賞・芝2,000m)、重賞(毎日杯・芝2,000m)を連勝。一度はあきらめていたクラシック戦線だったが、皐月賞の出走資格を得たために、追加登録料を払って参戦することになった。

皐月賞での1番人気は、前年のたんぱ賞を制したアドマイヤベガで、2番人気が、きさらぎ賞、弥生賞を連勝して臨んできたナリタトップロード。以下マイネルプラチナム、ニシノセイリュウと続き、テイエムオペラオーは5番人気という低評価であった。しかし、後方からレースを進めたオペラオーは、大外一気の脚を使ってライバルたちを押さえ込み、みごとに優勝を果たす。すべり込みで出走権を得た幸運を味方に、クラシックホースの栄誉を手中におさめた。

続くダービーはアドマイヤベガの3着に敗れ、秋の菊花賞もナリタトップロードの2着。そして、ステイヤーズSも、ペインテドブラックの2着に敗退し、やや評価を落としていた。暮れの有馬記念では、古馬のエースであるグラスワンダー、スペシャルウィークと接戦を演じ、3着と好走し、古馬になってからの飛躍が期待された。

そして、古馬になってからのテイエムオペラオーは、京都記念を皮切りに、春・秋の天皇賞、宝塚記念、JC、そして有馬記念までG1を5連勝し、シンボリルドルフ、ナリタブライアンのG1・4連勝を上回る新記録を樹立。その他にも、初の秋のG1・3連勝(天皇賞、JC、有馬記念)、そしてJRA重賞8連勝(タイキシャトルと並ぶ)を記録し、堂々の年度代表馬に輝く。

海外遠征プランもあったが、5歳になったオペラオーはそれを取りやめ、再び国内レースに参戦。4歳時の勢いはなくなっていたものの、春の天皇賞を制し、7戦2勝。5着に終わった有馬記念を最後に引退した。歴代賞金王トップの実績も残し、種牡馬入りを果たす。

《競走成績》
2~5歳時に走り、26戦14勝。主な勝ち鞍は、皐月賞(G1・芝2,000m)、天皇賞・春(G1・芝3,200m)2回、宝塚記念(G1・芝2,200m)、天皇賞・秋(G1・芝2,000m)、JC(G1・芝2,400m)、有馬記念(G1・芝2,500m)など。

《種牡馬成績》
テイエムトッパズレ(東京ハイジャンプ・J.G2)やテイエムヒッタマゲ(OP昇竜S )、メイショウトッパー(北九州短距離S)を出した程度で、平地の重賞勝ち馬はなし。

父オペラハウスは、英国産で18戦8勝。主な勝ち鞍は、キングジョージ6世&クイーンエリザベスS(G1・12F)、エクリプスS(G1・10F)、コロネーションC(G1・12F)、ロジャースGC(G2・10F)など。5歳で本格化し、キングジョージで、英ダービー馬のコマンダーインチーフ、伊ダービー馬のホワイトマズルらを破っている。凱旋門賞はアーバンシーの3着、BCターフはコタシャーンの8着。

主な産駒は、テイエムオペラオーの他、メイショウサムソン(皐月賞、ダービー、天皇賞)、ニホンピロジュピタ(南部杯、エルムS)、アクティブバイオ(日経賞、アルゼンチン共和国杯)、オペラシチー(目黒記念)など。

オペラハウス自身の血統構成は、Nearcoの4・7・7×6・7の系列ぐるみを主導に、Nearcticを強調した形態。Mahmoudのスピードに、Djeddah-Djebelのスタミナを補給。Native Dancer内の米系に不備をかかえたことで、頂上対決では、ひと息決め手を欠くものの、スタミナは欧州の質の高い血を能力参加させることに成功している。それら遅咲きの血を引き出されたことが、古馬での実績に結びついたと考えられる。その母のColorspinは愛オークス馬で、Hurry Onを伴うCourt Martial主導。欧州系の典型的パターンの血統構成を示していた。

オペラハウスの血統構成を、8項目に照らして評価すると以下の通り。

 ①=○、②=○、③=○、④=△、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=○
 総合評価=1A級 距離適性=10~15F

▸ オペラハウス分析表

母ワンスウェドは不出走。父Blushing Groomとその母Nouraの間で世代ずれを生じ、競走馬としては信頼に欠ける形態で、不出走というのも、それが影響していたのかもしれない。そのかわり、Menowのスピードに、Blenheim-Blandford系のスタミナ、Princequillo、Man o’Warなど、時代の要求や趨勢に見合った血を内包していたことは、確認することができる。そうした父母の間に生れたのが、テイエムオペラオーである。

まず前面でクロスしているのは、Nasrullahの7×4・5の系列ぐるみで、これが主導勢力を形成。これにMahmoudの6・7×7が、Blenheimによって結合し、Owen Tudorの7×6の系列ぐるみも、Pharosを通じて結合して、それぞれスピード勢力として能力参加を果たしている。スタミナは、Wild Riskの6×4(中間断絶)とUmidwarの8×6の系列ぐるみで、これらはRabelaisやBlandfordによって主導と結合し、スタミナを補給している。

その他では、隠し味的に、Papyrus、Gay Crusaderがクロスとなり、スタミナアシストの役割を果たしている。全体的なバランスとしては、父の影響力が弱くなっているが、強調されたBlushing Groom内のスピード・スタミナのキーホースは押さえられている。とくに古馬となってからの安定感の血統的要因は、Wild Riskのスタミナが引き出された結果と考えられる。

この配合の問題点は、母の母Noura内に配されている米系のMan o’War、およびBMS内Nasrullahクロスの効力にあった。母内でこれらに呼応する血は、オペラハウス内ではMan o’Warが9代目に1つ、そしてNasrullahが7代目に1つと、それぞれ奥まった位置にあることが、その理由である。それと、オペラハウス自身のスタミナ源であったDjeddah、Djebelがクロスとなれず、そのよさが反映されることなく、バランスを崩していたこと。これらのことを勘案して、8項目評価をすると以下のようになる。

 ①=○、②=□、③=□、④=△、⑤=△、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=9~11F

以上が、勝ち上がり時点での評価である。評価だけでいえば、重賞連勝記録を残すような、名馬にふさわしい血統構成ではない。そのような配合馬が、なぜこれほどの実績を残すことができたのか、少し考察してみたい。血統・配合面からは、つぎの点があげられる。

① 父内7代目に1つしかないNasrullahクロスの効力は弱く、オペラハウスと同じく、Nearcoが主導となる。それによって、オペラハウスの血が効果的に流れ、結果として、スタミナ勢力が強められた。
② 父内9代目に1つのMan o’Warは、9×7・7と奥まった世代のクロスではあるが、Discoveryの6×7クロスによって、Fair Play系は生きる。それに伴い、Man o’Warクロスも効力を発揮し、Man o’War-Fair Play-Rock Sand-Sainfoin、およびPapyrus-Tracery-Rock Sand-Sainfoinが連動すると同時に、Nearco内のSainfoinとも結合を果たす。

つまり、このことにより、母ワンスウェドがかかえている米系の不備とバランスの崩れが解消され、スピード・スタミナがアシストされる。

以上の考察は、テイエムオペラオーが3歳秋になった時点で行い、『クラシックロード』の展望記事の中でも、「今後の走りの変化に注目する」と見解を述べておいた。

この①と②の検証から、8項目評価を④が△→□、⑤△→□、⑧□→○として、総合評価=3B、距離適性=9~12F、という評価に変更させていただきたい。

テイエムオペラオーが古馬になり、春の天皇賞で3,200mの距離を克服できた血統的要因は、①②の検証から読み取ることのできるスタミナが開花した結果と考えられる。

血統外の要因としては、スペシャルウィークや同期のアドマイヤベガが引退したことや、グラスワンダーの故障など、相手関係にめぐまれたこともあげられる。4歳時のJCなども、参戦した外国馬のレベルは、他の年度に比べると極めて低かった。また、1世代下の馬たちも、皐月賞・菊花賞を制したエアシャカール、ダービー馬のアグネスフライトなどは、ともに中長距離対応馬としては、理論上スタミナ面に心配の残る血統構成馬であった。さらに、その世代の有馬記念出走馬も、アドマイヤボス、トーホウシデンなどが代表という具合に、実績的に劣る馬が選出されていた。

そうした状況を考えてみても、テイエムオペラオーが8戦8勝と活躍した2000年の競馬は、実績・実力馬の少ないエアポケットのような状態だったといえる。

もちろん、「無事是名馬」の言葉通り、テイエムオペラオーの実績は称賛に値する内容であり、悪い内容の配合馬ではないことも確かである。しかし、血統構成レベルからすると、G1を7勝というのは、運を味方につけた実績であり、配合の方向性を示し、後の競走馬のレベルアップに役立てられるような血統構成ではないことも、やはり指摘しておかなければならないだろう。

G1を7勝、歴代賞金王という実績から、大きな期待をになって種牡馬入りしたテイエムオペラオーだが、自身とはまったく逆のタイプのスプリンター、メイショウトッパーを出したものの、中長距離タイプでは、これといった産駒はまだ出していない(冒頭の種牡馬成績で挙げたとおり、けっきょく平地では1頭の重賞勝ち馬も輩出することはできないまま、2018年5月に死亡)。そして、そのことは、あらかじめ予測することができた。その主な理由は、以下に要約できる。

① 自身がかかえていた父母間の世代のずれ
② 母ワンスウェドの米系の不備
③ 日本の芝に対応するスピード要素の不足

スプリンターのメイショウトッパーは、Bold Rulerクロスによって、スピードを前面に備え、母内で血をまとめたことで、世代のずれの影響を修正している。このことは、①~③の留意点を、結果として解消したことになるが、オペラオーのスタミナ要素を取り込めなかった点は、配合として不完全である。とはいうものの、①~③を完全に補うことは難しく、種牡馬としての適性を検証することで、改めてテイエムオペラオー自身の配合内容に、世代の統一の欠如、8~9代の土台構造の弱さなどの問題が露呈してくる。

▸ メイショウトッパー分析表

このタイプの種牡馬は、自身の中で血をまとめることが難しく、配合相手となる繁殖牝馬の選択の範囲が狭くなる。とすれば、テイエムオペラオーのスタミナを生かし、スピードを引き出すためには、どのような血の傾向を持つ繁殖牝馬が合うのか。解りやすい例として、ウオッカの母タニノシスター、アドマイヤムーンの母マイケイティーズとの交配を考えてみたので、その分析表を参照していただきたい。

■テイエムオペラオー×タニノシスター
 ①=○、②=□、③=□、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=○、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~12F

▸ 分析表

■テイエムオペラオー×マイケイティーズ
 ①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=3B級 距離適性=9~11F

▸ 分析表

前者との配合は、開花に手間どり、日本の芝のスピード対応面で苦戦を強いられるかもしれないが、現役中長距離陣なら、オープン下位レベルは確保される。後者の配合は、タニノシスターよりも劣るが、仕上げ易さや、スピード対応面では前者に勝る。現役中距離の準オープンレベルは確保される。

ともにバランスはとれているので、開花後の安定感も期待できる血統構成といえるだろう。

最後に、テイエムオペラオーの同期馬たちの配合に触れておこう。

■アドマイヤベガ
 ①=□、②=□、③=○、④=□、⑤=○、⑥=□、⑦=□、⑧=○
 総合評価=3B級 距離適性=8~11F

Almahmoudを主導として、Haloを強調。トニービンの持つスタミナを完全に再現できなかったことが、3歳秋以降の成長力に対してマイナスに作用した。長所は結合力とスピードの再現。ダービーで見せた差し脚が、それを反映していた。中距離レースでの決め手は、テイエムオペラオーよりも上。ただしスタミナは劣る。

▸ アドマイヤベガ分析表

■ナリタトップロード
 ①=○、②=□、③=□、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=9~11F

Tourbillon、Fighting Foxのスタミナアシストが、菊花賞制覇を演出した原動力。マイナスは、母内AffirmedとDouble Jay内の米系の不備で、古馬になってG1レースで決め手不足だった原因は、この部分にあったと思われる。

▸ ナリタトップロード分析表

■メイショウドトウ
 ①=□、②=□、③=□、④=△、⑤=□、⑥=□、⑦=□、⑧=□
 総合評価=2B級 距離適性=9~10F

BMSのAffirmedはナリタトップロードと同じで、この血の生かしかたに関しては、当馬のほうに分があり、底力に通ずる要素でもある。決め手を欠いたのは、欧米       
系の連動の弱さと、血の統一性を欠いたことによる。このことは、種牡馬としての不振要因にもなっている。

▸ メイショウドトウ分析表

 

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